「人間」と「自然」の関係性を問いかける。東京ミッドタウン日比谷で開催中の『HUMAN AND NATURE』をレポート
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2026.10.02

「人間」と「自然」の関係性を問いかける。東京ミッドタウン日比谷で開催中の『HUMAN AND NATURE』をレポート

現代美術作家・平子雄一氏の展覧会「HUMAN AND NATURE」が、2026年10月18日(日)まで東京ミッドタウン日比谷の6階 ホールで開催されています。

日比谷公園からほど近い立地を生かし「ビジネス、芸術文化、そして自然環境が調和する都市空間の形成」を目指してきた東京ミッドタウン日比谷。2026年9月1日から新たな発信拠点としてオープンさせたホールのこけら落とし第一弾である本展のテーマは「人間」と「自然」の関係性について。

平子氏の新作を含む約300点の作品が集まり、さらには会場の外へと拡張する本展では、一体どのような世界観が表現されているのでしょうか。会場を訪ねました。

大きな立体作品が出迎える東京ミッドタウン日比谷

東京ミッドタウン日比谷の日比谷ステップ広場に特設された大型の立体作品『Sacred Tree 01』

東京ミッドタウン日比谷の日比谷ステップ広場には、9月26日までの期間限定で大型の立体作品が展示されていました。通りがかる人々がしきりに足を止め、スマートフォンで思わず写真を撮っては、しばらく作品を眺めている姿が印象的です。

緑豊かな樹木に角の生えた頭部に、衣服をまとった人間の身体を持つ不思議なモチーフ。そのキャッチーな佇まいは、絵本の登場人物のようでもあり、一見すると愛らしく、ユーモラスに映ります。このモチーフの姿こそ、平子氏の作品を象徴するモチーフです。

しかし、立ち止まってその姿をじっと見つめていると、単なる「かわいらしさ」だけではない、不思議な感覚が湧き上がってきます。都会のリズムの中にぽつんと取り残されたようなその佇まいは、観る人を作品の裏側に潜む世界へと静かに引き込んでいくようです。

語るのではなく「風景」を生み出す展示

6階 ホールの展示室に入ると、まず最初に視界に広がるのは壁面に展示された立体作品や絵画など。作品の多くはステップ広場で私たちを出迎えてくれたモチーフが登場しますが、そこで表現されているものには不思議な感覚を覚えます。

展示室に入ってすぐに広がる作品群の光景

積み上げられた本、切り株、自動車、果実など。モチーフとともに一つの作品の中で表現される物質は人工物と植物が入り混じり、当たり前のような顔をして同居しています。そのような作品群を眺めているうちに、ふとした疑問が頭をよぎります。

果実の上や内部、人工物など、さまざまな構造の上に立つモチーフ

公園、街路樹、オフィスの植栽、あるいは観葉植物…。都市の日常にも、自然を感じる光景は意外と多くあります。休日に少し遠出をすれば、自然を味わうレジャーはたくさんあり、そこで束の間の癒やしや刺激的な体験を楽しむこともできる。しかし、それは果たして「自然」なのでしょうか?

そのどれもが、人間の意に沿うように手を加えられた人工的なものでもあります。「人工的な自然」。そんな矛盾した言葉が頭に浮かびます。

平子氏は会場入口のメッセージで、以下のように問いかけます。

“私たちが癒やしを求める自然とは、実は人間の利便性のために管理された「高度にコントロールされた人工物」にすぎないのではないでしょうか。”

平子氏の作品は、環境破壊や開発を声高に糾弾するようなトーンはありません。むしろ、私たちの日常の延長線上にある風景を描くことで、「私たちが当たり前のように『自然』と呼んでいるものの正体は何なのか」という、普段は意識することのない違和感のありかを、そっと目の前に差し出してきます。

筆者としては作品の多くに書籍が付随しているのが気になる点だった。書籍は人間の知恵や人工物の象徴でもある

本展には、作品を詳細に解説するキャプションはありません。アーティストや展示者側から明確な「答え」を指し示すのではなく、鑑賞者が作品の中に入り込み、その風景の中から見出される思索や感情を味わえる空間になっていることがうかがえます。

実際、今回の展覧会の企画・監修者であり、東京藝術大学名誉教授や金沢21世紀美術館特任館長などを務める秋元雄史氏は、本展の狙いを以下のように語ります。

“物語を語るのではなく、風景を生み出すこと──平子雄一の創作の本質を体感できる展覧会です。”

