今年1月開業。ホテルオークラ京都 岡崎別邸で京の意匠と美食を堪能する滞在
LIFESTYLE

2022.05.28

今年1月開業。ホテルオークラ京都 岡崎別邸で京の意匠と美食を堪能する滞在

ホテルオークラ京都

コロナ禍3年目の春を迎え、人流は戻りつつも、未だ入国制限があるため訪日観光客は途絶えたまま。インバウンドのいない京都の町並みは静謐で、どこか寂しさもありつつ、本来の美しさに触れられるような気がして、これはこれで忘れられない旅に。今こそ、いつもと違う京都に会いに行ってみてはいかがでしょう?

20年ぶりの新ホテルの舞台は京都岡崎

2022年1月20日、日本国内では約20年ぶりとなる「ホテルオークラ」ブランドの新ホテル「ホテルオークラ京都 岡崎別邸」が開業しました。

今回の舞台はその名の通り、美しい自然と文化・歴史が調和した京都の洛東・岡崎。銀閣寺や南禅寺、平安神宮、京都国立近代美術館、京都市京セラ美術館など、京都を代表する歴史的建造物や美術館が集まった文化的エリアであり、琵琶湖疏水に沿って続く哲学の道など、四季折々の景色を堪能できる人気の観光地でもあります。

その喧騒から離れた”別邸”で、ゲスト一人ひとりに寄り添うきめ細かなおもてなしや、洗練された美食に癒される滞在。

京都の地が持つ高尚で奥深い歴史、絶え間なく進化し続ける文化、職人技への尊敬の念が込められたこのモニュメントには、ホテル好きとして、あるいは日本人として、是非一度触れておきたいところ。

ひと足先に宿泊体験してきたのでどこよりも詳しくレポートします。

コンセプトは新時代の京の美意識

日本の伝統工芸は年々生産額が減少し、衰退している状況が続いています。この要因はライフスタイルの変化や、安価な大量生産品の普及などが挙げられます。

今回のプロジェクトでは、伝統工芸を未来へ繋ぎ、枠に囚われず挑戦し続けている後継者集団「GO ON」や京都を拠点に活動する作家と共に、「新時代の京の美意識」を体感できる場として、ジャパンクラフトの新たな可能性を世界に発信するホテル作りを目指したそう。

GO ONとは

2012年、京都の伝統工芸を担う若き後継者6人によるプロジェクトユニット「GO ON(ゴオン)」が結成されました。彼らはこれまでの領域の壁を壊し、新しい価値を社会に示すことで、伝統工芸の可能性を広げる挑戦をし続けています。現在、活動の幅は国内にとどまらず全世界に及びます。GO ONのオールメンバーが揃ってホテルとコラボレーションするのは初の試み。

細尾真孝氏(細尾/西陣織)

八木隆裕氏(開花堂/茶筒)

辻徹氏(金網つじ/京金網)

小菅達之氏(公長齋小菅/竹工芸)

松林豊斎氏(朝日焼十六世/朝日焼)

中川周士氏(中川木工芸/木工芸)

https://www.go-on-project.com/jp/

京の四季を感じるプライベートな枯山水

縁結びや安産祈願で知られる“うさぎ神社”こと、東天王岡崎神社を通り過ぎると「Hotel Okura」のサインが現れ、先ほどの観光地の喧騒が嘘のように、静かに厳かに佇みます。

小道や路地を漫ろ歩くような高揚感を味わえる回遊式のアプローチ。和紙の表情を活かした壁にひらひら揺らいで映し出される光と水面の反射。回廊の傍を流れる水の音に誘われるようにロビーへ。(そういえば先日取材した「The Okura Tokyo」のエントランスにも水鏡がありました。)

エントランスの扉が開くと、春の暖かな陽射しと、凛と咲く京の迎え花がゲストをお出迎え。その先に見えるのはホテルのプライベートな日本庭園。京を感じさせる砂紋と木々たちが季節の訪れを知らせます。

