【俳優・山田杏奈】達観しすぎず、妥協することなく最適解を探る日々
INTERVIEW

2026.05.29

【俳優・山田杏奈】達観しすぎず、妥協することなく最適解を探る日々

増殖していく集団に、思考停止して加わるのか? それとも個として挑むのか?

第一回日本ホラー映画大賞で大賞に輝き、商業映画監督デビュー作『みなに幸あれ』(2024年)で注目を集めた気鋭・下津優太監督が、さらに想像の斜め上を行く怪作を完成させました。体育の授業でおなじみの組体操をモチーフに、集団行動における人間の行動心理を浮き彫りにする、新感覚の“SFサイコエンタテインメント”──題して『NEW GROUP』。

主人公の愛を演じた山田杏奈さんは、ドイツで開催されている第26回日本映画祭「ニッポン・コネクション」では「ニッポン・ライジングスター賞」に輝きました。

周囲が奇怪な集団行動に染まっていき、極限状態に追い込まれる愛という難役と、どう向き合ったのか? また、主演という立場が増えたことによって心境に変化はあったのか? 出演作が続く中でどうリフレッシュしているかといった話題とともに、山田さんの近況を聞いてきました。

現在地での俳優としての捉え方

──表現の世界に入って15年、映画初出演から10年になります。この間に山田さん自身の視座は、どのような上がり方をしてきたのでしょうか?

そうですね、ここ数年はあんまり達観しすぎるのもよくないかもしれないな、という気持ちが自分の中にあります。10代後半から20歳ぐらいまでは世の中の不条理に対してストレートに怒りを覚えていましたし、思春期には負けず嫌いを発揮して「同世代の俳優さんたちには負けたくない!」なんて取材でお話したこともありましたけど(笑)、年齢と人生経験を重ねるにつれて「自分にはできることとできないことがあって、同じようにすべてのことにご縁があるわけでもないんだな」と、自然と分かってくるじゃないですか。

自分も大人になったことで、ここ何年かは折り合いをつけられるようになったと言いますか、「いろいろと仕方ないこともあるよね」と思うことが多くなったんですけど、かと言ってすべてを無条件に受け入れるわけではなくて、「ここは譲れない、戦わなきゃいけない」とキチンと線を引こう、と心がけるようにはしています。物わかりがよすぎても原動力が失われてしまうのかな、みたいに…25歳の自分なりにいろいろと考えることがあるんだなぁと実感する日々、と言いますか──。

──そう簡単に妥協はしないぞ、と(笑)。それこそ役を演じているうちに理解度が深まると、「この役はこういう言動はしないんじゃないか」という感覚が生まれる時もあると思うんですけど、そういう時はどうするんでしょう?

一応、「私の解釈としては、この役がこんな風に言うのは違和感があります」と言うようにはしているんですけど…私1人の違和感によって話が進まなかったり、現場全体が停滞してしまったら本末転倒なので、それこそ折り合いをつけられる地点を探れないか提案する、といった感じですね。

でも、それはものづくりの現場において必要な過程だと思いますし、監督やスタッフの方々、キャストみんなで作品をよりよいものにするうえでは不可欠な作業だと捉えているので、そんなに特別なことをしているという感覚ではないんですよね。

『NEW GROUP』での新鮮な経験とは?

──誰もが納得できそうな着地点を探っていくわけですね。そこを踏まえつつ…まもなく公開される『NEW GROUP』の現場には、どのように臨んでいたのでしょう?

最初に台本をいただいて読んだ時は、一度ではイメージがつかめなかったんです。ただ、すごく強烈な題材だなと思いましたし、想像がつかないからこそ現場に行って明確にしていければ、というのが率直な感想でしたね。愛という主人公は学校では“組体操”によって日常が変えられていくし、家に帰れば家庭も大変で…という設定だったので、そういった困難をどう切り抜けていくのかを自分が演じることで描ければいいなと考えたと同時に、突飛な世界観と現実をつなぐ役割もあったので、そこもしっかりと務めたいなという気持ちでした。

そのうえで、現場で下津(優太)監督に「この○とか△っていうのは、どういうイメージですか?」とか、「この“ポーッ!”はどんな風に言いますか? どういうポーズをすればいいですか?」みたいな感じで、一つひとつ確かめていきました。

──下津監督の説明と演出はスムーズに腑に落ちたのでしょうか?

