【俳優・前田公輝】自分を見失わないために取り入れている、“心の整え方”とは?

【俳優・前田公輝】自分を見失わないために取り入れている、“心の整え方”とは?

9月4日(金)に全国公開される映画『ホーム スイート ホーム』。2026年を生きる主人公・植木一郎(八村倫太郎さん)のもとに、未来から息子と孫が現れたことをきっかけに、4世代の家族が時空を超えて繋がる“押入れタイムスリップ・ホームコメディ”です。

本作で、一郎の父・耕太郎を演じるのが前田公輝さん。ちょっとしたボタンの掛け違いから変わってしまった未来を元に戻すため、1999年へと向かった一郎が出会うのは、記憶の中の父とはまるで異なる若き日の耕太郎でした。

声が枯れるほど全力でコメディに挑み、「自分でも知らなかった一面に出会えた」と語る前田さん。今回は、どこか懐かしさを感じさせる耕太郎の役作りから、35歳になった今だからこそできた芝居、さらには出演作が途切れない中で“自分”を見失わないために大切にしていることまで、たっぷりとお話を伺いました。

「知らない時代なのに、懐かしい」を意識した役作り

――タイムスリップという要素を取り入れつつ、最近では珍しくなった王道のホームコメディに仕上がっているのが新鮮でした。思いきり笑える一方で、久しぶりに家族のことを思って泣いてしまって。

ありがとうございます。日々の生活に追われていると、家族のことにまでなかなか意識が向かないですよね。だからこそ、この映画がふと自分の家族のことを考えるきっかけになったらいいなと思っていたので、実際にそういう感想をいただけて、すごく嬉しいです。

――改めて、本作への出演が決まった時はどんなお気持ちでしたか?

最近また、タイムスリップを題材にした作品が続々と生まれていますけど、僕が20代前半の頃にも流行っていた時期があったんです。ただ、当時は俳優としてまだ思うようにチャンスを掴めていなくて、そういう作品を見ながら悔しい思いをしていたんですよ。
それが35歳になった今、こうしてタイムスリップものに携わることができて、本当に嬉しかったです。しかも35歳の僕が27歳の役に挑戦させていただけることが、すごくありがたかったです。
俳優って、メイクで老けさせることはできても、若返らせることはなかなか難しいと思うんです。だから、自身の演じられる年齢の幅が広ければ広いほど、キャスティングの候補に挙がった時に、ふるいから落ちにくい俳優になれるのかなと昔からずっと考えていました。そういう意味でも、今回こうして耕太郎役に選んでいただけたことは、すごく嬉しかったですね。

――一方で、今回は前田さん自身がタイムスリップする役ではなく、未来から来た人たちと出会う“過去の人”を演じています。舞台となる1999年について、役作りのために調べたりもされましたか?

当時はまだ8歳ぐらいだったので、自分の記憶だけでは分からない部分もあるなと思って、念のため当時のことを調べました。ただ、台本を読んだ時から、「僕の知っている平成初期じゃないぞ」と感じていて(笑)。どちらかというと、もっと昭和っぽい印象だったんですよね。
実際に調べてみても、一般的な1999年のイメージとは少し違っていたんですけど、舞台は下町ですし、もしかしたら当時もこういう空気が残っている地域はあったのかもしれないな、と。それに、今回はワンシチュエーションの作品なので、衣装などのビジュアルも含めて、それぞれの時代の特徴をあえて分かりやすく見せているんだと思うんです。
だから、実際の1999年に寄せるというより、この作品独自の世界観に合わせて、どこか昭和の空気が残っている人物として耕太郎を演じました。

――確かに、耕太郎には昔の下町にいそうな、どこか懐かしい雰囲気がありました。役作りで参考にした人物はいますか?