開業に合わせて新たに植えた梅や桜の木が配された迎春の庭や、モミジなどが楽しめる千秋の庭を散策できます。

春をテーマにしたプライベートな日本庭園

親鸞聖人草庵跡として伝わる寺院「真宗大谷派岡崎別院(東本願寺岡崎別院)」に隣接しており、境内の豊かな自然や日本庭園の四季折々の景色を満喫できます。

エレベーターホールから客室までは、修学院離宮からインスピレーションを得ているとか。エレベーターホールは竹門、廊下は散策路、客室は山荘に見立ててデザインされています。

銀閣寺に代表される「侘び・寂び」「風合い」「調和」などの美意識や「書院造」「庭園」「水墨画」といった空間そのもの、その連続性に美しさを見出す東山文化の基本的概念をホテルの至るところで感じられるのです。

いくつ見つかる?散りばめられた伝統工芸品

館内には京都を拠点に活動するアーティストたちによる先進的な工芸品が随所に配置されています。滞在中はまるで宝探しをするように、京の美や職人による手仕事を其処彼処で楽しめます。

1. 金網つじ(GO ON)

レセプションを彩るのは「金網つじ」によるオリジナルランプシェード。丸みのあるフォルムに、灯りを灯すと天井や壁面に影の模様が浮かび上がります。繊細な銅線を1本1本丁寧に編み込んだ職人の手仕事によって、京の伝統に新風を吹き込み、やわらかな温もりに変えてゲストを迎えます。昼はオブジェとして、夜は煌めきが内から外へと滲む幻想的な世界を演出しています。

2. 公長齋小菅(GO ON)

エレベーターホールには「公長齋小菅」による竹格子。間接照明と共に訪れたゲストをあたたかく包み込み、やさしく気持ちを切り替えて、プライベート空間へと誘います。

3. 開花堂(GO ON)

客室の玄関でゲストを迎えるのは、明治八年創業の日本で一番古い歴史を持つ手作り茶筒の老舗「開化堂」が制作した銅製のルームナンバー。長年継承されてきた茶筒の製法によって作られており、時と共に深みを増し、経年美化を楽しむことができます。スイートルームは漆塗りに。

4. 中川木工芸(GO ON)

全スイートの一角を飾るのは、伝統的な木桶の製作技法を用いて白木の美しい木製品を数多く制作している「中川木工芸」中川周士の作品。「柾合わせ」という木の正目を合わせる桶指物の技法を用いた独自の技巧により、美しい年齢の模様の現れが魅力。

5. 西陣織 細尾(GO ON)

8室ある別邸スイートのうち2室は、「細尾」がホテルオークラ京都 岡崎別邸のために設えた西陣織のオリジナルアートを設えています。光と揺らぎを纏った湖面がインスピレーションの源で水面を織物で表現しています。いずれのスイートルームもベッドボードから天井へと連続する西陣織が広がります。

6. 朝日焼(GO ON)

レストラン個室中央の棚を象徴的に飾るのは、「朝日焼十六世」の松林豊斎氏による茶盌。400年続く宇治の茶陶・朝日焼の歴史と伝統を継承し、綺麗寂びという思想を基本に時代ごとに新しいことに挑戦し続けています。この場所のために作られた一点もので、特徴的な月魄秞(げっぱくゆう)による独自の淡いブルーが個室空間に凛とした空気感とやさしさを生み出します。

7. 書家 川尾朋子

書家の川尾朋子氏が空中での筆の動きに着目した作品「呼応」の連作(6部屋)を堪能できる全室バルコニー付きのスイートルーム。

8. 日本画家 小島徳朗

レストラン最奥の壁を彩るのは、京都を拠点に活躍する日本画家・小島徳朗による抽象絵画。この場所からインスピレーションを得ながら描かれた絵は、ここにしかない一点ものの作品。

