【俳優・甲斐翔真】海外旅行で感じる“世界の広さ”。「何でもない通りや生活圏がすごく面白い」
INTERVIEW

2026.08.28

【俳優・甲斐翔真】海外旅行で感じる“世界の広さ”。「何でもない通りや生活圏がすごく面白い」

朝ドラこと連続テレビ小説『風、薫る』(NHK)で主人公のひとり、直美(上坂樹里さん)の夫・小川吾郎を演じた甲斐翔真さん。あたたかい笑顔が直美のみならず視聴者の癒やしになりました。でも、第109回の放送で悲しい別れが…。

小川ロスが巻き起こるなか、次なる出演作はミュージカル『ミス・サイゴン』。長く愛されている作品で、甲斐さんは、ベトナム戦争に従事するアメリカ兵・クリスを演じます。サイゴン陥落の混乱の中でベトナム人少女・キムと恋に落ちますが、彼女をおいてアメリカに帰らなくてはならなくなるという難しい役どころに挑みます。

10代の時、サッカーをやっていた甲斐さん。スカウトで芸能の世界に入って10年、俳優の仕事に打ち込んでいます。これまでの自分、これからの自分、その真摯な思いを聞きました。

演じた吾郎の人となりがわかる、好きなエピソードは?

――朝ドラ『風、薫る』がクランクアップした時、どんな気持ちでしたか?

寂しかったですね。あっという間でした。撮影期間としては長かったのですが、最初のうちは直美の日々の生活の中の息抜きになるような役割で時々出てきて。やがて直美と結婚して、生い立ちが不幸だった直美がようやく幸せになったと思ったら、吾郎が出征して…と急展開。いろんなことが一気に進んで、気づいたらあっという間だったなと感じています。

――クランクアップはどのシーンでしたか?

吾郎が意識を失うシーンがクランクアップでした。脚気が進行し、負傷兵として病院に運ばれて、意識を失ったまま、その日の夜に亡くなるというシーンです。日本に帰ってきているにもかかわらず、直美と会えずに死んでいったことが切なくて。しかも、看取ってくれたのがまさかの多江さん(生田絵梨花さん)。直美にも生まれた子どもにも会えずに…。波乱万丈だった直美が結婚して子どもができてようやく幸せになる、救われると思った矢先に亡くなってしまうので、小川吾郎として申し訳ない気持ちでした。

――戦争の悲しさが一層強く伝わってくる役割ですよね。

最期まで吾郎らしいと思いました。僕の好きなのは、軍服のボタンをわざと取るところです。直美さんがボタン付けをしている姿が愛おしくて、それが見たいがために何度もボタンを取る。最後まで取ったボタンを持っていて、それを直美に渡してほしいと多江さんに託す。吾郎の死後、直美のもとに遺品として戻ってきた軍服にボタンをつけるという、とても素敵な台本を書いていただけて嬉しかったです。

――悲しいですが視聴者にも忘れられない役になったと思います。改めて演じる上で心がけたことを教えてください。

『風、薫る』は看護婦の話で、たくさんの人の生死が描かれていますから、常にピンと張り詰めたような雰囲気があります。そのなかで僕は小川吾郎という役を、そことは全く違う時間軸を生きた人物として演じました。軍人として任務に忠実ではありますが、素直に、純粋に、直美と接する。そのコミュニケーションによって、それまで幸せに縁が薄かった直美が救われる。吾郎は彼女にとってオアシス的な存在でいたいと考えました。戦争に行く時も、悲観しないで、明るい未来を信じているように演じました。

映像作品への出演が「興味を持っていただく機会になったら」

――朝ドラ出演のきっかけはオーディションですか?