自然と人間の「あわい」の中に佇む感覚

インスタレーション最大全長は筆者の身長より遥かに高い。狭い通路を抜けた先にある大型な構造物は、非常に大きなインパクトがある

本展の大きな見どころの一つが、空間全体を使ったダイナミックなインスタレーション。最初の展示区画を抜けると、目の前には大きな立体作品が姿を現します。この作品は一つの樹木を中心とし、モチーフはそれぞれが背を向ける形で私たちと相対する構造となっています。

その姿は何かを守るようでもあり、または一つの空間に身を置きながらも、どこかモチーフ同士に距離を感じさせ互いの相容れなさを描いているようにも見えます。

そのような感覚を覚えるのは、総面積1,200㎡を超える広大なホールの特性を生かした展示にもあります。立体作品の周囲に設けられた、ゆったりとしたスペースをぐるりと一周してみると、観る角度や距離感によって、作品がさまざまな表情を見せることがわかります。

本展はキャプションだけでなく、個別作品にタイトルも付けられていません。それは個々の作品が単独で意味をなすのではなく、周囲や隣接する作品たちが互いに関係し合い、これまでになかった視点を私たちに与えることで、鑑賞する人の中にさまざまな思いや考えが想起されるからでしょう。展覧会そのものが一つの大きな作品であり、そこを訪れた私たちもまた「HUMAN AND NATURE」に関与する当事者であると気付かされます。

整然とした都心のビルのなかにいるはずなのに、気づけば不思議な森の奥深くへ迷い込んでしまったかのような浮遊感。何が正解かを提示されるのではなく、ただ作品の世界観の中に身を置くこと。割り切れない「あわい」のなかに佇む感覚そのものが、本展の大きな魅力だと感じました。

最後の展示スペースにあるモビール群。モビールは糸やワイヤーでパーツを繋ぎ合わせて吊るした彫刻作品。重力によってバランスを保ちながら、吊るされていることによって空気の流れや風(屋外の場合)によって動きが生まれることが特徴

今回の展示は、初公開となる最大約3.5mにもおよぶ大型のモビール作品群によって締めくくられます。展覧会では作品保護や展示空間の世界観を崩さないため窓際の展示スペースでは遮光カーテンなどによって塞がれることが多い一方で、この展示スペースでは自然光を生かした展示がされています。

作品の向こう側にある都会的なビルと日比谷公園の姿は、本展が掲げるタイトル「HUMAN AND NATURE」を再び提示しているように思えます。展示室の内側にある「人工的に作られた植物のアート」と、窓の外に広がる「人間の手でコントロールされた都市と公園の緑」。その二つは決して分断されたものでなく、連続性があることがわかります。

実際、本展の試みはホールの展示室の中だけに留まりません。会期中、日比谷公園の中央部にある「つつじ山」には、本展の特設屋外展示として大型彫刻作品《Mirror Plant 01》が設置されています。こちらの作品はホール内の展示とは打って変わり、メタリックなモチーフが緑豊かな公園内に突如姿を現します。

日比谷公園のつつじ山にある作品『Mirror Plant 01』。つつじ山は日比谷公園内の「日比谷松本楼」の周辺にある

このような違和感が、まさに私たちが普段、当然のように認識する「自然」という定義の曖昧さを浮き彫りにするものだと感じました。そして今回の展示は、ただの一過性のものではなく、私たちが「人間」と「自然」の関係性について考えるための出発点を意図したものではないか。そう強く思いました。

展示だけを「食」と「アイテム」に拡張するコラボレーション・グッズも注目

展示スペースを出てすぐにあるミュージアムショップ。木材の壁面に飾られた限定アイテムは展覧会へのリスペクトを感じさせる

会場での思索や体験を、日々の暮らしへと持ち帰ることができるコラボレーション企画が用意されているのも本展の魅力です。東京ミッドタウン日比谷の3階にあるウェルネスブランド「NEUTRALWORKS.」のTシャツは、平子氏のアートワークがプリントされた50着限定の一着。その他にも白十字とコラボしたクッキーなど、平子氏のモチーフを生かした可愛らしいアイテムが目白押しです。

