日本で唯一。4種類の飼育方法を見られる鶏舎「Unshelled」が目指すもの
INTERVIEW

2026.09.26

日本で唯一。4種類の飼育方法を見られる鶏舎「Unshelled」が目指すもの

「畜産の裏側を見られる機会はなかなかないので、こういう風にして食卓に流れてるんだ、と知ることができてよかった」――。

アニマルウェルフェアを学ぶ現場に触れて、感銘を受けたアリスさん。

では、そもそもアニマルウェルフェアとはなんなのか? より学びを深めるべく、東京農工大学大学院農学研究院・新村毅教授と、動物福祉モデル鶏舎「Unshelled(アンシェルド)」を活用した法人・団体向けアニマルウェルフェア体験型教育プログラムの提供を行うLively合同会社の三浦友見さん、種田毅さんにお話を伺いました。

日本でケージ飼いが多い背景とは?

東京農工大学大学院農学研究院・新村毅教授

――アニマルウェルフェアについて、改めて最低限知っておいたほうがいいポイントを教えてください。

新村さん:簡単に言うと、「動物の幸せ」ということです。私たちがそうであるように、ストレスを感じる、ポジティブな話で言うと喜びを感じる、その足し算になります。できるだけストレスを減らすのと同じぐらい、鶏が喜びを感じる…例えばジャンプをしたり、止まり木に止まって休むような環境、喜びなどポジティブなものを増やしながらネガティブなものを減らしていくことによって、アニマルウェルフェアというのはどんどん高度にすることができます。ケージはケージでアニマルウェルフェアを達成できる部分はたくさんあるんですけど、より鶏の喜びを増やしてあげようとなると、止まり木や巣箱をつけないわけにいかなくなるので、より高度にするならば、ケージフリーという選択肢が出てくるかなと思います。

アリスさん:日本でケージフリー100%というのは難しいところなんですね。

三浦さん:今は96%がケージ飼いなので、たった4%の平飼いを100%まで到達させるのは難しいかもしれません。さまざまな要因として、やはり価格の問題があります。ケージを平飼いにすると当然ながら今の卵の販売価格では無理です。価格が2倍、3倍となると消費者がそもそも許容できるのか。生産者にとってはひとつの飼育スペースの中で飼える鶏の数が変わると卵の数も変わるので、それが利益に直結するとなると、果たして生産者をそこまで守るような取り組みがあるのか、という問題もありますね。

Lively合同会社・三浦友見さん

新村さん:ヨーロッパは畜産できる土地が広いんですけど、日本はどうしても山が多いので土地が少ないんです。日本人は世界で2番目に卵の消費量が多いということと、土地柄もあって、ケージがどんどん流行っていったという経緯はあると思います。ケージフリー100%が実際どうなるかは分からないんですけども、ある程度制約があるので、例えば平飼いよりも多段式の放し飼い4段、5段にするとかですかね。限られた土地ではあるんですけど、できることもあるというのもまた事実だと思います。

アリスさん:買い手の意識によって変わることもありますよね。

種田さん:若い世代に動物や環境に優しい製品を選びたいという人が結構増えてきてますね。買い手の意識の変化を親が感じ取ることもありますし、企業は敏感に見ています。金融機関も最近は平飼いのほうに移行する生産者を支援するようなファイナンスを作ろうという動きもあります。あとは、海外の動きが大きいですね。日本企業もグローバル化している中、海外の顧客や投資家からアニマルウェルフェアについて指摘されて意識が変わっていくような企業も多いので、買い手の意識と企業の意識、生産者や金融機関、国、いろんなところが徐々に変わってきている段階なのかなと思います。

スローながらも進んでいるアニマルウェルフェア

――徐々に変化してきている段階とのことですが、日本のアニマルウェルフェアの現状をみなさんはどのように捉えていらっしゃいますか。

三浦さん:なかなか欧米とかと比べるとスローだな、とは思うんですけど、スローながらも進んできている現状はありますね。いろいろな方々に、アニマルウェルフェアという言葉を知っていただいたり、今回、キレイノートさんとご一緒させていただく機会があったのも非常に新しいところですよね。

新村さん:5年ぐらい前までは、アニマルウェルフェアを知っている人が5%だったのが、数年で20%ぐらいまで増えています。認知度は明らかに上がっているな、と実感しています。

種田さん:まずは現状を知ってもらって対話をするとか、そういうステップが大事なのかな、と思っています。我々としても新村先生と一緒にこのUnshelledを対話の場としていまして、飼い方が4つ(平飼い、エイビアリー、エンリッチドケージ飼育、ケージ飼育)ありますけど、どれが正解かは言わないようにしているんです。どれもメリット、デメリットがあるということをまず知ってもらう。その上で対話をしてもらうことが大事なのかな、と思っています。

Lively合同会社・種田毅さん

――Unshelledでは具体的にどういった取り組みをされているのか改めて教えてください。

三浦さん:新村先生はアニマルウェルフェアの研究に加えて私たちと共にアニマルウェルフェアの体験型教育プログラムを共同開発・実装をしています。2025年1月に鶏舎が竣工、1年前に鶏舎が完成し、だいたい鶏舎の見学自体は2000名ほど、体験型教育プログラムは250名ぐらいの方々に来ていただいています。主に団体向けなんですけど、例えばアニマルウェルフェアをサステナビリティ、そして経営課題と結びつけて、プラス新村先生の専門であるアニマルウェルフェアの科学というところで、いろいろな視点を提供するために、それぞれちょっとずつカスタマイズする形でご提供させていただいています。

