2026.06.03
フェリーで向かう温泉地。「界 雲仙」からはじまる、車に頼らない九州周遊旅
北は福岡から南は鹿児島まで、離島を含めると直線距離で約600kmにもなる九州エリア。ひたすら車を運転するロードトリップも良いけれど、フェリー、バス、電車、飛行機… あらゆる公共交通機関を乗り継いで旅をするのが、実はこの地ではもっともスマートな選択かもしれません。
たとえば、島原、博多、熊本、唐津など、九州エリアには300近くの港が点在しており、陸路よりも海を渡ったほうが合理的な区間も少なくありません。
フェリーには車やバイクごと乗船できるため、ツーリング中のライダーにも人気が高いルートです。船に揺られながら、有明海を飛び交うカモメの群れを近くに感じられるのはまさに船旅の特権。航路を選択肢に加えるだけで、旅の幅はぐんと広がります。

今回の旅では、日本有数の温泉地が点在する九州エリアで展開する星野リゾートの「界」シリーズを巡る周遊プランを体験しました。3泊4日、レンタカーを一切使わずに公共交通機関を乗り継いで、3つの宿を渡り歩く旅の記録を拠点ごとにお届けします。
まず1泊目は、2022年11月に開業した「界 雲仙」からスタート。
日本初の国立公園に湧く硫黄の地
Day1: 界 雲仙

長崎県島原半島の中央部、標高700mの高原に位置する雲仙温泉郷。開湯1300年とその歴史は古く、奈良時代に僧・行基がこの地に寺を開いたのが温泉利用の起源とされています。
江戸時代には出島のオランダ商館医であったシーボルトやケンペルも訪れ、ヨーロッパに雲仙の名を伝えました。明治以降は上海や香港に暮らす西洋人が訪れる国際的な避暑地として発展した、という経緯があります。

1934(昭和9)年には日本で最初の国立公園(雲仙天草国立公園)に指定され、その地位は今も変わりません。泉質はpH2.0前後の強酸性で殺菌作用の高い硫黄泉(酸性硫化水素泉、含鉄硫酸塩泉など)。地名の「雲仙」は「温泉」と書いて「うんぜん」と読んでいたというほど、この地域と湯は切り離せない関係にあります。
温泉街の中心に広がる「雲仙地獄」は30余りの地獄が点在する九州屈指の地熱地帯で、さまざまな哀史や伝説を今に伝えています。観光スポットにとどまらず、江戸時代のキリシタン弾圧の舞台ともなった歴史の重みを持つ地でもあります。
13:50 長崎空港から送迎サービス

羽田空港から約2時間。長崎空港への着陸とともに今回の旅が幕を開けます。
空港から界 雲仙までは車で約90分。宿泊者向けの送迎サービス(有料・要予約)を利用すれば、乗り換えなしで無駄なくアクセスできます。13時50分に空港を出発し、15時過ぎには宿に到着というスケジュールは、初日の午後を有意義に過ごすのにちょうど良いでしょう。
15:00 チェックイン

雲仙の地に足を踏み入れた瞬間、硫黄の香りに包まれ、地の底からモクモクと噴き出す蒸気や熱気が辺り一面を覆い尽くす、幻想的な世界に圧倒されます。ロビーの向こうに広がる大きな池と雲仙の山々、湧き立つ湯けむりがゲストを出迎えてくれます。

界 雲仙にある全51室のすべてが地域の文化に触れるご当地部屋「和華蘭の間」というのがポイント。和(日本)・華(中国)・蘭(オランダ)の要素が混ざり合った長崎固有の文化を指す言葉。鎖国下の日本において、西洋との唯一の交易拠点として機能した長崎・出島。オランダ商館、中国貿易商、そして日本人…さまざまな人と文化が交差したことで生まれた独特の美意識が、和華蘭文化として今も長崎に根付いています。




インテリアや調度品の随所に和華蘭の要素が散りばめられています。たとえば、パーテイションやキーホルダーには色鮮やかなステンドグラス、長崎ビードロを使用した照明、長崎凧をモチーフにした波佐見焼きのアートなど、細部まで世界観が一貫しています。


中でもおすすめは、温泉をメインで楽しめるように部屋の半分以上を露天風呂と湯上がり処が占めている、“客室付き露天風呂”と名付けられたユニークな発想の部屋タイプ。雲仙地獄の揺らめく湯けむりや四季折々の壮大な自然を眺めながら、自分の好きなタイミングで心ゆくまで湯船に浸かれます。日中はあたたかな日差しに包まれ、就寝前には星を数え夜風を感じる贅沢な湯浴みに。
16:00 温泉いろは


