2026.10.21
【俳優・若葉竜也】曖昧で敢えて言語化しない男女の関係性を撮った日々に、思ったこと
ヤマダミサキ・30歳、シバ・38歳、シミズ・46歳。3人の独身者がそれぞれのペースで少しずつ“自分の居場所”を見つけていく『てんてん ずっと独身でいるつもり?』が、10月23日(金)からPrime Videoにて独占配信されます。
多様な人生のかたちを描いた群像劇の主人公にして、仕事・恋愛・人間関係を転々としつつ、愛嬌の良さで30年の人生をやり過ごしてきたヤマダ(森香澄さん)と仕事を通じて知り合う葬儀社勤務のシバを演じているのは、『葛城事件』や『街の上で』、『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』など、社会派からラブストーリー、さらには青春群像と幅広く主演を務めてきた若葉竜也さん。
過去に負った心の傷から人と関わることを避けてきた寡黙なシバを、実在感ある人物として立脚せしめています。人生に迷って惑った先に少し光が差してくる、リアルながらも希望が抱ける物語の世界に身を置いた日々に何を思い考えたのかを、じっくりと語っていただきました。
“チグハグ”が「めっちゃ面白かった」

──作品資料に若葉さんが寄せたコメントに「はっきり言って、傑作です」とあるように、3人の独身者それぞれの悲喜こもごもがユーモラスに描かれていて、滋味深い映画だなと感じました。そういった手応えは、撮影中から感じていらっしゃったのでしょうか?
まず台本を読んだ段階で「めちゃくちゃ面白いな」と思いました。港(岳彦)さんが書かれた脚本を箱田(優子)さんが演出されて、森さんがヤマダミサキという主人公を演じられるということを考えただけで、面白い映画になるというイメージが湧いてきたんです。
──若葉さんが演じられたシバは、2016年から10年の年月を経ても変わらずに寡黙で、1人でいることを好む人物です。この役柄を立脚するにあたって、どのようにアプローチをされたのでしょう?
脚本を読んだ段階で思ったのは、シバはきっと心の奥底では「人とつながりたい」と、誰よりも望んでいるんじゃないかなということでした。その思いが強いゆえに、人とは関わりたくないという…すごく矛盾してはいるんですけど、本質的には人を求めているんだろうな、と感じたんですよね。そこを踏まえつつ、ヤマダとシバは一見違う世界の住人のように見えるんですけど、僕からするとシバはヤマダのことが羨ましいと思っているような気がしていて。ちょっとした羨望じゃないですけど、彼女のように生きる世界線が自分にもあったのかなという目線で見ていたのかな、と。それぞれに苦悩はありますけど、“ドアの隙間からヤマダのことを見ていたんじゃないか”といった感覚を取っ掛かりにして、そこからシバの孤独感をどう表現するか、もしくは表現をどこまで抑えるかといったことを箱田監督と定めていったという感じでした。

──箱田監督から「シバは、こういう人だと思うんですよ」といったお話はあったのでしょうか?
人物造形的なことに関して、最初から細かく監督と擦り合わせていたわけではなくて、「まずは1回合わせてみましょう」というところからホン読みが始まって。で、自分の思うシバ像に沿って演じてみたら、ヤマダを演じる森さんのセリフのリズムと完全にチグハグで…でも、それがめっちゃ面白かったんですよ。なので、そのチグハグさを残しつつ、本当にラストでちょっとだけ合うようにしようと方向性だけを決めて、クランクインしました。
──ただ、順撮りではなかったでしょうから、その感覚を意図的に揺り戻すのは大変だったのではと想像します。
それが、けっこう物語の時系列に沿ったスケジュールを準備してくださっていたので、僕はやりやすかったんです。役者としてはやっぱり順撮りに近いほうが嬉しいですし、スタッフのみなさんの愛情をすごく感じましたね。
──確かに…。ちなみに、自分は2016年のシバが職場の先輩から「ご飯、する?」と聞かれて「しないです」と即座に答えるシーンがとにかくおかしくて、お気に入りです(笑)。
その最初の「しないです」と、2026年の時間軸──映画の中盤以降でヤマダに「ないですぅ」っていじられるようになってからのシバの言い方って、少しずつ違っているんですよ。「なんとかですぅ、って笑われてんじゃん」という森さんのお芝居を見て、それにちょっとだけニュアンスを寄せているんです。そういった現場で合わせたからこそ生まれた化学反応みたいなものも、面白かったですね。
──2016年のシバは、きっぱりと「しないです」と言い放っていますよね。
そうなんですよ。なので、やっぱりヤマダと出会ったことで確実にシバの中で小さな変化がポツポツと起こり始めていることが、感じとれるんじゃないかなと思います。
府中だからこそ生まれた空気感