白十字とコラボした限定クッキー。平子氏のモチーフが缶の上に白地で現れつつ、缶のデザインは自然風景をあしらっていて、一つのプロダクトとしての完成度の高さが素晴らしい

さらに、6階 ホールでは人気生ドーナツ専門店「I’m donut ?」とコラボレーションした限定ボックス入りのドーナツも販売。

ホールの出入り口付近に特設されている「I’m donut ?」のコラボショップ

平子氏が本展のために描き下ろしたオリジナルイラストがあしらわれた特別パッケージは、鑑賞後のブレイクタイムやお土産として、展示の余韻を美味しく楽しめる嬉しい企画です。

店頭ではミュージアムショップでも販売されている平子氏のモチーフをかたどったぬいぐるみたちが出迎えてくれる

本展は多くを物語ることなく、一つの風景を作り出すことで、私たちがこれまで見ていた「自然」との関係性について再考させられるものでした。展覧会を観終えて外に出た時、日比谷の街並みや公園の木々は、来る前とは少し違った表情を見せてくれるはずです。

個人的には、本展は誰かと一緒に行くのがおすすめです。もちろん一人で行き思索を深めるのもとても良い体験でした。しかし、友人や恋人、パートナーと共に会場を訪ね、展示から感じ取ったことを話し合うのもきっと楽しいのでしょう。まずは「ここにこんなモノや動物がいておもしろい!」と見つけ合うとおもしろいと思います。

そうした小さな「おもしろい」「かわいい」「不思議」といった発見が、徐々に作品が投げかける問いかけへと連続していく。そんな素敵なコミュニケーションが生まれるような仕掛けが、この展示にはあります。徐々に秋の気配が深まる今、東京ミッドタウン日比谷を訪ねてみるのはいかがでしょうか。

■「HUMAN AND NATURE」
会期:2026年9月5日(土)~10月18日(日) ※会期中、休館日なし
開催時間:11:00~20:00(最終入館19:30)
会場:東京ミッドタウン日比谷 6階 ホール
住所:東京都千代田区有楽町1-1-2 東京ミッドタウン日比谷
入場料:オンライン券:一般2,000円/大学生・専門学生1,500円/中高生1,000円/小学生以下無料(当日券:一般2,200円/大学生・専門学生1,600円/中高生1,100円/小学生以下無料)

平子 雄一(ひらこ ゆういち)氏
1982年岡山生まれ、東京を拠点に活動。2006年にイギリスのウィンブルドン・カレッジ・オブ・アートの絵画専攻を卒業する。植物や自然と人間の共存について、また、その関係性の中で浮上する曖昧さや疑問をテーマに制作を行う。観葉植物や街路樹、公園に植えられた植物など、人によってコントロールされた植物を「自然」と定義することへの違和感をきっかけに、現代社会における自然と人間との境界線を、作品制作を通して追求している。ペインティングを中心に、ドローイングや彫刻、インスタレーション、サウンドパフォーマンスなど、表現手法は多岐にわたる。韓国、台湾、イギリス、アメリカなど、国外でも精力的に作品を発表している。

【企画・監修】
秋元 雄史(あきもと ゆうじ)氏
GO FOR KOGEIアーティスティックディレクター。東京藝術大学名誉教授、金沢21世紀美術館特任館長、国立台南芸術大学栄誉教授、美術評論家。1955年東京生まれ。東京藝術大学美術学部卒業。1991年から直島のアートプロジェクトに携わる。ベネッセアートサイト直島・アーティスティックディレクター兼地中美術館館長(2004–2006年)をはじめ金沢21世紀美術館館長(2007–2017年)、東京藝術大学大学美術館館長・教授(2015–2021年)、練馬区立美術館館長(2017–2023年)を歴任し、GO FOR KOGEIのアーティスティックディレクターを務める。主なプロジェクト・展覧会に、「スタンダード」「直島スタンダード2」(直島)、「第1–3回金沢・世界工芸トリエンナーレ」(金沢、草屯・台湾)、「工芸未来派」(金沢、ニューヨーク・アメリカ)、「ジャポニズム2018」の公式企画として「井上有一1916–1985 —書の解放—」(パリ、アルビ・フランス)、「あるがままのアート-人知れず表現し続ける者たち-」(東京)など。著書に『アート思考』(2019年、プレジデント社)など。

撮影・文/川島大雅

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