旬のデザートとシャンパンを味わう昼下がり

ロビーフロアはレセプション、レストラン、ラウンジのぞれぞれのゾーンを壁で仕切ることなく、ひと続きになっているのが印象的。外の景色を堪能できるように、あえて窓と平行に間接照明を伸ばすことによって、手前から奥へと空間を緩やかにつなげ、自然にゲストを奥へ奥へと誘い出す工夫がなされています。

日本建築の縁側から着想を得て、窓際の床を上げて設計したというラウンジ空間。一服のお茶と共に美しい庭園を鑑賞しながら安らぎのひと時を。

サイフォンコーヒーは、19世紀初頭にヨーロッパで開発され、日本では大正時代から知られています。使用しているコーヒー豆はカフェインをほぼ含まない品種で、すっきりとした飲みやすさと芳醇な香りが特徴。アルコールもまた、Laurent-Perrier La Cuvéeの辛口シャンパンからリキュールを使用した本格カクテルまで豊富なラインナップ。

苺をふんだんに使用したパフェはこの季節ならではの贅沢な一皿。

枯山水に見立てたモンブランと「祇園辻利」の抹茶アイスを添えて。

日本庭園を望むスモールラグジュアリーなガーデンルーム

スイートルーム8室を含む全60室の客室で、オークラブランドとして手掛ける初のスモールラグジュアリーホテル。

40㎡から始まる広々とした客室は、「東山に佇む山荘」をテーマに、山荘から眺めた湖畔の水面を表現した西陣織や、地産地消となる銘木「北山杉」の丸太を柱に用いた違い棚、スーペリアルームの外観には簾を連想させるルーバー(鎧戸)などを配し、天然の風合いやリュクスな素材感を楽しめる空間に仕上げています。

細尾が手掛けた西陣織のデザインを用いたルームキー

機能性の中に伝統とモダンが絶妙に調和する客室で、静かに心癒されるパーソナルスペースを満喫できます。

英国発ラグジュアリーオーガニックブランド「bamford」のバスアメニティ

バスアメニティには英国発のラグジュアリーオーガニックブランド「bamford(バンフォード)」を採用。バスルームに広がる高貴な香りに癒されます。

ネスプレッソのカプセルとディルマのティーバックが並んで彩り豊か

冷蔵庫の中身はソフトドリンクからアルコールまで全てコンプリメンタリー。ネスプレッソをはじめ、チェックイン時にウェルカムドリンクとしていただいた「かぶせ茶」を客室でも味わえます。

ジムはミニマムでありながらも最新機器を取り入れていて、食事前に軽めに体を動かしてお腹を空かせておきたいところ。

ホテルの利用を中学生(12歳)以上に制限していることもあり、どこもかしこも落ち着いた雰囲気で、まさに大人の隠れ家として相応しいアコモデーションです。

オークラフレンチの伝統を継ぐヌーヴェル·エポックが京都岡崎にも

日本のフランス料理を常にリードしてきたオークラの伝統に新風を吹き込む「Nouvelle Epoque(ヌーヴェル・エポック)」が京都岡崎の地に誕生しました。

レストランの窓一面に広がるのは、美しい岡崎別院の庭園と連なる豊かな風景。時の移ろいや季節を感じ、癒されるひと時。

窓と呼応するように設置されたアートシェルフには、木工、漆、錫、ガラスなど、様々な素材を用いた、京都を中心とした気鋭の作家による作品が彩りを添えます。精巧に作られた独創的な作品たちは、食事をするゲストたちの目を楽しませる一翼を担っています。

公長齋小菅の竹細工を挟んで通路側にも作品がリズミカルに並び、奥に位置する個室へと向かうゲストに期待感を高まります。環境と調和しつつも、訪れたゲストの感性をやさしく刺激します。

プライベートな時間を贅沢に満喫できるよう、離れの個室空間を。京都は屋根が美しい街として知られることから、勾配屋根を内側から取り入れた建築に。日本建築の特徴でもある寄棟屋根を彫刻的に再現し、勾配屋根を内側から感じながら過ごせる象徴的な空間を作っています。地窓からは優しい光が差し込むと共に、外に広がる石庭を楽しめます。

