2026.07.08
【俳優・唐田えりか】映画『チルド』で感じた“慣れ”の怖さ。今、生きる実感を得る瞬間とは?
“生きながら、死んでいる。”というコピーが話題の映画『チルド』。第76回ベルリン国際映画祭フォーラム部門で異様な存在感を放ち、国際映画批評家連盟賞を受賞しました。2026年7月17日(金)、いよいよ全国公開となる本作に、俳優の唐田えりかさんが出演しています。
舞台は、24時間灯り続ける都内にある某コンビニ。そのコンビニで働く堺役を務めるのは主演の染谷将太さん。唐田さん演じる小河がアルバイトとして採用されたことで、これまで完全に管理されていた空間に歪みが生じ、やがて物語は静かに狂いはじめます。
社会批判的ホラーとして話題の『チルド』の魅力を、唐田さんにたっぷり語っていただきました。また、オフの時の過ごし方や、今後の俳優業についても。
観客の目線に一番近い重要な役を演じて思ったこと

——まずは今回の作品『チルド』の世界観をどのように感じたかを聞かせてください。
脚本の段階からとても魅力的で、いい作品になるんだろうなと感じました。とくに想像を裏切られる展開が面白く、「絶対に参加したい」と思いました。実際に映像になったらやっぱり面白いと感じました。
——作品はミステリアスでホラー要素もありますが、このようなジャンルに苦手意識はありませんか?
人間の怖さを描いている“幽霊が出ないホラー作品”は好きなジャンルなのでワクワク感しかありませんでした。染谷さん演じる主人公・堺の、生きているのか死んでいるのかわからないキャラクター設定と、コンビニという無機質な空間の中で繰り広げられるストーリーに魅かれました。
——強烈なキャラクターが多い中、唐田さんが演じた小河という女性は観客の目線に一番近いように感じました。演じる上でどんなところを意識されましたか?
私も脚本を読んだ時点で小河は登場人物の中で唯一自分の意志を持っているキャラクターだなと感じました。だからこそ、小河という人物を上手に表現しなくてはいけないな、と。たとえば、セリフのないシーンでも感情が見えるように意識したり、目に表情がある人物だと感じたので、目の前の人に対して目線をそらさず、じっと見たり表情が生きている人物として映ることを大事にしました。ただ、やりすぎてしまうとヒーロー感が出てしまうと思ったんです。だから岩崎監督にはバランスを見てもらいながら演じました。

——岩崎監督からは小河というキャラクターについてどんなリクエストがありましたか?
岩崎監督は役を押しつけるような方ではなく、「まずは思ったように演じてみてください」と言ってくれたので、自由に演じさせてもらいました。ある場面で私がどんな風に演じたらいいのか迷っていると、監督が自ら演じて見せてくれました。その芝居があまりにも上手くて、しかも面白いんです。見本を見せてくれたので、そこからは自分の色をつけて演じることができました。
染谷将太さんの芝居から受けた刺激


——今回、主演の染谷将太さんと共演してみてどんなことを感じましたか?
染谷さんも西村(まさ彦)さんも、私がこの仕事をはじめる前からテレビで観ていた方たちです。共演することが決まった時はシンプルに嬉しかったです。
その上で染谷さんは、学生の頃に観た『ヒミズ』という作品で知って、その時から素晴らしいお芝居をされる方だなと思っていました。今回の作品で私と染谷さんがファミレスで話すシーンがあるのですが、その時も染谷さんがお芝居をしているのかどうかわからないくらい自然で衝撃を受けました。染谷さんの真似をしたい、この境地に達したいと感じ、染谷さんの演技を見ながらたくさんのことを学ばせていただきました。
——染谷さんの魅力はどんなところにあると思いますか?
やっぱり“目”ですね。染谷さんは何を考えているのか、何を見ているのか、ある意味で危うい目を演技で見せてくれます。染谷さんのものでしかない唯一無二の目にとても魅力を感じます。
また、染谷さんと二人で芝居をするシーンでは息の吐き方や表情の作り方も勉強になりました。染谷さんがパッと笑うと、その表情を見ているこっちも楽しくなるんです。

——ストーリーを語る上で重要な役である西村まさ彦さんとの共演はどうでしたか?
西村さんの役どころはとにかく不気味な役で怖かったんですが、不思議と笑っちゃう瞬間もありました。でも、やっぱり最後まで怖いんです(笑)。「面白味」と「不気味さ」のギリギリのラインを、これまで培ってきた演技力で表現されているように感じました。控室にいる時はチャーミングで可愛らしい方ですが、呼ばれて現場に向かっていく最中、徐々に西村さんのまわりの空気が変わっていくんです。本当にすごい方でした。
——作品はコンビニで働く人たちに焦点を当てつつも、そこに流れる独特の空気感が恐怖心を引き立てていたように感じました。完成された作品をご覧になり、どんな印象を持たれました?
そうですね、私は作品を通して“慣れ”の怖さを感じました。作品の舞台であるコンビニがマニュアル化された世界を象徴していましたが、コンビニに限らず、私たちは仕事をする上でマニュアルやルールに沿うように求められることがあると思います。それは時に心を削らないとやり遂げられない瞬間もあると思うのですが、だんだん慣れて、心を削っていることすら気づかなくなってしまう。そういう、誰しも共感できるものが描かれているんじゃないかなと思いましたし、その“慣れ”に対しての恐怖心を作品から感じました。
旅先は普段の緊張がほぐれる“自然のある場所”が好き