そうですね…下津監督が思い描いていらっしゃった“集団と個”というテーマと「考えることを放棄するのか、しないのか?」という問いかけが、どういう風につながっているのかを現場で聞かせていただいて理解した覚えがあります。

ただ、下津監督はあんまり「役とは」「芝居とは」みたいな視点から演出をなさらない方でいらっしゃって。パッと思い出すのは、組体操の集団が愛たちを襲ってくるシーンの撮影ですね。私もセリフを言う芝居だったんですけど、ずっと大声で「はいっ、こっちから(組体操の集団が)来たよ〜っ!」と、横で状況を叫んで指示していらっしゃったのが印象的でした(笑)。

──ということは、そのシーンはアフレコしたんですか?

はい、めちゃめちゃアフレコしました(笑)。それも新鮮な経験ではあったんですけど、現場では下津監督の熱量を近くで感じられたのが印象的でしたし、ちょっと面白かったですね。でも…人によっては観ていて笑っちゃうような不思議な映画でもあると思うんですけど、ホラーの要素もしっかりあるので、「観ている人は演者が怖がっているのを見て怖がるんですよ」とも監督はおっしゃっていて。なので、現場では恐怖心をずっと保ちつつ、怖がっているように見えるたたずまいを常に意識していました。

愛役で「ちょっと報われたような気もした」

──“SFサイコエンターテインメント”と銘打たれた『NEW GROUP』は一見、奇抜な作品にも映りますが、愛(I=自分)と優(YOU=あなた)の物語、ガール・ミーツ・ボーイから展開していく作品でもあります。その本質を、山田さんは撮影のどの辺りでキャッチできたのでしょうか?

愛と優って、あの世界観の中ではある種“二人きり”なところがあるんですよね。なので、愛が自分にはないものを持っている人に惹かれていく部分が作品の根幹になっていると思いますし、優と出会って変わっていくさまを体現できたらいいなと考えていました。

愛が校庭で日に日に大きくなっていく“人間ピラミッド”に加わらなかったのも、優がいたからという理由がひとつあるとは思うんですけど、優と出会うまでの愛は自分の決断に自信を持てない人だったと、私は捉えていたんです。表には出さないけれど、実は「こう思っている」という本音を持っている人でもあって、その思いがどのくらいの塩梅で見え隠れするのがいいのかな、ということを考えながら演じつつ…怖がったり戸惑ったり迷ったりするところは、素直な感情が見えたほうが作品を見てくださる人も感情移入しやすいんじゃないかなと思っていました。

──その愛の心に変化をもたらす優を演じた青木柚さんは、山田さんの同世代の中でも力量の高い俳優さんとして知られています。共演されてみて、どんなことを感じたのでしょう?

柚くんとは初めてご一緒したんですけど、この作品の現場ではお芝居のお話をするというわけでもなかったんです。ただ、2人で現場にいる時は『私が今、直面している大変さを共有できる相手がいる!』と思えたことが、すごくありがたかったですね。なので、勝手ながら戦友のように感じていました。

──なるほど。これまでに演じられてきた役どころから、孤高というイメージが山田さんにはあります。ただ、『NEW GROUP』の愛を見て、それこそ“NEW山田杏奈”を個人的には感じたりもしました。ご自身としては、新たな手応えがありましたか?

そうですね…追いつめられるタイプの役柄を演じた作品では、追い込まれて追い込まれて…自分の力では敵わない、ツラい、無念…みたいな設定が多かったんですけど(笑)、愛はやり返しますし、ピエール瀧さん(演じる校長)と「ヤーッ!」「ポーッ!」と叫び合ったのは、なかなか新鮮な体験でしたね。

──あんなにテンション高く雄叫びをあげている山田さんを見たのは、初めてかもしれないです(笑)。

確かに──(笑)。でも、自分でもちょっと意外だったと言いますか、あのシーンは結構スカッとしましたし、今まで追いつめられる役をたくさん演じてきて、ちょっと報われたような気もしました。

──「ポーッ!」と叫んでいた時は、吹っ切っていた感じだったんでしょうか?