最初はオーディションを受けさせていただいたのですが、そのお役ではなく小川吾郎として改めてオファーをいただきました。吾郎は近衛兵という天皇陛下をお守りする任務についています。当時、この役割はエリートで、かつ身長が高い人たちがそろえられていたそうです。僕の身長も選ばれたポイントのひとつかもしれません。

――このところ、大河ドラマ『べらぼう〜 蔦重栄華乃夢噺 』や夜ドラ「ラジオスター」、朝ドラ『風、薫る』とNHKドラマへの出演が続いています。3作とも全く違う印象です。

よく見ないと僕だって気づかないですよね(笑)。まげ(『べらぼう』)、モサモサ(「ラジオスター」)、短髪(『風、薫る』)と髪型もまるで違いますし。

―― 『べらぼう』に出た時、もう朝ドラは決まっていたのでしょうか?

その時は決まっていませんでした。

――映像のみならず舞台でも活躍されています。2024年は映像に出る年と決めて有言実行されたとか。やってみて成果はありましたか?

幸い、映像の仕事がいくつも入り、素敵な役にも恵まれました。このチャンスは逃せないと思って臨みました。放送後、どれだけ皆さんの心に届いたか、もしくは心を動かすことができたかわかりませんが、甲斐翔真という役者が少しでもお茶の間に「あ、こんなやつがいるんだ」というふうに思ってもらえたらいいなと思っています。でも、まずは『風、薫る』の盛り上がりに少しでも協力したいという気持ちです。

――朝ドラの影響力は感じましたか?

たくさんのお茶の間に届けるという意味では、やっぱり朝ドラの影響は大きいと感じました。舞台は舞台で好きですが、見ている人数が映像とは圧倒的に違います。逆に言うと、朝ドラを見て「この人何やってる人なんだろう? ミュージカルにも出ているんだ」と舞台にも興味を持っていただく機会にもなったらいいなと思います。

クリス役を演じるためにベトナムへ

――次回作はミュージカル『ミス・サイゴン』です。『風、薫る』の吾郎も軍人で、『ミス・サイゴン』のクリスもアメリカ兵です。戦争に関係するものが続きますね。

軍人の年ですね。戦争に携わる人物の役作りはとても難しいです。戦争を経験したことがないし、したいとも思いませんけれど、生半可な気持ちではやれないです。できるだけ調べものはたくさんしていますし、今回は実際にベトナムにも行きました。行ってみないとわからないことってあると思うんです。実感がない分、情報を収集したり、現地に行って空気を吸ってみたり、そういうとこから始めることを心がけています。

――クリスの役は今、どういうふうに考えていますか?

例えば、『風、薫る』の吾郎は軍人として、結婚というものをどう考えていたのだろうと想像します。もし自分が戦死したらという気持ちが片隅にはあるでしょう。必ずしもずっとこの先、この人を幸せにし続けると言い切れない。そこがまた複雑なところだなと思いました。クリスもクリスで、ベトナム戦争が終わると、ベトナムで出会った女性を残してアメリカに帰ります。生きている以上、誰かを好きになったり生きたいと思ったり何かが欲しいという欲望を遮断できない。人を愛することもシンプルではなく何層もフィルターがあって、それが乱反射して人間の複雑性が生まれてくることが魅力になっています。答えのない作品で、やるほうも見るほうも難しい。見る方にはどう受け取っていただいても、どう想像してもらってもいいと思っています。

――クリスという役を演じることになったきっかけはどういうものですか?

オーディションです。かなり前から受けていました。これまでいろいろな作品に出演させていただきましたが、『ミス・サイゴン』や『レ・ミゼラブル』の曲をコンサートや番組で歌うことはあっても、出たことはなかったので、役者としての幅を広げるためにも出てみたい作品ではありました。これまでポップス系やロック系のミュージカルをやってきましたが、『ミス・サイゴン』はクラシックな作品なので、歌い方をはじめとして求められることはこれまでと全然変わってくるでしょう。初心者の気持ちで臨んでいます。

転機になった作品は?

