<山路酒造>時代を超えて愛される味。明治の文豪も魅了した滋賀の老舗 #巡る滋賀
滋賀県の最大の魅力といえば、滋賀県の代名詞でもある日本最大の湖・琵琶湖。その他、国宝の「彦根城」やユネスコ世界文化遺産の「比叡山延暦寺」など一度は訪れたい観光スポットもまた有名です。
でも、それだけではありません。有名観光スポット以外に焦点を当て深掘りすると、まだまだ知られていない注目ポイントがたくさん! それを知らないなんてもったいない…!
この連載では、「現地の方がおすすめしたいスポットやお店、それをつくるヒトの魅力をていねいに取材し、お届けする滋賀の観光ガイド“巡る滋賀”」の情報を発信していきます。
滋賀県への旅のきっかけやガイドブックとなりますように…そんな思いを込めて滋賀県の新たな魅力をお伝えします。
#山路酒造
近江随一の歴史ある酒蔵「山路酒造」が醸す、時を超えて愛される桑酒と、北国街道に息づく味わい
旧中山道と北陸を結ぶ北国街道の宿場町、交通の要衝としても栄えた長浜市木之本。この地で今も昔も変わることなくつくられてきたのが、かの島崎藤村も愛したという「桑酒」です。全国的にも珍しいユニークなお酒は、どうして人々に求められ、魅了してきたのでしょうか。500年に迫る酒づくりの答えを探して、「山路酒造」女将の山路祐子さんにお話を伺いました。
数々の資料・文献から知る桑酒の歴史

山路酒造の創業は1532年、日本で4番目に長く続く酒蔵です。歴史の舞台・ゆかりの地も数多いこの町で、その伝統を連綿と受け継いでいます。
酒づくりが始まったのは今から493年も前のこと(2025年取材時点)。時は戦国時代です。「桑酒と清酒と、どちらもその頃からつくり続けています。桑酒については、ご先祖が見た『桑を使ったお酒をつくると甘くて香ばしいお酒ができる』という夢のお告げをきっかけにつくられた、と伝わっているんです。それはほんと言い伝え、もう伝承ですよね(笑) 」

江戸時代の終わりごろからは、さまざまな資料で桑酒の記述を確認することができます。
「これは前田土佐守家資料館にあったもので、1816年に書かれた、お殿様のお付きの方の日記です。木之本にお泊まりになった際に『献上の桑酒を飲んでよろしき風味』とありますし、『徳利を2つ取り寄せた』ということも書かれています。江戸時代には木之本に桑酒があって徳利売りをしていたということがわかります」
酒蔵名の記述こそありませんが、江戸時代にあった木之本の酒蔵、桑酒をつくっていた記録、の2点から必然的に山路酒造を指すことになるのでは?と山路さんは考えています。


こちらは大正時代、桑酒の取り寄せを依頼するお手紙。宛名の『清平(せえべえ)』は山路酒造の屋号で、代々襲名してきた名前なのだそう。
「手紙には『桑酒を一升注文します。合わせて金6円を送るので、送料不足のときは言ってください。島崎春樹』と書いてあります」
島崎春樹とは、明治・大正期に活躍した小説家・島崎藤村の本名。このような手紙は何通かあるということですので、文豪も気に入って飲んでいたことが推測されます。

1965年に水上勉によって発表された小説『湖の琴(うみのこと)』。この中の一節にも桑酒のエピソードが盛り込まれています。
「お話は余呉湖を舞台にした女工さんのお話なんですけど、木之本は昔から養蚕が盛んで、桑畑がたくさん広がっていたということで出てくるんですね。ここの文に『山路さんの桑酒をたんと飲んで…』とあります。おそらく水上先生は取材して、書いてくださったのだろうなと思いますね」

かつては『滋養有功』とされた、独特の製造法
桑酒の味わいとして非常に顕著なのが、一度飲めばクセになるような独特な甘みとコク。しかし砂糖は一切使っていないというので、なんとも驚きです。

「桑酒って梅酒ぐらい甘いお酒なんですよね。梅酒は氷砂糖で甘みをつけますけど、桑酒は、糖度は同じくらいなのにお砂糖・甘味料は一切入っていないんです。皆さん不思議がるのですが、これは麹の糖化作用でできたブドウ糖、自然の甘みなんです」
甘みを引き出すつくり方。桑酒は、伝統みりん製法のリキュールであり、仕込まれた本みりんと、桑の葉や桂皮・五加皮などを焼酎に漬け込んだエキスを混ぜてつくります。原材料の配合は、一般的なみりんともまた異なるのだとか。
「麹の量がものすごく多くて、みりんを造っている方に伝えるとびっくりしていました。これはもう先祖から代々受け継いで造っていますので。それでも、伝統みりんの製法であるのは確かです」

店内には、その長い歴史を感じる古い大きな木製看板が飾られています。そこには『滋養有功』との文字が。「あれは昔の看板ということで。今はそういうことは言えないんですけど…」と山路さん。従来は桑の実や根などもいろいろと漬けこんだりしていたそうですが、現在は薬機法の関係もあり、入れられるものには一定の制限があります。
「30年ほど前ですかね、県の薬事関係の方が来られて薬酒の免許のお話がありました。長いこと続いてきた桑酒をやめなあかんのかなと危機が訪れたんですが、桑の葉なら“お茶にもなっているくらいなんで大丈夫”と許可をもらうことができたので、それからは葉を入れるようにしています。そうしてからもお酒の味自体はそんなに変わってはいないですね」
桑酒は薬酒ではないので効能はうたえませんが、桑の葉にも血圧を抑えたり、血糖値を下げたりする効果が期待できるとされています。

昔の看板にあるように、当時は薬用酒的な位置づけで人々に飲まれていたのかもしれません。
「ブドウ糖はけっこうね、疲れた体を癒やすっていうふうには言われていて。もちろんお薬ではないんですけど、今でも、ちょっと疲れたなっていうときに飲んでもらったら元気が出ますよ~くらいは言ってもいいのかな」

店内の看板はあくまで、伝統をあらわすために…、ということで。
「侍の時代からあったお酒ということで、外国人の方には『これはお侍さんの時代のエナジードリンクです』って伝えると皆さん笑ってくださいます(笑)
冷やしても、燗しても、割っても美味しい桑酒。気になる続きはこちら
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