イノベーティブ・ガストロノミーで美食体験

The Okura Tokyoのフランス料理「ヌーヴェル・エポック」で副料理長を務めた山下シェフ。イノベーティブ・ガストロノミーをテーマに、オークラフレンチの系譜を引く美食と、京都の四季や食文化を融合させた、その名に相応しく“新しい時代”(=Nouvelle Epoque)のフランス料理を提供します。

旬をとらえ、繊細な味わいを表現した料理の数々や、オークラフレンチを代表するスペシャリテに京のエッセンスを取り入れた一品など、ゲストのダイニングシーンを華やかに彩ります。伝統をしっかりと継承しつつ、京の美意識に彩られる日本庭園や器、カトラリーと共に、革新的で美しい唯一無二の料理。

チーズに合わせるソーテルヌ。ペアリングのセレクトも秀逸なので、ぜひワインと共に味わいところ。
ブルターニュ地方のハーブソルトのサブレブルトン。徳島産鳴門金時クリームと、旬の果実と共に「祇園辻利」の抹茶アイスを添えて。泡状にしたココナッツソースを纏い、雪解けの浅瀬に聴こえるせせらぎをイメージしたホテル自慢のスイーツ。ささやかな京都らしさを感じる一皿。
ほうじ茶のマカロン、カヌレ、プチタルト、和三盆のサブレ、ショコラなど、最後の最後まで目にも楽しいプチフール。

Menu

アミューズ

旬の魚とイクラのマリネ

雲丹をのせた堀川ごぼうのフラン

北海道産ホタテのクルート焼き

七谷鴨のロースト エビスと山椒の香り

2種類のフロマージュと自家製ジャム

シャンパン·ロゼのエスプーマとフレッシュベリー

徳島産鳴門金時のクリームとハーブソルトのサブレブルトン

小菓子

※ランチ·ディナーはスマートエレガンス(男性はジャケット着用)

オークラ名物のフレンチトーストを味わう朝食

はじまりはお酒の仕込み水としても使われる京の名水「伏水」から。

春夏秋冬ではもちろん、朝と夜で異なる表情を見せるダイニング。

ここでの朝食は2種類から選べます。京の朝露から始まる「きょうと·ブレックファスト」では、京都市北部の静かな里、美山の食材が豊富に使用され、一日のスタートに彩りを添えます。オークラ名物のフレンチトーストも。

自然の力強い味わいを感じられる、色鮮やかな菜園風サラダにはキヌアと西京味噌を使った自家製のドレッシングを合わせて。

ストレスの少ない美山の平飼い卵をエッグベネディクトに。

オークラ伝統のフレンチトーストには、深い甘みとコクが楽しめる亀岡産の天然はちみつ「そよご」を添えて。

終わりに

近年は“映え”ることを意識した華美な見た目や奇抜なコンテンツにどうも目が行きがちですが、「ホテルオークラ京都 岡崎別邸」で見た、シンプルでありながらも本質·本物に触れるような経験が実はとても大切で、ハッとさせられる瞬間でした。

この地に息づく“侘び·寂び”の東山文化と、そこから着想を広げた美意識、自然素材そのものの力、洗練された美食、ゲストに寄り添うおもてなしの心、その全てを五感で受け止めて、何とも言えない幸福感に包まれました。

美食を愉しむ“オーベルジュ”的な側面と、京の意匠を愉しむ“美術館”的な側面を見事に兼ね備えたホテルは他にあるでしょうか。

これまで時間をかけて丁寧に大切に受け継がれてきた伝統を踏襲しつつ、さらに新風を吹き込むことで可能性を広げ、次の世代につないでいく。「オークラ」と「GO ON」に共通する、熱い想いに触れられたような気がします。

岡崎という地に、京都の新時代の到来を感じる旅となりました。

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