僕の中では、『ALWAYS 三丁目の夕日』の堤真一さん演じる鈴木則文が圧倒的に“昭和の人”なんです。若い頃に映画を観た時、僕自身はあの時代を知らないはずなのに、堤さんが演じられたこのキャラクターになぜか親しみを感じたことを覚えているんですよ。
同じように、耕太郎も今ではほとんど聞かないようなべらんめえ口調を使っていますけど、観た人に「こういう人っているな」と、どこか懐かしさを感じてもらえるような人物にしたいと思いました。なので、今回は『ALWAYS 三丁目の夕日』の堤さんをイメージしつつ、そこから自分なりの耕太郎像を膨らませていきました。

35歳の今だからこそ、コメディに振り切れた

――前田さんは遺影で登場したかと思えば、その後は一転、ハイテンションで声を張り上げる場面も多かったですよね。

そうなんですよ。まだ撮影があるのに声が枯れちゃって、焦りましたね。とりあえず周りに気づかれないようにしようと思って、現場では極力ウィスパーボイスで喋っていたんですが、当然バレました(笑)。
ただ、その日はちょうど耕太郎にとって大きな出来事となるシーンを撮影するところだったんですよ。それで監督と、その出来事が嬉しすぎて声が枯れたことにしよう、と(笑)。このピンチをチャンスに変えられないかと、相談しながら撮影していました。

――かなりエネルギーを使う撮影だったと思いますが、特に大変だったのはどんな部分でしたか?

声帯を酷使したこともそうですけど、一番難しかったのは、“笑い”に対する感覚のすり合わせかもしれないです。コメディって、人によって好みが違うじゃないですか。僕はジム・キャリーが大好きですけど、みんながみんな彼を面白いと思うかと言ったら、そうじゃないかもしれない。
だから、自分が提示したものと監督が求める笑いが違った時に、どれだけ瞬時に感覚をすり合わせて、求められたものを「絶対に面白い」と信じて演じられるかが大事で。少しでも迷いながらやったら、絶対に面白くならないと思うんです。
でも一方で、「どうだ、面白いだろう」と見せられたものって、大体つまらないじゃないですか。なので、「これは絶対に面白い」と信じたら、今度はそう思っている自分さえ忘れて芝居をする必要があって。その一連の作業が、複雑で大変でしたね。

――お話を聞いていると、笑いに対してかなり研究されているように感じます。もともとコメディがお好きなんですか?

好きですね。ジム・キャリーの作品もほとんど見ていますし、もともと人を笑わせること自体に興味があるんです。それと同時に、「俳優としての“隙間産業”はどこだろう」と考えていた時期があって。イケメンも、かっこいい芝居ができる人もたくさんいる世界で、どうやったら勝負できるんだろうと考えた時に、やっぱり悪役が演じられたり、コメディができたりすることなのかなと思ったんです。
その中でも、芝居がうまくて、なおかつ笑いも取れるというのは、自分が目指したいところでもあったので、コメディについてはかなり勉強してきました。今でもInstagramで芝居が上手な芸人さんを見つけるとすぐに動画を保存しています。だから、芸人さんにはかなり詳しいんです(笑)。
今回は、そうやって自分がこれまで蓄えてきたものを、フルに出せたらいいなと思いながら演じていました。

――本作はもともと舞台作品ということもあって、映画でありながら、舞台を観ているようなリアルタイム感もありました。撮影もかなり特殊だったのでしょうか?

通常よりも、みんなで都度相談しながら、現場で作っていく部分が多かったですね。特に印象に残っているのが、みんなで煎餅屋の権利書をめぐって揉める場面です。テーブルが倒れたり、人が入り乱れたりして、自由に暴れているように見えるんですけど、実はかなり計算されているんですよ。
誰がどのタイミングで動いて、その動きを受けて誰がセリフを言うのか。少しでもタイミングがズレるとぶつかってしまう危険もあるので、最初はみんなでスローモーションで動きながら、一つひとつ確認していきました。本当に舞台稽古みたいな感じでしたね。
長回しのシーンも多かったので、何が見えていて、何が見えてはいけないのか、小道具の置き場所まで細かく決めていて。一見、自由に芝居をしているようで、実はかなりガチガチに作られているんです。この作品を見返す時は、それぞれが芝居をしながらタイミングを見計らっている瞬間に注目してもらうのも面白いかもしれないですね。

――そうした経験を踏まえて、前田さんがコメントでおっしゃっていた「新しい自分に出会えた」というのは、具体的にどんな部分だったのでしょうか?

