<#巡る滋賀>想いを形にする「雛匠 東之湖」のオーダーメイド雛人形

<#巡る滋賀>想いを形にする「雛匠 東之湖」のオーダーメイド雛人形

滋賀県の最大の魅力といえば、滋賀県の代名詞でもある日本最大の湖・琵琶湖。その他、国宝の「彦根城」やユネスコ世界文化遺産の「比叡山延暦寺」など一度は訪れたい観光スポットもまた有名です。

でも、それだけではありません。有名観光スポット以外に焦点を当て深掘りすると、まだまだ知られていない注目ポイントがたくさん! それを知らないなんてもったいない…!

この連載では、「現地の方がおすすめしたいスポットやお店、それをつくるヒトの魅力をていねいに取材し、お届けする滋賀の観光ガイド“巡る滋賀”」の情報を発信していきます。

滋賀県への旅のきっかけやガイドブックとなりますように…そんな思いを込めて滋賀県の新たな魅力をお伝えします。

爽やかな水面きらめく琵琶湖を想像させるような様々な青のグラデーション。
「そういえば琵琶湖って毎日その表情を変えていたよね。」そんな記憶を呼び起こす、どこか懐かしく、そして新しい色使い。

伝統的な雛人形といえば、男雛は黒、女雛は赤を基調とし、整った姿で静かに佇む——。
そんなイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。

しかし、その長い歴史を受け継ぐ雛人形の世界の中で、自分らしさ、そして滋賀らしさを追い求め、独自の作風を築き上げた人形師がいます。

今回訪れたのは、滋賀県東近江市に工房兼店舗を構える「雛匠 東之湖(とうこ)」。店舗に足を踏み入れた瞬間に感じたのは、そこにあるのが単なる「雛人形」ではなく、「雛匠 東之湖」という一つの世界観を持った存在であるということでした。

インタビューを通して見えてきたのは、大病と向き合った人生、人形師としての挫折、そして、人形に想いを託すお客様の存在。真摯に人形と向き合い続けてきた東之湖さんの歩みを、お伝えします。

幼少期より先代が当時京都の大手人形メーカーのマネージャーだったという環境もあり、

「普通の方より京都のお雛さん文化というか、日本の伝統文化には接してきたほうだとは思います。継ぐとか継がないとかは、当時は全く考えていませんでした。」

東之湖さんは、そう穏やかに語ります。
当時は七段飾りなど大型の雛飾りが主流で、工程は細かく分業化され、複数の職人が関わるのが一般的でした。先代はその全体を取りまとめる立場にあったといいます。
そんな世界に触れてきた東之湖さんですが、20代を迎え、自身の将来を考え始めた頃、最初の大きな転機が訪れます。

それは難病指定の自己免疫疾患を患ったことでした。

「なかなか外に出歩く、外で仕事をするとか勤めに行くとかが難しい身体になったので、屋内でできる仕事を考えた時に、雛人形を作るという道に進みました。仕方ないと言えば変な言い方になるのかな。進まざるを得ず、始めたということでしょうか。」

ここで東之湖さんはある一つの決断をします。先述のとおり、当時の職人は分業制の時代。一つの職種を極めるのが当たりまえだったのですが、
 
「先代と相談した結果、一つだけでなく色んなところを学んだ方がいい、という結論となりました。」
 
業界の将来性などを見据えたとき、1人で全ての工程を担えることができれば大量生産に頼らないものづくりができる、と考えたそうです。と同時に作家性、いわゆる個性も表現でき、かつ重要になってくることも理解することになるのですが、本当の意味での気付きはもう少しあとのことでした。

自身の個性や特徴を表現してほしいと言われても、それはなかなか難しいことなのだと東之湖さんはおっしゃいます。

「私なりの生い立ちや経歴があるのでね。でも契機になったターニングポイントはありますよ。」

京都で修行された東之湖さんは、始めの頃はやはり西陣織を使うなど伝統的でオーソドックスな雛人形を作っていました。

「それなりに評価をもらっていたのですが、20年ほど前でしょうか。東京日本橋の高島屋で催されている『大近江展』に出させてもらったときにバイヤーさんからもらった言葉が私の心に突き刺さったんです。」

百貨店の物産展はやはり売り上げが大きくものをいう世界で、売り上げのことであったり、お客様からの評価やクレームをバイヤーさんからストレートに受けることがあったそうです。

「当時、“京都のいわゆる普通のお雛さん”を作って参加した中で、バイヤーさんから『技術的なことは認めるけど、滋賀県から来てるのに一つも味がない』、『これだったら滋賀のお雛さんでなくても京都へ行って買った方がいいんじゃないか』みたいなことを言われたんです。相当悔しかったですね。」

その言葉は東之湖さんの心を揺さぶったそうです。
私の人形とは何か——。地元に帰ったあと、東之湖さんはもがき、そして問い続けます。

試行錯誤していた中での近江上布という麻布(あさぬの)との出会いは大きかったといいます。

「古来より近江は上質な布地の産地なんです。」

滋賀県の湖西には高島縮(ちぢみ)、湖北には長浜ちりめんがあり、そして湖東には近江上布があります。

「実はその存在を全然知らなかったのですが、麻布が持つ独特な質感は一つの特色になるのではと気づき、そして地元には近江上布があると知ったときには、少し霧が晴れたような心持ちになりました。」

現在も大西新之助商店の「新之助上布」を使用。その柔らかな風合い、しなやかな肌触りが東之湖さんの人形に麻特有のナチュラルでかつ上質な質感を与えてくれます。

そして「湖東地域に伝わる近江の麻を使い、びわ湖をイメージした雛人形を作ろう」と実行に移します。2004年最初に出来上がったのが、琵琶湖を連想させる青い衣裳を纏った「聖水の舞」という女雛でした。

東近江市五個荘にある近江商人屋敷に展示したところ評判になり、2006年には男雛も制作し「清湖雛」という名称でシリーズ化します。その後「六人官女」「十人囃子」また近江八景をモチーフにするなど年に数体ずつ増え、今も精力的に新作を創作されています。

また2011年に起きた東日本大震災の時には、被災地を励まし元気づけたいという想いから、「絆雛(きずなびな)」というシリーズの人形も贈られています。その想いはご自身の大病を患った気持ちを重ねていらっしゃいます。

「震災に遭われた方は一瞬にして生き方が変わられたわけですよね。私が病気になったときも同じだったんです。一晩で変わったんですよ。本当にある日、二十歳過ぎの時に突然42、3度の生きるか死ぬかみたいな熱が出たんです。」

「突然、人生が変わる。だからこそ何かをせずにはいられなかったんです。」

人形に託す想いとは?気になる続きはこちら

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