──その出会い方というか、ヤマダ=ホームヘルパーとシバ=葬儀社の職員という関係値で知り合っているというのも、リアリティーがあるんですよね。
あの辺のディテールに制作陣のきめ細やかさを感じましたし、箱田さんの現実と空想の境目みたいなところを突いてくる演出能力の素晴らしさを実感する現場でしたね。また、映画の舞台が府中だったことで、そういったリアリティーに説得力を持たせてくれたと思っていて。東京なんだけど都会と地方の間にあるような街のたたずまいというか、「府中だったら、こういう人たちがいるんじゃないか」って不思議と思えてくるところが、絶妙なんですよね。
──これが高円寺とか阿佐ヶ谷だと、ちょっと違ってきちゃうんですよね。
20年ぐらい前だったら成立していたかもしれないんですけど、今は阿佐ヶ谷とか高円寺の街の雰囲気がちょっと変わっちゃったので、やっぱり府中なんですよね。
──かといって、八王子や立川もまた違ってくる感じがします。そして府中には競馬場があるというのも、街の雰囲気を左右している気がしていて。
そうそう、電車の中に赤ペンを舐めながら競馬新聞を読んでいるおじさんがいたりして。そういう雰囲気が『てんてん ずっと独身でいるつもり?』には絶妙に滲んでいる気がするんですよね。

──だからといって府中という街をネガティブに描いているわけじゃなくて、「この街に住む人々ならではの息づかい」がユーモラスに描かれているところに、愛を感じたんですよね。
劇中でヤマダが「こういう、いいお店があるだけで府中に住み続けたくなっちゃうじゃん」と言いますけど、意外とそういうことが、その町に住む決め手になったりもしますよね。小さなことが大きな決断に結びついたりするのも面白いなぁと思いましたし…作品が出来上がって試写を見た時、「この作品は府中じゃなかったら撮れなかったな」と感じました。さっきもお話したように狭間というか──空中にポカンと浮いているような地域で、ここじゃないと生きられない人たちが住んでいるのが、府中の良さだなぁ、と。しかも、切り取り方もめちゃくちゃ画になる感じじゃないというか、“ザ・府中”みたいな感じで撮っているわけじゃないのに、府中という舞台に役者を立たせて、箱田さんが演出をして月永(雄太=撮影監督)さんが撮っている画を観ているとやっぱりグッときてしまいますね。
──カメラワークもいいんですよね。ヤマダが自転車を立ちこぎしてスロープを上がっていくショットであったり。それ以上に、俳優のみなさんのお芝居に実在感があって、素晴らしかったです。
作品を見ていて「ヨシッ!」と思ったのは、ヤマダという役が森さんしか考えられないつくりになっていたことなんです。それは(シバの甥っ子にあたる)カケル役のトア(・ウィルキンス)も同様で、ほかの人が演じているヤマダとカケルをイメージできないし、もし森さん以外の女優さんが演じていたら、ちょっとズレた仕上がりになっていたかもしれないな、と。そこまで思わせる役と作品に出会えるかどうかって、役者にとってはすごく大事で…ターニングポイントになり得るじゃないですか。そういう絶妙なマッチングを間近で見られたのも、自分としてはすごく嬉しかったんですよね。森さん自身がどこまで実感しているかはわからないですけど、僕からすると、この映画とヤマダという役と出会えたことは彼女にとって、すごく大きいんじゃないかなと思いますね。
──しかも、単独初主演映画という記念碑的な作品でもありますし。
そうですよね、僕が言うのも変ですけど(笑)、森さんの代表作になるんじゃないかなぁ。
刺激的だった撮影を振り返る