アリスさん:そんなにたくさん興味をお持ちの方がいらっしゃるというのは、希望ですね。

種田さん:多分、都会の子ほど生産の現場とか、自分が食べているものがどこから来ているのか想像が湧きにくいと思いますので、そういう食育の場にもなればいいなと思っています。今日は卵がどこから来たのか、という問いかけがありましたけど、まさにそういうことを感じながら知る場になればいいなと思いますし、鶏だけじゃないですね。野菜とかお米とか、いろんなものについても同じようなことが大事なのかなとは思っています。

――手応えは感じていらっしゃる?

三浦さん:そうですね。毎回、反響というか嬉しい笑顔を残していただいて、また来たいとおっしゃってくださるのが喜びに変わっているような気がします。

アリスさん:興味を持っていても、どこに行って何が見られるのか分からないので、こういうふうに開放していただくと一般の方は喜ぶと思います。私もすごく嬉しかったです。

――今後、目標としている姿を教えてください。

新村さん:アニマルウェルフェアを核としながらも、人も地球も一体となってワンウェルフェアというのを考えていきたいという思いはずっとあります。アニマルウェルフェアがひとつの文化として根付いてほしいという思いもありますし、動物はもちろん、食べる人もハッピーになってほしい。一体となってアニマルウェルフェアというものを考えて、Unshelledがみんなで議論できるような場であってほしいな、というのもあります。

――この記事を読んで興味を持たれる方もきっといらっしゃると思うんですけど、自分にできることをしたいと思った時に、まず何からトライすればいいのでしょう?

三浦さん:今回のサマースクールでのアクティビティ、「未来のたまごパッケージを作ろう」でも扱ったのですが、スーパーに並ぶ卵には様々な特徴や販売する際のコンセプトがあります。環境に優しいものにするのか、鶏に優しいものにするか、栄養素を訴求するのかというところで、その背景にはこういった飼い方の違いがあるというところをまず認識した上で選択するだけでも大きな一歩です。あとは、安く売られている卵にはそれなりの事情があるというところもそのひとつです。その購買の選択が次世代の卵の価格やケージフリーの普及率といったいろいろな要因に絡んでいく、とまずは知ってもらうというところが一番重要なのかなとは思います。

イベントがいろんな人とアニマルウェルフェアについて話すきっかけになれば

種田さん:鶏との触れ合いじゃないでしょうか。やっぱり五感で感じながら学んでいただけるというのがUnshelledのひとついいところなので、それを今日は存分に味わっていただけたと思います。

――お子さんたちの反応として印象的だったのはどういったところでしょう?

種田さん:質問の中でも鋭い指摘が結構ありましたね。多分子どもなりに推理を働かせて考えるきっかけになったんじゃないかなと思います。イベント後も鶏はこのあとどうなるのかとか、インフルエンザになったらどうなるのかとか、生産者はどの辺が一番大変なのかとか…鶏の立場とか、生産者の方の視点にも立つきっかけになった子はいたんじゃないかなと。 普段の生活では見落とされがちだけど大切なことを考える機会になったと思います。

三浦さん:情報をもらう時間が短い中でも一生懸命考えてパッケージを作っていらっしゃったのが印象的でした。例えば環境に関心がある子は、環境に配慮した優しい鶏といるようなパッケージを作られたり、お店の人の立場になって考えた時に、もう少し卵のおいしさが伝わるような、消費者にとって魅力があるパッケージを作ったり。あと、ちゃんと色とかデザインを考えて、魅力的なデザインのパッケージを作る方々がいらっしゃったり、いろいろ個性が出ていて、パッケージ自体もユニークで良かったなと思っています。

新村さん:やっぱり体験型っていうのが非常にいいかなと思っています。今の時代、YouTubeとか動画がたくさんあるんですけど、ここに来て、感じてくれる子どもたちがいたということがすごくありがたいです。あとは子どもはアニマルウェルフェアそのものに共感してくれるけど、やっぱり親御さんになると、子育て世代なので、リアルな価格を考えて、バランスを考えていくというのが、目線が全然違っていて、非常に興味深かったなというのが個人的な感想ですね。

――今回のイベントで伝えたかったメッセージが届いた感触はありますか?

種田さん:日常の買い物で何を選ぶか、などを意識してもらうきっかけになったと思います。いつもは食べ比べが人気なんですけど、今日は鶏とのふれあいが人気でしたね。

新村さん:やっぱり、鶏舎の中に入っているからですかね。

三浦さん:いつも鶏舎に入れるというわけではなく、サマースクールの体験として、この日は特別に開放しました。鶏が間近で見られるというところはすごくよかったみたいですね。

種田さん:今日は親子で学ぶというイベントが初めてだったんですが、それがすごくよかったと思いますね。食卓で話したりとか、学校でちょっと話したりとか、親御さん同士でも話したりとか、いろんなきっかけが生まれると思うので、それで少しずつ広がっていけばいいのかなと思います。

撮影/渡会春加
取材・文/ふくだりょうこ

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