「温泉いろは」は、界ブランドのすべての施設で提供されているプログラムで、宿が位置する温泉地の個性や入り方の作法を、スタッフがガイド形式で解説してくれるものです。温泉の泉質、効能、地獄との関係性、雲仙の歴史的背景など、ただ湯に浸かるだけでは得られない文脈を丁寧に教えてもらえます。
特に雲仙温泉のような歴史と地質と文化が複雑に絡み合った土地では、背景を知ることで湯そのものへの解像度が上がります。ガイドブックを持ち歩いてひとりで調べるよりも、効率的かつ記憶に残る時間になりました。



「湯小屋」と呼ばれる大浴場のある別棟には、ステンドグラスからやさしい光が差し込む内風呂と、眼前に地獄の湯けむりを望む野趣溢れる岩造りの露天風呂の両方が備わっています。内風呂は源泉かけ流しのあつ湯と、心身ともにリラックスできるぬる湯の2つの浴槽があります。ステンドグラスの意匠は長崎のキリスト教文化へのオマージュであり、ここでも和華蘭的な文化の混淆が意識されています。
18:00 夕食「あご出汁しゃぶしゃぶ会席」



夕食の「あご出汁しゃぶしゃぶ会席」は長崎の食文化を重層的に味わえる、全品に目配りの利いた構成。「あご」とは、九州でトビウオのことを指します。本州では馴染みが薄い食材ですが、九州では古くから出汁の素材として重宝されており、特に長崎・島原周辺では「あご出汁」が食文化の基底を成しています。


先付けは、雲仙温泉の源泉で焼いた「湯せんべい」に豚角煮リエットを合わせた一品。土地の名物を洋の技法でアレンジした仕立ては、出島から続く長崎らしい和洋の混在をさりげなく体現しています。


続く煮物椀は蛤真薯の潮仕立て。「宝楽盛り 八寸」には宝珠玉子、利休南瓜、小蛸甘露煮、菜の花と小柱のお浸し梅ジュレ、かぶらすり流し、海老のひばり和え、よもぎ麩鶏味噌田楽、いぎりすの酢味噌と、長崎近海や島原の地食材が一皿に集約されています。


揚げ物は海老蓮根俵揚げ、白魚奉書揚げ、野菜天ぷら塩レモン仕立ての三種。



台の物は「あご出汁しゃぶしゃぶ」。あごから引いた出汁は、カツオとは異なるすっきりとした甘みと奥行きのある旨みが特徴で、素材そのものの味が問われる鍋です。〆には五島うどんを投入します。椿油で手延べされるもちもちとした五島うどんは、あご出汁との相性が見事に合います。


甘味は「枇杷のかんざらし 界 雲仙風」。かんざらしは島原発祥の郷土菓子で、白玉に甘い蜜をかけたものです。長崎を代表する果実・枇杷をあしらった界 雲仙独自のアレンジで、会席は静かに締めくくられます。
先付けから甘味まで、一皿ごとに長崎という土地の歴史と地理が積み重なっていくような会席でした。
20:30 和華蘭ラウンジ


夕食後にはトラベルライブラリーが「和華蘭ラウンジ」に変身します。世界文化遺産「大浦天主堂」のステンドグラス修復で実際に使用されたガラスの端材を贅沢に活用して光を投影した幻想的な空間。色彩豊かなステンドグラスをイメージしたオリジナルカクテルと、昭和レトロを体現したミルクセーキの2種。ノスタルジックなラウンジの雰囲気と調和するような、どこか懐かしい味わいに癒やされます。


夜のライトアップした雲仙地獄を散歩するのもおすすめ。目の前で噴気する地獄から立ち込める噴煙に吸い込まれていくような神秘的な体験で、昼間とはまったく違う景色が広がります。高原の澄んだ空気を吸いながら、ゆったりとした夜を過ごせます。
7:30 雲仙地獄パワーウォーク

翌朝は雲仙地獄を一周する、宿泊者限定のアクティビティに参加しました。標高700メートルの清涼な空気と、白い噴気の中を歩く非日常感は、都市で暮らす日常ではなかなか得られない体験です。


起点は宿の隣に位置する「清七地獄」。「ヤー! ヤー!」と鬼を退治するように発声しながらいつもより早足で力強く闊歩したり、深い呼吸を意識しながらストレッチやエクササイズを組み合わせたり。熱気と硫黄の香りを全身で感じながら、いくつかの地獄を巡ります。