──ただ、それは若葉さんの演じられたシバや、それこそトアくん扮するカケルがいたからこそヤマダの魅力が際立ったとも言えるわけで…。
トアとの芝居は楽しかったですね。彼は天才肌なんですよ。集中力が切れちゃうと本人に戻っちゃうし(笑)。
──トアくんは口立て(※子役に台本を渡さず、シーンごとにセリフを伝えて演じさせる演出)だったんですか?
いえ、ちゃんと台本を読んでいました。もちろん、アドリブだったり自由に演じたりする瞬間もあったんですけど、「このシーンでは、こういうことをやってほしいんだ」と定められていた場合は、絶対に枠からはみ出さないんです。つまり、物語をしっかりと理解していて──そこが素晴らしいんですよね。あくまで僕の感覚になるんですけど、どんな子も口立てだと比較的うまくできるんですよ。でも、台本を読んで物語を理解したうえで自由度の高い芝居をするとなると、大人の役者でもなかなかできることではなくて。そこがトアのすごさなんですよね。

──ともすれば、無邪気に振る舞っているトアくんに若葉さんや森さんが合わせているようにも見えたんですが、そうではないと…?
トアは良い意味で、僕らの発想にないはみ出し方をしていくんです。適切なはみだし方、とでも言いますか…そのバランス感覚は持って生まれたものだと思いましたし、彼とのシーンの撮影はとても刺激的でしたね。撮影中も子どもらしく自由奔放ではあったんですけど(笑)、大人としてはやっぱり「トア、ここはちゃんとやるところだよ」と言わざるを得ないじゃないですか。ただ、僕は…トアを縛り付けるような環境にしてしまったら、彼本来の自由さが失われてしまうと思ったんです。なので、ここはトレードオフだと捉えて、自分も責任を背負うつもりで「自由にしていていいよ」という話をしまして。実際、撮影の合間は僕の車に乗っていたり、まずはここは安全なんだと思ってもらおうと。
撮影の中で、偶然生まれたシーン

──あの邪気の無さを持ったまま成長していってほしいなと、僭越ながら思いました。そして、主演の森さんとも撮影が進むにつれて、少しずつ距離感が縮まっていったそうで…。
映画の前半はヤマダとシバが言葉を交わすシーンがそんなに多くなかったんですけど、少しずつ関わりを持つ回数が増えていくにつれて、森さんと僕も他愛もない会話をするようになっていって。その感じがヤマダとシバの距離感にも投影されていて、試写を見ていて「何か、いいな」と思いました。
──ヤマダとシバの関係性って、ひと言では言い表せないのがいいですよね。
実は現場でも森さんと箱田さんと僕の3人で、「ヤマダとシバって、何か言語化できないよね」という話をしていたんですよ。たまたまヤマダが女性でシバが男性だったというだけであって…見る人によっては恋愛関係に映るかもしれないけど、たぶん2人が女同士、あるいは男同士だったとしても変わらないんじゃないかな、と。友達というわけでもないし、かといってソウルメイトみたいな感じでもないし──その曖昧で敢えて言語化しない関係性みたいなものを、マルッと撮ったという感覚なんです。
──今の若葉さんのお話を踏まえると、クライマックスでのヤマダとシバの“ふれあい”もさまざまな解釈ができそうですよね。
あのシーン、実は何回も撮っているんです。台本ではヤマダの自転車を前にして、ふれあって「じゃあ、おやすみ」という描写だったんですけど、1回目の本番だったかな…僕が財布を持ったまま芝居をしたら、小銭がジャラ〜ンと落ちちゃって。そしたら箱田さんが「今の、めっちゃいい! 小銭を拾おうとした流れからの、しゃがんだまんまでふれあうのはアリですか?」と、おっしゃって「やってみます」となったんですよ。そうやって、ちょっとした奇跡や偶然が積み重なってできあがったシーンなんです。住宅街でのナイトロケで、あんまり遅い時間まで(カメラを)まわせないし、いろいろな条件があってあのシーンが生まれたんだなと思うと、それもまた素敵だったなと感じますね。