――この世界に入ったきっかけはスカウトで、それまでサッカーをやられていたそうですね。歌は前から好きだったのでしょうか。

歌は好きでしたが、カラオケで歌うのが楽しかった程度で、それが仕事に結びつくとは思っていなかったです。人生、何があるかわからないものですね。

――デビューから10年、転機になった作品はありますか?

いろいろなミュージカルに出てきましたが、オリジナルキャストになる機会はそんなになくて。『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』のオリジナルキャストとして日本での開催を盛り上げたことはとても貴重な経験でした。今のところ日本では井上芳雄さんと僕しかやっていません。もちろん役は誰のものでもなく、再演のたびに違う俳優がやりますが、日本で初めてやったというのは役者冥利につきます。同じ役を誰か違う人がやることは映像ではなかなかないことで、オリジナルキャストというのは舞台ならではのもの。それになれるのはとても光栄です。

海外に行くことで、世界の広さを感じる

――10年間、忙しい日々を過ごされてきて、作品と作品の合間やオフの日などに意識して取り入れているリフレッシュ方法はありますか?

旅行です。仕事から離れて、ただその場所を楽しんでいます。リラックス方法とはただ力を抜くことではなく、新しいものを見たり感じたりして心が豊かになることがリラックスに繋がると思うんです。疲れてくると、新しい感性をもう一度解き放ちたくなる。それができるのは旅行かなと思います。特に海外がいいですね。

――旅行に行く時、スケジュールを詰め込む派ですか?

いや、あんまり詰め込まないです。とりあえずここには行っておきたいという場所はありますが、行ってみて予定を変更することもよくあります。なにごとも行ってみないとわからないですから。

――行ってみてよかったと思ったところはどこですか?

ヨーロッパが好きです。イギリスやフランスの、観光名所ではないところが。観光名所って観光客ばかりなんですよ(笑)。そこよりも何でもない通りや何でもない生活圏がすごく面白いです。たぶん、渋谷スクランブルスクエアを楽しそうに写真を撮っている外国人の方々を、何でだろう? と僕たちが不思議に思うのと同じような気がして。そういう感覚の違いに世界の広さを感じ、だから海外旅行は面白いです。

――これから行ってみたいところはありますか?

いっぱいあります。ノルウェーやアイスランドに行ってオーロラを、エジプトに行って砂漠を見たいです。

――海外でサッカーの試合を見ますか?

ヨーロッパのサッカーは人気すぎて、サポーターになってもチケットがなかなか取れないから、まだ見られていないんですよ。

サッカーとお芝居の関係性

――サッカーといえば、ゴールキーパーをやられていたそうですが、ゴールキーパーの方は試合中何を考えているのでしょうか?

あらゆる可能性です。最も全体がよく見えているポジションなので。キーパーは起こりうるすべての可能性を想像して人を動かす役割です。わずか1ミリの違いで状況が変わってくるので、可能性を全部予測しておくのが仕事です。フォワード選手などは反射的な感じで、頭の使い方が違います。ゴールキーパーももちろん反射的なところもありますが、長期的な予想を担当します。

――そういう頭の使い方は俳優の仕事に生きますか?

生きると思います。というか、小学校から12年ほど、最も思考能力が育っている間にサッカーを通してクセづいたことはなかなか消えないでしょうね。土壇場の対応力や物事を大きく見る能力を養うために、俳優志望の方はキーパーを経験したほうがいいと思います(笑)。

――今後はしばらくまた舞台が続きますか?

この5年間は舞台を中心に活動していましたが、30代に向かって、これからもっといろいろな世界を切り開いていきたいと思っています。

Profile
甲斐翔真
1997年生まれ、東京都出身。2020年に『デスノート THE MUSICAL』で初舞台・初主演を務める。その後は『RENT』、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』『エリザベート』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』『キンキーブーツ』など話題作への出演が続く。また、2026年10月からはミュージカル『ミス・サイゴン』への出演を控えている。

撮影/金井尭子
取材・文/木俣冬

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