僕、芸人さんの“全力の芸”がすごく好きなんですよ。例えば、平成ノブシコブシの吉村崇さんや、パンサーの尾形貴弘さんのような、振り切った感じというか。“ザ・芸人さん”という感じが好きで。「とにかく大声を出す」「リアクションを大きくする」みたいな、コメディの第一歩とも言えるようなことに、今回挑戦してみたかったんです。
一方で、どれだけ崩しても、締めるところでバシッと締めれば、物語としては成立するだろうという感覚も今では持てるようになりました。20代の頃は、自分をそこまで客観的に見ることができなかったんですけど、今は台本を読む時も、完成した映像を映画館で観ているような感覚で読んでいます。「この場面にはどんな芝居が必要なんだろう」「何が足りなくて、自分はどこを埋めればいいんだろう」と、作品全体の中で自分の役割を考えながら。
そうやって作品全体を俯瞰する視点を持ちながら、もう一度初心に戻って思いきり振り切る。今回、それができたことは、自分にとって新しい発見だったかもしれないですね。

自分”を見失わないための、心の整え方

――ここ数年はドラマへの出演が続き、1クールに何本も掛け持ちされていますよね。主演作も増えてきた今、ご自身ではどんなふうに感じていますか?

いや、もう本当にありがたい限りです。ただ、自分としてはまだまだいけるなと思っています。16歳で俳優として生きていこうと誓った時の思いを考えると、まだこんなもんじゃないぞ、と。表にはあまり出さないようにしていますけど、実はまだまだギラついています(笑)。今の状況に満足することなく、これからもチャレンジ精神を持って前に進んでいきたいですね。

――私、前田さんの泣くお芝居がすごく好きで。手の震えや唇の痙攣といった細かな部分にまで感情が表れていて、細胞レベルで役を生きているように感じるんです。それだけ深く役に入りながら、複数の作品を並行して撮影するとなると、役の切り替えも大変なのではないですか?

これは本当に難しくて。現場も人も衣装も全部違うのに、心だけ別の役が残っている時があるんですよ。もっと言えば、テスト中や本番前に突然、別の役が降ってくることがあって。それはもう力ずくで頭の中でグッと抑えたりします。
だから、掛け持ちしている作品をすべて完璧にできているとは思っていないですし、実際にできていない部分もあると思います。でも、そういう状態だからこそ、思いがけない感情や芝居が生まれることもあると、今は冷静に捉えています。
20代前半の頃は、役に向き合いながら、自分の精神状態のバランスをどう保てばいいのかわからなくて、すごくしんどかったですね。僕、この俳優という仕事は、「自分がわからなくなる仕事」のベスト3ぐらいに入ると思っているんです。だからこそ、私生活でいかに自分を見失わないようにするかが大事で。じゃないと、本当に「僕は、誰だ?」という瞬間が出てきてしまう。20代後半から30代前半にかけて、少しずつ気持ちの整え方がわかってきたから、今も戦えているのかなと思います。

――自分を見失わないために、普段から意識していることはありますか?

僕には、常に念じている人格があります。というのも、20代前半の頃、役のプレッシャーが大きすぎて、本当に自分がわからなくなってしまった時期があって。自撮りをするだけでもなぜか緊張して、手が震えることもありました。その時に、「自分がわからないんだったら、自分というものの軸を作ればいいのかな」と思ったんです。そこから、自分自身の“役作り”をするようになりました。

――それは、具体的にどういうことをするのでしょうか?

自分の中に人格を“ソフト”としてインストールするような感じです。その“ソフト”は時期によって変わったり、少しずつ入れ替わったりするんですけど、今は「相手のことを考えること」「穏やかで、謙虚でいること」、それに加えて「全体を見ること」。相手のことだけを考えていると盲目的になってしまうので、同時に全体を俯瞰して見る自分も持っておく。これが最近のトレンドです(笑)。言ってしまえば、“本当の自分”というものには、あまりこだわらなくなったのかもしれません。

――“本当の自分”にこだわりすぎると、余計に苦しくなりますもんね。むしろ、その時々で「こうありたい」という自分を作っていくほうが、気持ちを楽に保てるのかもしれません。

