SERIAL STORY

2024.11.25

ベトナムで心躍るものを見つける旅【サパ編】
by Kana Sato vol.9

ブランディングディレクター、コンサルタントとして活躍する佐藤香菜さん。世界各国を旅して見つけた“本当にいいモノ”を見極める審美眼を持ち、SNSで発信する丁寧な暮らしが同世代から熱い支持を集めています。そんな佐藤さんが、普段愛用しているコスメやいま気になっているモノ、旅先でのエピソードなど、美容からライフスタイルまで赤裸々に語ってくれる本連載。

第九回は、「ベトナムで心躍るものを見つける旅【サパ編】」についてお話いただきました。

今回は4泊で行ったベトナム旅レポートの後編をお届けします。

ハノイに2泊し、3日目の夜22時過ぎ出発の寝台バスに乗り込んで向かった先は、中国国境方面にある街サパ。ベトナムには54ほどの少数民族が存在するのは【ハノイ編】でも触れましたが、これから向かうサパ周辺にも、花モン族、黒モン族、赤モン族、タイ族、赤ザオ族・・・など多くの民族が今も伝統を守って暮らしています。

ハノイからサパに向かうには、寝台列車、寝台バス、チャーターした車などいくつかの方法があるのですが、わたしが選んだのは滞在時間を有効活用できる寝台バス。片道6時間ほどの移動ですがとても快適で爆睡できました。 身長174cmのわたしが仰向けで寝てちょうどぴったりな個室はとっても派手(笑)ライトアップもギラギラですが、靴を脱いで入るバスの中は掃除が行き届いており清潔で無料のお水や毛布 も用意されています。

途中に2度ほどサービスエリアのような場所に停車するため、トイレに行ったり、飲み物や軽食も購入することができます。あまりによく眠れたので、サパの停留所についても熟睡していたわたしを、運転手さんが笑いながら起こしてくれました。


美容に関わる仕事をしていることもあり、世界の美容&健康習慣を調べるのがとても好きです。今までも世界中の珍しい温泉やスパをはじめ、体に良さそうなことを自分の身体で体験してきました。これはもはやわたしのライフワークで、実際に仕事で役に立っているかはわかりませんが、そのどれもが大切な思い出であり学びです。

ここサパ周辺に住む赤ザオ族が習慣にしている、薬草風呂(ハーバルバス)について知ったのは今年に入ってから。ネット記事で読んだことがきっかけでした。そうなるともう止まらない「このお風呂に入ってみたい!」という好奇心。今年は出張でもプライベートでも旅に出ることが多かったため、ちょっと旅立ち過ぎかな・・・とも思いましたが、仕事に支障が出ない程度に4泊の弾丸スケジュールにてフライトチケットを予約したのでした。

さて、サパに到着してすぐに予約しておいたホテルに荷物を置き、いざ赤ザオ族の村へ、予約していた車で出発です!

さっそく舗装されていないガタガタ道を進むドライバーさん。わたしがここに来る3週間ほど前にベトナム北部の中国国境付近は大きな台風による被害が出ており、ここサパも土砂崩れで道がぬかるんだままの場所が目立ちます。山の斜面から流れ出た赤土を眺めながら、さらに山奥へ向かい、1時間もかからずに到着したのは、今回お世話になる赤ザオ族のメイ・キムさんご自宅。

さっそく庭に薬草らしきものが干されています。仕切りのない家の中はとても風通しが良く、農家だった父親の実家を思い出す造り。2階は収穫して精米した米の保存場所になっているそうで、日本の田舎の景色にも似ている気がします。ご挨拶したら早速、ここのお家のお母さんで薬草の知識が豊富なメイ・キムさんとその娘さん、義理の娘さんと一緒にカゴを背負い、いざ山の中 へ!

歩き続けること1時間以上・・・笑っていますが、すでに息切れ。まだカゴの中に薬草は入っておらず、ここからさらに急な斜面を登っていきます。普段東京のアスファルトしか歩いておらず、すぐにタクシーに乗るという生活をしているため、自分の脚がいかに鍛えられていないかを実感。するとメイ・キムさんが手に持ったナタを振り上げ、バサッとその辺にある枝を刈り、ちょうどいい長さに整えるとわたしに手渡してくれました。そう、これは即席の杖!