──いわゆる“映画の神様”が降りてきた瞬間ですよね。
見方を変えれば、単なる僕のミスなんですけどね(笑)。財布を手に持っていなかったら起こり得なかったという。
──そのハプニングを演出に組み込めるのは、箱田監督のセンスや力量ならではだと思います。
確かに。小銭を拾った後にふれあうというところに、東京の片隅で生きている人たちの息づかいが瑞々しく感じられるというのが、なんかいいんですよね。
──不格好ではあるけれども、だからこそ優しさと美しさを感じるシーンでした。
府中でね、こんなに素敵な映画が撮れるなんて…いや、褒め言葉として受け取ってほしいんですけど、さっきもお話したように本当に府中だからこそ撮れた映画だと思います。
1日休みがあったら何をする?

──それこそ“聖地巡礼”じゃないですけど、府中を歩いてみたくなりました。で、劇中でカケルの夏休み最後の日に「思い出をつくろうぜ」と、ヤマダとシバと3人でとある場所へ行きますけど…もし若葉さんに1日お休みができたとしたら、どんなことをしたいですか?
1日か…月並みなんですけど、小学校からの友達と今でも仲が良くて、一緒に仕事もしているんですけど、彼らとご飯を食べる──かな。食べたことのないものを食べに行くとか。まさにそういうことをふだんからやっていて、この前も川魚を生で食べられる群馬の料理屋さんに行ってきたんですよ。ヤマメの踊り食いができるんですけど、これがめちゃめちゃ美味しくて。そういうことを仲間たちと楽しむ1日にするんじゃないかなと思います。
──幼なじみと今でも仲が良いって、憧れます。あと、無理やり結びつけるわけじゃないんですけど、それこそPrime Videoで『てんてん ずっと独身でいるつもり?』を観る日にしてもいいですよね。気が向いた時にいつでも観られるのも利点ですし…。
僕個人はサブスクリプションの映画に対しても肯定的なんですよ。「映画はやっぱりスクリーンで観ないと」という考え方ももちろん尊重していて、劇場でたくさんの人と一緒にひとつの作品を観ることで得られる体験や感動に信頼を置きつつ…映画が身近にあっていつでも観られるという環境はすごく恵まれていると思いますし、映画館とはまた違った体験ができると考えてもいて。スマートフォンでエンターテインメントを楽しむ時代の選択肢として捉えつつ、1人で観るからこそ漢方薬のように効いてくる映画というのもあって──そのひとつが、この『てんてん ずっと独身でいるつもり?』なんじゃないかなと感じているんですよね。多種多様な捉え方と言いますか、たとえば香椎(由宇)さんが演じられたシミズという女性の生き方に「そうそう、40代ってこうだよね」と共感する見方がきっと多いなかで、僕はシミズの「何でもやってやる」と突き進んでいく姿だったり、ある種のレンジが一瞬狭くなってしまう瞬間に、20代の時を思い出したんです。逆にヤマダの「シンプルだけど、楽しく生きようよ。悩むのも分かるけど、大切なのは今のあなたが、そして私が楽しいかどうかじゃない?」という姿勢が、老練された大人にも見えたりもして。そんなふうに年代や境遇に関係なく、さまざまな見方ができる映画になっているのが、僕はすごく素敵だなと思っているんです。

Profile
若葉竜也
1989年生まれ、東京都出身。2016年公開の『葛城事件』で、第8回TAMA映画賞・最優秀新進男優賞を受賞。主な出演作に映画『あの頃。』『街の上で』『くれなずめ』『前科者』『愛にイナズマ』『市子』『ペナルティループ』『ぼくのお日さま』『嗤う蟲』『てっぺんの向こうにあなたがいる』『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』など。
■『てんてん ずっと独身でいるつもり?』
2026年10月23日(金)Prime Videoにて独占配信
出演:森香澄
若葉竜也 香椎由宇
芋生悠 田村健太郎 笠島智
黒沢あすか 白川和子 眞島秀和 前田吟
原作:おかざき真里(原案 雨宮まみ)「ずっと独身でいるつもり?」(祥伝社 FEEL COMICS)
監督:箱田優子
脚本:港岳彦
ヘアメイク/FUJIU JIMI
スタイリスト/Toshio Takeda(MILD)
撮影/金井尭子
取材・文/平田真人


