【俳優・水上恒司】目には見えない人間同士の関係性を、点ではなく線で捉えて役の人物像を掴む
INTERVIEW

2026.08.01

【俳優・水上恒司】目には見えない人間同士の関係性を、点ではなく線で捉えて役の人物像を掴む

Prime Videoで世界独占配信中のPrime Originalドラマシリーズ『犯罪者』が、話題を集めています。高橋一生さん、斎藤工さん、水上恒司さんの3人を主演に据え、豪華キャスト陣が織りなす重厚なクライム・ミステリー。

先が読めないストーリーもさることながら、『トイレのピエタ』(15年)や『エゴイスト』(23年)で国際的にも評価の高い松永大司監督とスタッフ陣による丁寧な作品づくりは登場人物たちの心情も細やかに描き出し、目の肥えたドラマ好きの人たちも唸ることしきり。どのような展開と結末が待っているのか…期待は増すばかりです。

主人公の1人にして、白昼の通り魔事件に巻き込まれたことで人生が一変する繁藤修司を演じたのは、水上恒司さん。俳優としてのキャリアにおいて、この『犯罪者』という作品で松永大司監督とクリエーションできたことがすごく大きかったと、さまざまな媒体で語っています。いったい、何が水上さんをしてそう言わしめるのか…改めて深掘りを試みました。

演じていた自分たちでさえ予測がつかない」編集

──この取材時点で3話まで拝見したんですが、続きが気になって仕方がないんですよ。

僕も同じ気持ちです。早く続きが観たいですね。

──面白いなと感じたのは、資料としていただいた台本と映像本編を擦り合わせると、シーンの順番をはじめとして編集で相当いろいろ変わっていることなんです。それについて、松永監督から俳優部のみなさんにもお話はあったのでしょうか?

はい、聞いていました。ただ、撮影現場ではなくて、少し前(6月)に行われた「制作発表記者会見」の登壇前に雑談をしている時に、「撮った時とは違うものになるような編集の仕方をしているよ」と、松永さんからお伝えいただいていて。

──水上さんからすると、「このシーンとこのシーンがつながるのか!?」みたいな楽しみ方もできるわけですね。

そうですね。この『犯罪者』は撮影から配信までのスパンが結構短めだったので、わりと現場での記憶が鮮明ではあるんですけど、1年ぐらい前に撮っていて完成まで時間があった作品でも本編を見始めると、「あ、次のシーンはこうなって、その次はこうだったな」と記憶がフラッシュバックしてきて、だいたいの予測がついちゃうんですね。でも、松永さんの編集は演じていた自分たちでさえ次のシーンの予測がつかないので、そういう楽しさもあるなというのは、3話まで観ていて僕も感じていました。

──松永監督のような編集技法は特殊だったりするのでしょうか?

現場で撮っている時から厳密に「どういう編集をするか」念頭に置いて演出をされる監督さんもいらっしゃれば、松永さんのように“現場の役者たちが生み出すもの”に対して、とことん興味を持って、それぞれのアイデアを活かしながら組み立てていく監督さんもいらっしゃって。どちらがやりやすいとか、僕はそういうことを意識してはいないんですけれども、きっと編集されていて楽しいんだろうなとは思います。実際、僕自身も出来上がった作品を1話ごとに観ていて…正直、面白いんですよ(笑)。ご一緒した先輩方や役者の方々がどのように感じていらっしゃるかは分かりませんけども、少なくとも僕は面白いなと感じていて。映像作品での芝居って、撮っている時点ですでに役者のものではなくなることはわかっているつもりですし、それに対して何か言うことは本来は筋違いなんですけど、やっぱりどこかで「自分の芝居を生かしてほしい」みたいな欲が、少なからずあったりもするんですね。松永さんの編集は、そういった役者の思いも踏まえたつなぎ方になっているような気がしていて。しかも、シーンによってはカット割りに縛られず編集するという、かなり難しい技法も使っていらっしゃるんです。

──えっ、そこまで手の込んだことをしているんですか?

相当、手間が掛かっていると思います。お話を聞く限り、本当に細かいところまで…それがドラマをご覧になる方にとって印象に残るようなシーンかどうか関係なく、松永さんご本人はとことんこだわっていらっしゃって。そうやって細部にまで神経を使っていることが、この作品を面白くしている要因の一つなんじゃないかなと感じてもいるんですよね。

松永組を経て感じた、役者としてできること

──その松永監督のもと、高橋一生さんと斎藤工さんをはじめ、エンターテインメントに情熱を注ぐ人たちとともに意欲的な作品をつくれたことは、水上さんのキャリアにおいて大きなものになっていくのだろうなと想像しています。

すでに自分の中では大きな作品になっていますし、この『犯罪者』という作品に深く携わった人ほど、きっとほかの作品の現場とのギャップを感じざるを得ないような気がしていて。僕自身、『犯罪者』に携わる以前と以後では、作品作りに対する視点や感覚、考え方が変わりましたから──。もちろん、松永組だけが素晴らしいというつもりはまったくなくて、それぞれの座組の良さや長所があるんですけど、松永組で“違い”を知ってしまったのは確かであって。役者の1人である自分からすると、呼んでいただいた作品と座組に馴染んでいく、あるいは身を委ねていく必要性は理解しているんですけど、それでもやっぱり松永さんたちと『犯罪者』をつくる中で得た感覚みたいなものを、どこかで追い求めようとしているのも事実なんですよね。

──松永組での時間と手間を掛けたクリエーションを経験したことで、良い意味で作品づくりに対して欲張りになったという感覚でしょうか?