この手際の良さがかっこよすぎて見惚れるわたし・・・。そういえば富士山に登ったときも、5合目で買った杖のおかげでずいぶん助けられたんだったと思い出しながら、今回もまた、杖が1本あるだけで本当に支えになりました。

メイ・キムさんの娘さんは英語が堪能で、様々な薬草を見つけてはその効能や用い方を説明してく れます。

例えばこの2つの薬草は産後の女性のためのもの。ピンク色の花が咲く植物は煎じて飲むと出産直後の女性のエネルギー補給となります。折ったときに白い液体が出るこちらの枝はなんと、母乳の出を良くするのだそうです。

この枝は薬草風呂にも使うのですが、骨や関節の痛みのケアに使うそう。この枝の見た目も骨っぽいですよね。

植物というのは不思議で、見た目が似ている箇所に効いたりするもの。薬草の説明を聞きながら、改めてそのことを実感しました。

この赤い身の中身は私たちにも馴染みのあるスパイス、カルダモンです。ちょっとかじってみたのですが辛みと鼻から抜けるような香りが素晴らしく、生のカルダモンはこんなに美味しいんだ! と驚きました。

伝統の薬草風呂に使う薬草を山に採りに行くのは赤ザオ族の女性の仕事。赤ザオ族の女性は70代でも定期的に山に登って、さらにナタを片手に木に登り枝を切り落とす作業ができるそうで、それくらい足腰が強い! 50代のメイ・キムさんもこのとおり、足を滑らせたら崖に落ちてしまうような急斜面から生えた木に軽々と登り、次々と薬草を切り落としていきます。 わたしは枝を束ねるお手伝い。薬草のツルを紐のように使ってできるだけコンパクトにまとめます。メイ・キムさんは200種類以上の薬草の知識があり、それをどのように飲用したり、軟膏を作ったりするか、全て頭の中で記憶されているとのこと。娘さんはそれを覚えきれないからと、しっかりノートにまとめて受け継いでいるのだそうです。


道なき道を進み、山を登り続けて薬草を採ること3時間以上。カゴの中は薬草でいっぱいになり下山します。帰り道、赤ザオ族について気になることを色々と質問してみました。赤ザオ族の人を含む少数民族の伝統では、13歳くらいで結婚するのが当たり前だったそうですが、最近は時代に合わせて変化しており、早くても19歳くらいになってきたとか。メイ・キムさんの娘さんは村を出てハノイで住んだ経験があり、結局この村の暮らしを選んで戻ってきたけど、今は選択肢は広くなっているのよ、と教えてくれました。 また、お母さんのメイ・キムさんの世代は眉毛を剃り落とし、額も剃って広げるスタイルなのですが、その伝統も娘さんの世代はそれをもうやらないそうです。美しさの基準も変わったの、と。

しかし、変わらずに守り続けているのは手刺繍が施された民族衣装や赤い頭巾を着用することや、この薬草風呂の習慣などたくさんあります。もともとこのエリア一帯は収入源となる大きな産業があるわけではないため貧困の問題があったそうですが、赤ザオ族の薬草風呂はベトナム国内でも話題になり、今ではハノイやホーチミンのスパや高級ホテルでも採用されるなど、村にとっても貴重な収入となっているそうです。女性たちが守り続けている伝統が村を豊かにする。 とても素敵なことです。

たくさん歩き、お腹ぺこぺこ。ご自宅に戻ったらみんなでお昼ご飯! 自分たちで育てたお米、カボチャの炒め物、ほうれん草の炒め物、ミョウガのような花の炒め物、茹でキャベツ、(さっきまで走り回っていた)チキンの生姜煮込み、タケノコの辛い漬物などが今日のメニューでした。お米に合う味付けは、日本人のわたしにとってベトナム料理よりも馴染みがある味で、ここが中国との国境近くであることも納得の中華料理っぽい要素も感じられます。チキンはさっきまで走り回っていた捌きたて。飼料となるトウモロコシも自家栽培、健康的に育ったチキンは放し飼いのため身は引き締まっていて、1匹から1kg未満のお肉しかとれないとのこと。普段わたしが日本でいただいているチキンは丸々と太らせるように飼育されているはず。たくさん運動している健康的なチキンをいただいていたら自分も太らなそう・・・なんて思いながら、命を美味しくいただきました。チキンの煮込みの中にあった足の部分はこのお家のお孫さんの大好物だそうで、おんぶされながらチキンの足を器用に食べていました。

赤ザオ族の人たちには家庭ごとに伝わる特別な薬草風呂レシピがあります。メイ・キムさんの薬草風呂は35種類の薬草を使います。先ほど山の奥深くで採ってきた薬草は4人それぞれが背負ったカゴいっぱいの量でしたが、これをだいたい20名×1週間で消費します。 夏は週に3~4日、冬は毎日、この薬草風呂に入るとか。筋肉疲労が和らぎ睡眠のためにも欠かせない薬草が、よく働く赤ザオ族の人たちの健康を支えているのは間違いなさそう。それくらい赤ザオ族は引き締まったスタイルで、冷えやむくみ、肌荒れなんて無縁なのでは? と思うほど頬がツヤツヤ、表情もイキイキとしているのです。

これが念願の薬草風呂! 表面に浮いている泡は、手でこするとフワフワの泡が立つ葉っぱ由来のもの。薬草を煮出したお湯は濃い茶色をしており、漢方茶のようなスモーキーな香りがします。慣れない山歩きですでに筋肉も膝も痛かったので、このお湯に30分ほど浸かってゆっくりしました。お風呂に入るためにベトナムの秘境に来るなんて、子供の頃には想像もしていなかった。年齢と共に時間に縛られない働き方を少しずつ叶えながら、責任のある自由を謳歌できていることが嬉しくてなんだか感慨深くもなりました。

