ミュージアムの屋上に芽吹く、100年先への実験畑―MoN Takanawa「MoNファーム」始動
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2026.09.10

ミュージアムの屋上に芽吹く、100年先への実験畑―MoN Takanawa「MoNファーム」始動

2026年3月、高輪ゲートウェイシティに開館した「MoN Takanawa: The Museum of Narratives」。その名の「MoN」には、新たな自分と出会う「門」と、未来を考え創造するための「問」という、ふたつの意味が込められています。運営するのは一般財団法人JR東日本文化創造財団。“100年先へ文化をつなぐ”というミッションを掲げ、これまで育まれてきた伝統や文化に現代の価値観とテクノロジーを重ね合わせながら、国内外のパートナーとともに文化の創造と発信を続けています。

地上6階・地下3階、延床面積は約29,000㎡。約1,500㎡の大空間「Box1500」やLEDシアターとしても使える空間「Box1000」、畳敷きの「Tatami」など、ジャンルを横断する展示・体験空間が館内に広がる一方で、屋上には都市の喧騒から一歩離れた庭があります。桜が季節を追って咲き継ぐ「花見テラス」、月の映り込みをデザインした「月見テラス」、そして今回主役となる屋上庭園「MoNファーム」です。

屋上に芽吹く、“生きたアーカイブ”

このMoNファームが、2026年7月、新たな一歩を踏み出しました。単なる緑化や癒やしの庭ではなく、「植物を育てるだけでなく、その背景にある知識や技術、人と自然との関係性を未来へつないでいく”生きたアーカイブ”」として運営していくといいます。植え、育て、収穫し、味わい、語り合う——その一連の営みを通じて、来館者一人ひとりが文化の担い手となり、新たな物語を紡いでいくことを目指しています。

プロジェクトには、性格の異なる三つのパートナーが参画します。拡張生態系・シネコカルチャーの構築支援を行う株式会社SynecOは都市生態系の1つの例として、関東域の生態系を多様性・ネットワーク指標から解析し、約4,400種の植物候補の中から日本の在来性を尊重した植物種を選び抜いて植生グリッドに配置します。

もう一つは、千葉・大多喜町で薬草園を蒸留所へと改修したmitosaya薬草園蒸留所。ナツメやシャシャンボ、レモンマートル、クロモジ、気候変動に強いデザートライムなど、食・香り・健康にまつわる植物を育て、収穫物を蒸留や発酵を通じて文化体験へと展開していきます。

そしてもう一つが、2021年から高輪ゲートウェイ駅周辺の事業者・学校・住民とともにホップを育ててきた地域コミュニティ活動「TAKANAWA HOP PROJECT」です。まちの緑を育てる活動の新たな栽培拠点として、MoN Takanawaが加わります。

一つの農法や価値観にとどまらず、異なる知見が横断的に交わることで、農業・食・蒸留・生態系・地域コミュニティを越えた新しい文化の実践を生み出し、その過程そのものを未来へ継承していく——それがMoNファームの目指す姿です。

7月12日には、参加者とともに苗を植えるオープニングイベント「種びらき——文化を耕す、未来を植える」が開催されました。

第一部ではSynecOとmitosayaによるトークセッションが行われ、第二部では植え付けワークショップと参加者交流の時間が設けられました。来館者や地域住民、企業関係者、子どもたちなど多様な人々が集い、この屋上に新たな生態系の最初の一歩を植えつけました。

mitosayaが見つめる、屋上に広がる可能性

MoNファームのディレクションを担うパートナーの1人「mitosaya薬草園蒸留所」の山本祐布子さんに、プロジェクトに込めた思いを伺いました。

mitosayaは千葉県大多喜町の農園に加え、清澄白河にノンアルコールドリンクの充填施設も構えています。MoNファームで育てる植物も、「人間の暮らしに融合させていく植物」という視点で選ばれ、食用・装飾用・薬用などの用途別に区画を分けて栽培しているといいます。LAUBEを運営する株式会社WATと連携した庭づくりそのものをクライアントワークとして手がけるのはmitosayaにとっても新たな挑戦。

「都心で自然に触れたい」「観賞用だけでなく日常に取り込みたい」というニーズの高まりを受け、MoNファームはただ眺めるだけでなく、実際に触れて、香って、味わう“体験”を軸にしています。摘んだハーブでハーブティーをつくったり、芽吹いたばかりの植物を食べてみたり——そうしたワークショップを年間を通して開催予定です。すでに屋上庭園は、近隣の幼稚園に通う子どもたちのお散歩コースにもなっているといいます。

現時点で100種類以上の植物が植えられており、今後も少しずつ植栽を差し替えながら、将来的には森のような姿へと育てていく構想です。巨峰やシャインマスカット、ホップなども植えられ、いずれ木陰ができれば憩いの場になっていくはずです。「植物が持つ可能性を、用途としてアイディアを出していくこと自体が、体験として楽しい」と山本さん。この屋上での体験が、自宅のプランターで野菜を育ててみる、といった小さなきっかけになればと話してくれました。