一度それを味わってしまうと、人間の性(さが)じゃないですけど…やっぱり「こうすればもっと良くなるんじゃないか? できるんじゃないか」と思うようになっちゃいますよね、どうしたって。でも、そこで「自分が求めているのは、これじゃないんだ!」と暴れてしまうのも違う気がするんです。もちろん、常に自分の表現欲を満たしてくれる作品に出合えるのなら、そんなに幸せなことはないですけど、役者はまず作品に呼ばれてこそ人生をまっとうできるので、その都度その都度ベストな芝居を提供していくことが大事なのではないか、と考えているんですよね。

──まずは打席に立って、来たボールを確実に芯で捉えて打つ、といった感じでしょうかね。

自分としては今までもそうしてきたつもりですし、地道かつ真摯に取り組んでいれば、宝のような出会いに恵まれることもあるんだな、と…『犯罪者』の現場で思えたんです。そういう出会いをちゃんと引き寄せられるように、そして出会いにも気づけるように感性をちゃんと磨いておくことが唯一、役者にできることなんじゃないかな、と。あれこれと言って自分のやりたいように周りを動かそうとすることもできるかもしれないんですけども、それは何か違うなとも感じていて。だったら、自分で出資をしたり最初から制作として入って、キャスティング然り──スタッフィングについても管理していく立場になって責任を負ってこそ、できることだと考えているんですよね。そこまで自分はやっていないのに、制作環境に対して何か言うのはフェアじゃないなって。

──まずはプレイヤーとしての役割をまっとうしてこそだ、と。理想の環境を求めるなら、プレイングマネージャー的な立場になれば、またアプローチも変わるんでしょうね。

それこそ野球で例えると、フィールドに立つ前のチーム環境だとか、それ以前の環境に対して選手が口を出すみたいなことじゃないですか。そこを要求するのなら、もっと違う責任を負わないといけないし、やらなきゃいけないことも増えてくるはずなんです。何でしょうね…正論を言うことはできるんですよ、でも行動が伴わないと説得力がない。「僕は、現場をこういうふうにしたいんですよね」と言ったはいいものの、「じゃあ、やってみて」と言われたら、役者1人じゃ何もできないんですよ。理想に近づけたいのなら企画を立ち上げて通したり、配給会社を決めたり、人を集める、お金を集める、ロケ地を決めていく、スケジューリングをしていく…というように、いろいろな段階を踏んで配信や公開、放映につながっているので、そこのプロセスに関与できないのなら本来は言うべきではないのかな、と思っていたりもするんです。

──行動が伴わなければ、ただのわがままになってしまう、と。

「また松永さんと作品をつくりたい」とか「松永組のような環境で芝居がしたい」という個人的な欲求はもちろんありますけど、現実的にそれだけを求めていても役者としては成長できないですから──。駄々をこねているより、いい芝居をするために何ができるかを突き詰めていくほうが建設的ですし、自分という役者を選んでくださった方々と作品のために、現場へ行ってカメラの前でベストを尽くす、ということを地道にやっていけば、いつかご褒美のような出会いに通じる…と信じてやるしかないな、と。

“線”で掴もうとする役づくり

──ちなみに、水上さんの定義する“いいお芝居”とは、どういったものなのでしょうか?

感覚的に言うと「自分を超えた瞬間」なんですけど、これは自分にしか分からないですよね(笑)。ほかの役者さんのお芝居を見ていて「いい芝居だなぁ…」と思うのは、その方ご自身の人生が見えた時──ですね。やっぱり実際に経験して肌感覚で知っているものこそが、至高だと思うので。もちろん、役によっては実人生で経験しようがないことを演じたり、見聞きして想像で埋めていかざるを得ない場合もあるんですけど、正直それだと強度が下がると思っていて。芝居が魅力的に映る時って、演者の人が役の話す言葉を自分のものにしている時なんですよね。役者さんご自身の人生経験を投影することによって役の実在感も増すと思いますし、役との境界線を超えることができるのかな、と感じていたりするんです。

──そういったところも踏まえつつ、『犯罪者』で演じられた繁藤修司という人物との境界線を、どう超えていったのでしょう?