——今回の作品の中で「生きている実感がありますか?」というセリフが印象的でした。唐田さんが今、生きていると実感するのはどんな時ですか?
些細なことですが、美味しいものを食べている時、「生きている」と実感します。今回の作品がクランクアップした日もそのままラーメンを食べに行きました(笑)。なにかを頑張った自分へのご褒美として、美味しいものを食べている時は幸せを感じますね。また、友だちと遊びに行ったり、おしゃべりしたりしている時間も大事にしています。
——作品を通して流れ作業のような生活を送ることに恐怖を感じました。唐田さん自身は日々、無意識に習慣化していて怖いと感じていることはありますか?
朝起きたら携帯をすぐに見てしまったり、家の中でも携帯が手放せなかったりすると怖いなと感じます。でもそんな時は積極的に外に出かけたり友だちに会ったり、リフレッシュすることを心掛けています。
——日常から切り離すために旅も一つの手段かと思いますが、唐田さんがこれまでに旅をした中で一番印象的だった場所はどこですか?
韓国ですね。これまで何度も行っているので印象深い場所です。国内であれば長崎の五島列島が印象に残っています。海が本当にキレイで感動しました。流れる時間も東京にいるよりもゆっくり感じて、一分一秒を大事に過ごしている実感がありました。五島列島にはこれからも定期的に行きたいと思っています。

——都会よりも自然のある場所で過ごすほうがお好きですか?
私は幼少期、緑が豊かな土地で育ったのでやっぱりのどかな風景が好きですね。お休みが取れれば実家に帰ることも多いです。自然の中に身を置いているだけで普段の緊張や凝りがほぐれていく感じがします。
——これからもいろいろな場所に行く機会があるかと思いますが、今一番行ってみたい場所はどこですか?
フィンランドに行ってみたいんです。一番の目的はオーロラです。自分の目で見てみたい。あとはサウナも気になります。ムーミンやサンタクロースなど気になるワードもいっぱいなので、今一番フィンランドが気になっています。
——やっぱり自然がある場所がお好きなんですね。
都会の喧騒も嫌いではありませんが、その中にずっといるとやっぱり疲れてしまうので、旅先に選ぶなら自然のあるところがいいですね。昔からカメラが趣味なので、フィルムカメラを片手に自然の風景を撮影したいです。
ジャンルや役柄問わず、さまざまな役に挑戦していきたい

——先ほど“幽霊が出ないホラー作品”は好きなジャンルとお話しされていましたが、おすすめの作品を教えてください。
國村隼さんが出演されている映画『哭声/コクソン』(2016年公開)という作品です。登場人物一人ひとりの言動に惑わされ、どれが真実なのか、誰を信じればいいのかわからない作品です。ミステリーやホラーが好きな方にはおすすめです。私は大好きな作品です。
——日韓で大きな話題となった作品ですね。
國村さんの演技が本当に怖いんですが、魅かれます。最近は生身の人間の怖さを描いた作品ばかり観ています。
——今年も出演された作品が次々に公開されますが、今後、挑戦してみたい役はありますか?
「この役がやりたい」という特定したものはありません。今回の小河役もかなり攻めた役だったと思いますし、過去作品では坊主にもなりました。これまで自分の中でチャレンジングな役をいただけることが多かったので、引き続き、どんな役にも果敢に挑戦していきたいですね。

Profile
唐田えりか
1997年生まれ、千葉県出身。2015年に俳優デビューし、雑誌の専属モデルなども務める。2018年公開作の『寝ても覚めても』では、第42回山路ふみ子映画賞の新人女優賞、第40回ヨコハマ映画祭の新人賞を受賞。Netflixオリジナルドラマ『極悪女王』での演技が話題を呼び、その後は映画『恋愛裁判』『禍禍女』『モブ子の恋』、ドラマ「102回目のプロポーズ」「君が死刑になる前に」(すべて2026年)など多数の作品に出演。9月には映画『Man』の公開も控える。
■映画『チルド』作品情報
2026年7月17日(金)よりテアトル新宿・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
出演:染谷将太 唐田えりか 西村まさ彦 くるま 長島竜也 他
監督・脚本:岩崎裕介
公式サイト:https://nothingnew.film/chilled_anymart/
撮影/渡会春加
取材・文/安田ナナ
<衣装協力>
ジャケット¥77,000、パンツ¥60,500(ディーゼル/ディーゼル ジャパン)
問い合わせ先:0120-55-1978
パンプス¥45,000(POOLDE)
問い合わせ先:info@poolde.jp
ネックレス¥209,000、イヤカフ¥23,100、人差し指リング¥49,500、
中指リング¥44,000(ジョージ ジェンセン/ジョージ ジェンセン ジャパン)
問い合わせ先:0120-637-146
編集部のおすすめやお知らせをアップしていきます。
この著者の記事一覧へ