文化の余韻を受け止める、最上階のレストラン「LAUBE」

菜園と地続きの物語を持つのが、6階のルーフトップレストラン「MoN Garden Restaurant LAUBE」です。ドイツ語で”草陰の小屋”を意味する店名には、「都市の空に浮かぶ、文化の余韻を静かに受け止める“避難所”」というコンセプトが込められています。ミュージアムでの体験の余韻に浸る場所として、あるいは都市の喧騒から離れ、自分自身の輪郭を取り戻すための小さな逃避の場として機能することを目指しています。

空間デザインを手がけたのは、mitosaya薬草園蒸留所の改修設計も担った中山英之建築設計事務所です。「庭の隅の道具小屋」をイメージした飾り気のないセメント板や白いタイルに、広葉樹のアームレストなど手に触れる部分だけ丸みを持たせ、人と物の接点にやわらかさを添えています。

料理は土地の物語を持ち寄ったものが主軸です。野菜や穀物を中心としたプレートや焼き立てサンドイッチといった滋味深いメニューに、自社製のケーキやアイスクリームが並びます。

週末の夜は「クラフトナイトテラス」として、mitosaya薬草園蒸留所とのコラボレーションによる季節限定カクテルや、mitosayaが清澄白河に設立した「CAN-PANY」のモクテルも提供されます。

そして今後はこのLAUBEのメニューに、屋上庭園MoNファームで育てたハーブや果実が取り入れられていく予定だといいます。菜園で育まれた植物が、料理という形でもう一度ミュージアムの物語に還っていく——自然の循環と文化の記憶が溶け合う場所として、LAUBEはこれからも表情を変えていくでしょう。

SynecOが仕掛ける、屋上のグリッド実験—拡張生態系という視点

©Masatoshi Funabashi 20260805

MoNファームのもう一つのパートナー、株式会社SynecOにも話を伺いました。人間が自然にどう働きかけられるかという研究から出発し、アフリカの半乾燥地域や森ビルの屋上庭園などでの実験を経て設立されたのがSynecOです。「破壊か保全か」という二項対立ではなく、人間が関われば関わるほど生態系の機能が高まっていく状態として一般化された「拡張生態系」の考えをもとに、社会実装に取り組んでいます。この考え方は、SynecO代表取締役社長で、ソニーコンピュータサイエンス研究所の研究員でもある舩橋真俊氏が提唱したもので、都市部では麻布台ヒルズの緑地をはじめ、都心のさまざまなプロジェクトにもすでに実装されているといいます。

MoNファームでは今年6月、約60種類の植物を植え、緩やかにゾーニングしました。1m×1mの9マスからなるグリッドは、単なる区画ではありません。手前には関東でよく見られる草丈の低い在来種を、奥には芭蕉など気候帯がずれた将来の日本列島で育ちうる亜熱帯系の植物を配置し、空間と時間という2つの軸で生態系の変化を展示しています。シソやミョウガ、京野菜、タチバナ、ハスカップ、島らっきょうなど、本来同じ土壌で出会うことのない植物たちが共存する光景は、MoN の敷地内と関東域の植物種で相互に機能し合える約4,400種の候補から、最適な組み合わせをアルゴリズムで導き出した結果だといいます。

植物の多様性のみならず土壌微生物の活性や、有機物をどれだけ多様に分解できているかといった数値まで計測しながら、ここを先進的な実験とコミュニケーションの場として育てていくそうです。多様な生物との関係のなかで育った植物は、自らを守るためにさまざまな物質を体内でつくり出し、慣行栽培の植物とは成分の割合や分布変わることも研究でわかってきているといいます。都心の屋上という小さなフィールドにも、うつろいゆく四季や訪れる人々との交流を通じて、100年先の生態系のあり方を探る実験が埋め込まれています。

高輪から始まる、100年がかりの庭づくり

画像提供:MoN Takanawa

「100年先へ文化をつなぐ」というミッションのもと、MoNファームは急がず、一年、また一年と時間をかけて育っていく庭です。都市の屋上という限られた空間で、植物と人、そして異なる知見を持つパートナーたちが交わりながら紡いでいく物語は、私たちの媒体が強化しているサスティナブルというテーマにも重なります。

まだ木陰のない小さな庭が、いつか森のような憩いの場になり、訪れる人の暮らしにまで小さな種をまいていく——そんな100年がかりの物語を、これからも見守っていきたいと思います。

◼︎MoN Takanawa: The Museum of Narratives 屋上「花見テラス・MoNファーム」
https://montakanawa.jp
◼︎mitosaya薬草園蒸留所
https://mitosaya.com
◼︎株式会社SynecO
https://www.syneco.inc

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