絵を“観る”だけではもったいない。パリのルイ・ヴィトン財団で学ぶ、アートのある暮らし
LIFESTYLE

2026.11.09

絵を“観る”だけではもったいない。パリのルイ・ヴィトン財団で学ぶ、アートのある暮らし

パリのルイ・ヴィトン財団。美術館として開かれているこの場所で、2026年10月9日から、興味深い企画展がスタートしました。

タイトルは、「Gustave Fayet : Collectionneur – Créateur. Icônes de l’art moderne(ギュスターヴ・ファイエ:収集家にして創造者。近代美術のアイコンたち)」です。

ゴッホやゴーギャンを見出したという、稀代の美術コレクター、ギュスターヴ・ファイエ。しかし彼の魅力はそれだけではありません。家具やタペストリー、陶器そしてテキスタイルまで、暮らしの空間そのものを美しくした人なのです。

ルイ・ヴィトン財団(Fondation Louis Vuitton)

コレクターとしてのギュスターヴ・ファイエ

20世紀初頭に活躍したコレクター、ギュスターヴ・ファイエ

画家ではなく、美術コレクターにフォーカスを当てた企画展――。何とも意外ですが、これは最近のパリの大型美術館でよく見かける内容です。絵を描く人以上に、「それを集めて世に広めた人の想いも紹介していこう」という、非常にフランスらしい着眼点。というのも、フランスでは「アートを支える人」にも、しばしば強いスポットライトが当たるためです。

ギュスターヴ・ファイエもコレクターでありながら、画家・陶芸家・装飾美術家といったジャンルを横断するアーティストでした。

さて、今回の企画展ではまず、「ファイエがどれほど先見の明をもった収集家だったか?」に焦点が当てられています。その画家たちは今で考えると、驚くほどの顔ぶれでした。

■フィンセント・ファン・ゴッホ

ファイエは、ゴッホの作品10点を所有していました。1889年の『包帯をした耳の自画像』は、今回の展示の目玉のひとつでもあります。

生前は、たった1枚しか絵が売れなかったというゴッホ。彼は1890年に自ら命を絶っていますが、ファイエは1902年にこの絵を購入し、亡くなるまで手放さなかったそうです。

ファイエの審美眼が後世に受け継がれて、ゴッホは今や世界中の人が知るアーティストに。「画家が画家として名を残すには、コレクターの力がやはり不可欠なのだ」と、ここでも深く感じました。

■ポール・ゴーギャン

ファイエは、当時はまだ評価の定まっていなかったゴーギャンの作品も、100点近く所有していたそうです。さらに、彼はゴーギャンを経済的に支え、作品を世に広めることにも尽力しました。

ファイエは他にも、アンリ・マティス、ポール・セザンヌ、エドガー・ドガ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックなど、当時はまだ十分に評価されていなかった画家たちの才能を、いち早く見出しています。

そんな彼の肩書、今の言葉でいうなら「プロデューサー兼PR」にあたるでしょうか。“画家を支えた側にあえてフォーカスする”という、非常に切れ味鋭い企画展のスタートでした。

アーティストとしてのファイエ

ファイエの作品325点も展示されていました

さらに驚いたのは、ファイエ自身も優れたアーティストだった、という事実です。絵画、陶芸、タペストリー、壁紙、本の挿絵などを手がけていた、まさに正真正銘のマルチクリエイター。写真にある絨毯も、ファイエ自身が制作したものでした。

ファイエ自宅の壁

さて、冒頭で、ファイエは「暮らしの空間そのものを美しくした人」だとご紹介しました。そんな彼の美意識には、大きくわけて5つの特徴があります。

  • ・当時、絵画は展覧会で鑑賞するものという概念を捨て、家の中に芸術を並べた
  • ・風景画を積極的に取り入れ、その美しさをテキスタイルにも展開した
  • ・絵画と工芸の間に上下関係をつくらない
  • ・毎日手に触れるもの、使うものにも美は宿るという考え
  • ・美しい暮らしを時間をかけて育てる

特に、「風景画を積極的に取り入れ、その美しさをテキスタイルにも展開した」ことに関しては、現代に生きる私たちにも実践しやすいかなと感じました。たとえば、お気に入りの絵画を壁にかけて、それと同じ配色のカーテンをチョイスする…などなど。

「美しいものを所有する」だけでも十分に豊かな人生ですが、「目に入るものが自分にとって全部美しい」のであれば、さらに理想的ですよね。

美を集める人から、生み出す側へ、そして暮らしに落とし込んでまた伝える人へ。きっと、これがファイエの生き方だったのでしょう。

フランスで思う暮らしの美

実際に、フランスで暮らしていて思うことがあります。それは、「絵の飾り方が本当に素敵」なこと。もちろんフランス人全員ではありませんが、彼らの辞書には「無難」の字がないように思います。

絵だけでなく、テーブルクロスも、カーテンも、ランチョンマットの色選びも大胆だったりするフランス人。「自分の好きなモノこそがいちばん美しいのだ」という美意識を、今回あらためてファイエからも教えてもらったような気がしました。

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