この薬草風呂はお家の裏側にある巨大な釡で煮出しています。そこから手作りの配管設備をつたって、木桶のバスタブには蛇口をひねれば薬草のお湯が出てくる仕組み。

メイ・キムさんご夫婦と、お孫さん。わたしがご自宅に滞在していたのは数時間ですが、その間お孫さんは常に誰かに抱っこされ語りかけられていました。ずっとニコニコと笑い声の絶えない赤ちゃんで「彼女はとてもHappy Girl」とのこと。みんなで子育てができるここの暮らしが本当に豊かで幸せそうで、こちらまで温かい気持ちになりました。また必ずここに来たいですと伝えてお別れの時間。

ホテルまでの帰り道、予約していた車のドライバーさんとたくさんお話をしたのですが、このあたりの少数民族もベトナム戦争に巻き込まれ、一時期は男性の人口が減ったほどたくさんの人が亡くなったそうです。身を守るためアメリカ側についた少数民族もおり、戦後も裏切り者としての扱いを受けるなど困難が続いたとか。エリアによっては観光地化しすぎている場所もあるが、赤ザオ族の村では旅行客を受け入れつつも伝統が守られていると思う、と教えてくれました。

メイ・キムさんのところでお裾分けしてもらった薬草風呂のための薬草MIXを、日本に帰国してから大鍋で煮出してお風呂に加えています。

グツグツと煮ると部屋中に焚き火のような香ばしい香りが漂い、心も落ち着きます。少量の薬草からかなりの量の濃縮エキスが作れるので親しい人にお裾分けしたりも。今まで入った入浴剤の中で一番良かったと言ってくれた友人もいました。薬草ならではの、全身の力が抜けて緩まるような「気持ち良いダルさ」を体験できます。

日々、外的な音や情報などを浴びながら緊張感を持って暮らしている私たちは、目も耳も頭もフル回転。良いことも悪いこともたくさん起きると心がついていけなくなることもあるかもしれません。そんなとき、1日の終わりにお風呂に浸かって全てを洗い流すと心まで柔らかくなるかも。毎日少しずつリセットして疲れをため込まない習慣として、お風呂にこだわってみることを続 けていきたいと思っています。

これからも世界の薬草に出会って健康&美容体験をしていくつもりです。


Branding Director 佐藤香菜


株式会社マッシュビューティーラボにて、オーガニックのコスメとインナーケア製品のセレクトショップ「Biople by CosmeKitchen」の立ち上げとディレクションを行ったのち、独立。ブランディングディレクター・コンサルタントとして多数の企業の製品企画立案、製品プロデュースから販路拡大に携わる。オーガニックコスメを巡る旅の様子はNHK「世界はほしいモノにあふれてる」への2度の出演や、Instagramアカウント @kana__sato622 で発信している。

>>vol.01 1人で旅する時間で気づくこと
>>vol.02 大人になった今だから本当の友人に出会える
>>vol.03 5月のパリ旅行記  おすすめグルメスポット!
>>vol.04 中国・ハルビン旅行記ーグルメ編ー
>>vol.05 中国・ハルビン旅行記ー可愛いモノ編ー
>>vol.06 夏の終わりの肌磨き!透明感がテーマのおすすめスキンケア
>>vol.07 石垣島のNEWホテルで過ごす、癒やしの旅へ
>>vol.08 ベトナムで心躍るものを見つける旅【ハノイ編】

TAG

BACK NUMBER

バックナンバー

VIEW ALL

CATEGORY

Ethical

コスメ

メイク

スキン

ボディ

ヘア

フレグランス

フード

ライフスタイル

インタビュー

連載

CONCEPT

新しいキレイ、
新しい自分と
出会う旅へ。

キレイノートは、
「キレイ」を軸に、日本に限らずヨーロッパ、アジア、
世界中の国々から、
contribution(貢献)と
solution(解決)のある情報を発掘して
お届けするメディアです。
皆さんが、まるでキレイに出会うために
世界中を旅して周っているような気分になれる、
そんなメディアを目指しています。

キレイ。
それは、鏡に映るキレイ。
そして、透き通った心のキレイ、ライフスタイルのキレイ。
海や緑や動物たち、私たちを取り巻く環境のキレイ。

そして、contributionとsolution。
人のお悩みの解決、コンプレックスの解消。
そんな人の毎日への貢献。
そして、エシカルであること、
世界の明日への貢献。

私たちが発信する情報が、新しくて、刺激に満ちた、
ワクワクするものであるように。
そして、たくさんの人達や世界のキレイに繋がっていくように。

キレイノートは独自の視点で、世界中から毎日キレイ情報を
集めて、読者の皆さまにお届けしていきます。

自分と世界を、もっと愛そう。

キレイノート

気になる国をトリップ!