あそこまでいくと、もう恥ずかしさとかは一切なかったですね。あの瞬間は「ピエールさんと人間ピラミッドを倒さなきゃッ!」という一心でやっていたので、自然と熱がこもったという感じでした(笑)。

6月に訪れるドイツでの楽しみ

──すみません、しょーもない質問にお付き合いいただいて(笑)。でも真面目な話、主演として作品の真ん中に立つことが増えてから、ご自身の役のみならず現場全体のことを考えたり意識するようになった、といった変化もあるのではと想像しますが、いかがでしょう?

う〜ん、どうなんでしょう…。でも、自分では現場の真ん中に立つ者としての役割を完全にできているとは、まだ思えないんですよね。とは言え、主演となるとシーン数が多くなる分、必然的に現場にいる時間が長くなるので、それこそ妥協してはいけないところを有耶無耶にするんじゃなくて、きちんとみんなで話し合う空気を自然とつくれるようにしたいな、と考えてはいるんです。作品は誰か1人のものではなくて、関わった人すべてのものだと思うので、曲がりなりにも主演を務めさせていただく時は「誰かが何かを言いにくい雰囲気になっていないだろうか? もしそうだとしたら、自分に何ができるんだろう?」といったことを、やっぱり考えることが多くなりましたね。

──その変化はやはり、経験の積み重ねと立場の変化によるものなのでしょうね。

もう人生の半分以上を演者として生きていることも関係あるのかな…。気づけば、どうすれば現場にいる皆さんがハッピーになれるのかを自然と考えるようになっていた──という感じなんです。

──素晴らしい思考だと思います。さて、山田さんは6月にドイツ・フランクフルトで開催される第26回日本映画祭「ニッポン・コネクション」で「ニッポン・ライジングスター賞」を受賞しました。同映画祭では『NEW GROUP』も上映、山田さんは6月7日に現地で行われる受賞式に登壇されるとのことですが、ドイツで楽しみにしていることは…?

(即答で)ビールです(笑)。本場で飲んだら、やっぱり美味しいんだろうなぁと、今から楽しみにしていて。いろいろなビールを味わってきたいなと思います。

──素敵な旅となりますよう! そして、お忙しいさなかに気分をリフレッシュしたり、リセットする際にどんなことをされているのかを、お聞かせ願えればと。

作品と作品の間とかだと、自分でジェルネイルをしたり──。作品に入るとできなくなるのでネイルして、美容室で髪を整えて…と、役とは離れた見た目のところでリフレッシュするようにしていますね。あとは旅行とまではいかないものの、サクッと近場へお出かけしたり。それこそ、役を演じていないからこそできることをして、気分転換しています。

Profile
山田杏奈

2001年、埼玉県生まれ。2011年、「ちゃおガール 2011★」オーディションでグランプリを受賞。その後、モデル、女優として多方面に活躍。『ミスミソウ』で映画初主演、『小さな恋のうた』で第 41 回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、『山女』で第 15 回 TAMA 映画賞最優秀新進女優賞を受賞。2024 年映画『ゴールデンカムイ』『正体』では第 37 回日刊スポーツ映画大賞・助演女優賞、第 48 回日本アカデミー賞・優秀助演女優賞、新人俳優賞を受賞。その他の出演作に、映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』『樹海村』『ひらいて』『恋に至る病』、ドラマ「未来への 10 カウント」「新・信⻑公記〜クラスメイトは戦国武将〜」『ゼイチョー〜 「払えない」にはワケがある〜』「リラの花咲くけものみち」「シナントロープ」などがある。

■『NEW GROUP』作品情報
2026年6月12日(金)全国公開
原案・監督:下津優太
脚本:下津優太 佐原百子
出演:山田杏奈
青木柚
駒井蓮 木下暖日 佐々木ありさ ロジャース歌乃
細井じゅん 松本亮 足立智充 坂倉なつこ 清水崇 前野朋哉
ピエール瀧
主題歌:藤原さくら「new world」Tiny Jungle Records
©2026映画「NEW GROUP」製作委員会

撮影/金井尭子
取材・文/平田真人

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