そうなんです。僕の場合は、やっぱり一番大事にしたいのは目の前にいる人たちなんですよね。どれだけ仕事に野心を持ったとしても、目の前の人を大事にできなかったら結果的に幸せを感じられないような気がして。
だから僕にとっては、絶対に“相手方”があっての人生なんです。特に今稽古中の『リア王―King Lear―』で演じているエドマンドは、野心に飲まれて自分を見失い、孤独を深めていく役なので、人との関係を大切にすることが、生きていく上での幸せに繋がるんだと最近改めて感じています。

ファンがいつでも帰ってこられる“実家”のような場所を作っていきたい

――人との繋がりという意味では、前田さんはファンの皆さんとのコミュニケーションもすごく活発ですよね。

交流は活発なほうだと思いますね。今の気持ちやオフショットを投稿したり、ファンの方のコメントにリアクションや返信をすることが多くて、最近はそうしたやりとりを“連絡”と呼ぶようになりました(笑)。本当に、みんなとLINEをしているような感覚なんですよ。

――前田さんがオフィシャルファンクラブとして運営されているオンラインサロン「fan-ily(ファニリー)」は、fan(ファン)とfamily(家族)を掛け合わせた造語です。今回の映画は“家族”がテーマになっていますが、前田さんにとってファンの皆さんも家族に近い存在なのでしょうか?

家族って、切っても切れない関係みたいなところがあると思うんです。どれだけ喧嘩をしたり、ぶつかり合ったりしても、絶対的な味方である。ファンクラブの中にも、それぐらいの“安心感”があるといいなと思っています。
仕事でうまくいかなかったとしても、何か嫌なことがあったとしても、帰ってこられる実家のような場所にしたいな、と。そんなことを考えながら、6年間続けてきました。なので、誰に求められたわけでもないけど、サロンは365日欠かさずチェックするようにしています(笑)。
みんなも反応が早くて、僕が何か質問するとすぐに返してくれるんですよ。「え? みんなずっと家にいるの?」と思うぐらい(笑)。そんなこと絶対ないじゃないですか。忙しい中でも、それだけいつも気にかけてくれているんだなと思うと、本当に嬉しいですね。

――本当に前田さんのファンの皆さんは熱量が高くて。前田さんのコラムや作品レビューを書かせていただくと、毎回すごくコメントをくださるんです。

嬉しいです。最近は、ファンの方と僕だけにわかるサインも決めたんですよ。サロン以外のSNSでも、コメント欄にそのマークがあれば、「この方は僕のファンなんだ」と分かるんです。「あ、見てくれてるんだな」と嬉しくなるし、僕からも感謝を伝えられる。共演者の方からも、「コメントによくある絵文字は何ですか?」と聞かれることがあって、「あれは我々の絆のサインでございます」と答えています(笑)。これからも、そういう輪をどんどん広げていきたいですね。

Profile
前田公輝

1991年、神奈川県出身。「ホリプロ・インブルーブメント・アカデミー1期生」として6歳で芸能界入り。2008年に「ひぐらしのなく頃に」をはじめ、多くの映画で主演を務める。2016年から参加した「HiGH&LOW」シリーズの轟洋介役で人気を集め近年では、NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』(2022年)でヒロインの幼なじみ役で話題となる。近作に「セクシー田中さん」「アイのない恋人たち」「私をもらって」「完全不倫」「おいしい離婚届けます」「雪煙チェイス」など。2026年7月期は「親愛なる夫へ〜完璧な妻の嘘〜」「もう1度夫婦になりますか?〜カモフラージュ夫婦〜」に出演。

■『ホーム スイート ホーム』
2026年9月4日(金)より全国公開
出演:八村倫太郎(WATWING) 増子敦貴(GENIC) 大原優乃 山谷花純 樫尾篤紀 藤⽥ハル ドロンズ石本 / 駒木根葵汰 前⽥公輝
監督:吉川鮎太
原作:金沢知樹(舞台「HOME SWEET HOME」)
脚本:萩森淳
公式HP:https://hsh-movie.jp

©2026 映画『ホーム スイート ホーム』製作委員会

撮影/須田卓馬
取材・文/苫とり子

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