修司の場合は、相馬(亮介/高橋一生)と鑓水(七雄/斎藤工)との3人でつくるベクトルの向きや強さ、質感といったものを、シーンごとに丁寧に把握しつつ理解した上で体現していく、という芝居の組み立て方をしていきました。たとえば…今、僕には“質問にお答えする”という目的があるじゃないですか。その都度、修司としての目的を把握して遂行しようとするベクトルを理解することで、繁藤修司という人物を立ち上げていったという感じですね。

──修司は何者かに命を狙われるわけですが、なかなか肌感覚で味わえないシチュエーションを、どう解釈したのかも興味深いところです。

ドラマの後半に追ってきている側と対峙するシーンがあるんですけど、その状況に身を置くことで具体的に「何だアイツ? 怖い! 逃げるか? いや、逃げつつも何かをしないといけない」みたいに、修司が向けるべきベクトルがたくさんあるんですけど、前半部ではそこまで「追われている」ことを意識していたわけじゃなかったんです。どちらかというと相馬と鑓水に対して、また3人でいる空間に対してどう思っているかを理解することで、修司という人物像をつくろうとしていましたね。相馬に「勝手に出かけるなよ?」と言われているのに呑気に出かけたりするのは、単純に若さゆえ、ですね(笑)。危機感がないわけじゃないんですけど、人生経験を踏んでいる相馬とのギャップを出すことと、「殺されるのを待つのは嫌だって言っただろ」という修司のセリフも汲んだうえで、僕自身の解釈を修司に投影していったといいますか…。

──つまり修司1人を点としてとらえるのではなく、相馬と鑓水との関係性も踏まえて人物像をふくらませていったということですね。

そうです。お名前をちょっと失念してしまったんですけど…ハリウッドや海外で活動されている方がおっしゃっていたことが印象的で。日本の役者は“点”でしか役を捉えていないことが多い、と。その役が何を考えているのか、悲しいのか怒っているのか楽しいのか…主観的でしかないけど、海外の役者は点と点を結んで線を掴もうとする、と言うんです。しかも人と人が関わり合って、相手に対してどう思っているのか──という線を結ぶにしても、必ずしも同じ一本の線になるとは限らなくて、二本の線になったりもする。それは関係性によって変わってくるんですよね。「なら、相馬と修司はこういう線になるよね、相馬と鑓水は違う線になるね」と、シーンごとにどの線を強く描くのかも違ってくるし、直線なのか曲線なのかも状況によって変わってきたりするわけです。人間同士の関係性における点も線も目には見えないものですけど、そこに興味を抱いて掴みに行こうとすることが、物語を形成していくにあたって大事なことなんだなと思いましたし、『犯罪者』の現場ではそれをしっかり描こうとしていらっしゃって…。だからこそ、僕は松永さんのものづくりに惹かれたんですよね。

これまでの旅で思い出深い地は?

──実に興味深いお話でした。で、海外というワードに掛けまして…今まで水上さんが旅した中で思い出深い地を挙げていただきたくて。

一番長く滞在したのが台湾で、『九龍ジェネリックロマンス』(25年)の撮影や「高雄映画祭」でも行かせてもらったので、やっぱり思い出が多い地なんですけど…自然の広大さで言うと、ロサンゼルスの砂漠地帯とカナダのバンフという地の山々は、すごく壮大でしたね。ただ、自分のベースはネイチャーのほうにあると思います。自然の中のほうが自分らしくいられる気がしますし。でも、人に興味を持って仕事をする必要がある立場としては、台湾の街並みのような雑多なところも必要な気がしますし──対照的ではあるんですけどね(笑)。

──では、もしも時間ができたら行ってみたい場所はありますか?

ヨーロッパに行ってみたいですね。パリとベルリンには行ったことがあるんですけど、どの国でも田舎を見てみないと本来の良さって分からないんじゃないか、と思っていて。それは日本国内も同じで、その土地ならではの素朴な文化を肌感覚で味わいたいという気持ちが、僕の中で強いからなんですよね。

Profile
水上恒司

1999年生まれ、福岡県出身。俳優デビューとなったドラマ「中学聖日記」にて大きな話題を呼ぶ。映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(23年)にて、第47回日本アカデミー賞・優秀主演男優賞を受賞。主な出演作品には、映画『弥生、三月 君を愛した30年』(20年)、『本心』(24年)、『九龍ジェネリックロマンス』『火喰鳥を、喰う』(ともに25年)など話題作多数。2026年10月には映画『本当にあった話(の話)』の公開を控える。

■『犯罪者』作品情報
配信日:Prime Videoにて世界独占配信中
キャスト:高橋一生、斎藤工、水上恒司 ほか
原作:太田 愛「犯罪者」(角川文庫/KADOKAWA)
監督:松永大司
脚本:櫻井武晴
音楽:川井憲次

スタイリスト/能城 匠(TRON)
ヘアメイク/Kohey
撮影/稲澤朝博
取材・文/平田真人

<衣装クレジット>
スーツ ¥143,000、シャツ ¥26,400、タイ ¥19,800
全てPaul Smith
お問い合わせ先:Paul Smith Limited
その他、スタイリスト私物

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