最後は「旧八万地獄」にある広場で地熱を感じながら寝転がるメディテーションで締めくくります。
杖を使って呼吸のリズムを整えながら歩くスタイルは、見た目よりも実際の運動強度が高め。パワーウォークでしっかり汗をかいた後は、温泉でリフレッシュ。大地のエネルギーやパワーを全身で感じることができる体験でした。

地獄の番人の如く、たくさんの猫たちが湯けむりを背景に地熱で温まりながらマイペースに私たち観光客を出迎えてくれる光景に癒やされました。
9:00 朝食「具雑煮朝食」

具雑煮とは島原を代表する郷土料理。江戸時代初期、島原の乱(1637〜1638年)において一揆勢が籠城した際、山や海のあらゆる食材を雑煮に入れて食べたのが起源とされています。具材は餅、鶏肉、魚介、野菜など多岐にわたり、時間をかけてじっくりと煮込まれた一杯は、歴史の重みと深い旨みが同居しています。
具雑煮を中心に、本日の焼き魚、玉子焼き、利休牛蒡(ゴボウのごま和え)、島原納豆味噌、干し海老の卯の花、彩りなます、豚の角煮、白飯、昆布梅、香の物、ヨーグルトが揃う和食膳です。どれも主張しすぎない滋味ある味わいで、朝の胃にすんなりと収まっていきます。


中でも「島原納豆味噌」は、味噌に刻んだ納豆を合わせた島原固有の調味料で、白飯との相性が抜群です。観光地で「名物」として演出される料理ではなく、日常の食卓に根ざした料理がそのまま並ぶ朝食膳は、土地の暮らしに触れるような感覚があります。
10:45 ご当地楽「活版印刷体験」

界ブランドの全施設では「ご当地楽」と呼ばれる、その土地の伝統文化や工芸に直接触れる体験プログラムが無料で提供されています。界 雲仙のご当地楽は「活版印刷」です。


長崎は日本における活版印刷の発祥地とされています。16世紀末、天正遣欧少年使節がヨーロッパから帰国する際に活版印刷の技術を持ち帰ったのが起源。ずらりと並んだ本物の活字から、使いたい文字や数字をピンセットで一つずつ選び取り、枠にはめ込んでいきます。初心者でも取り組めるよう型が準備されているため、悩みすぎなければ体験時間内に十分完成できます。最後は印刷機にセットして実際に紙に転写する工程まで体験でき、刷り上がったカードは持ち帰ることができます。
インクの滲みや微妙な文字のブレが生み出すレトロな質感は、デジタルプリントでは再現できない「手仕事の味わい」そのものです。旅の記憶を言葉にして刷り込むこの体験は、ほかの土産とは異なる種類の記憶として残ります。
12:00 チェックアウト

チェックアウトし、次の目的地・熊本へと向かいます。
界 雲仙から島原港までバスまたはタクシーを利用し、島原港から熊本港へはフェリーで。島原港からは「オーシャンアロー」(熊本フェリー)または九商フェリーが運航しており、有明海を渡って熊本港まで約30〜60分で結んでいます。(JR熊本駅までのシャトルバス込みで要予約)


有明海の中間地点から見る九州の景色は、左手に雲仙岳、右手には熊本方面の山並み。船の上にいるからこそ、出会える景色です。九州の港の多さと、海路が持つ可能性を実感するのに最良の場面でした。
次回<熊本編>では「OMO5熊本」を拠点に、熊本の街をとことん歩き倒す旅をお届けします。
■界 雲仙
住所:長崎県雲仙市小浜町雲仙321
アクセス:長崎空港から車(送迎サービス利用)約90分
公式サイト:https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiunzen/
ご当地部屋:和華蘭の間(露天風呂付き客室あり)
ご当地楽:活版印刷体験〜凹凸の魅力〜
アクティビティ:雲仙地獄パワーウォーク、温泉いろは
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17歳から読者モデルとして「Vivi」「JJ」「non-no」など多数女性誌に出演。6年にわたってMBSラジオパーソナリティを務める。大学卒業後、化粧品会社勤務を経て、フリーランスに転身し、ヨガインストラクターを務める傍ら、トラベルライターとして世界中を飛び回る。過去渡航した国は47カ国。特にタイに精通し、渡航回数は30回以上。ハワイ留学、LA在住経験有り。現在は拠点を湘南に移し、全国各地を巡りながら、東京と行き来してデュアルライフを送る。JSAワインエキスパート呼称資格取得。
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