【俳優・杉咲花】旅する時には「その土地で出会ったものを大切にしたい」
INTERVIEW

2026.06.25

【俳優・杉咲花】旅する時には「その土地で出会ったものを大切にしたい」

TVドラマ「冬のなんかさ、春のなんかね」でもタッグを組んだ杉咲花さんと今泉力哉監督が、多部未華子さんを迎えて作り上げた配信ドラマ『クロエマ』がPrime Videoで配信中です(毎週金曜日に3週にわたり配信。全5話)。

原作は『逃げるは恥だが役に立つ』で知られる漫画家・海野つなみさんの同名コミックス。仕事も家も失ったエマ(杉咲花)が、謎めいた資産家で占い師のクロエ(多部未華子)と同居することになる物語です。

今回は、杉咲さんにとってターニングポイントになったという映画『市子』(23)から最新作に至るまでの“仕事”“旅”“暮らし”について語っていただきました。

念願叶って、再びハワイへ

――2024年に『朽ちないサクラ』でkirei noteにご登場いただいた際、「ハワイにもう一回行きたい」と仰っていましたね。その後、2025年に「Another Sky」(日本テレビ)で叶えられました。

夕焼けを見たり、美味しいものを食べたり、大地の力に癒やされたいというのが自分の中のテーマでしたが、実際に訪れるとそういったものを凌駕するくらい人との繋がりを感じられた時間になりました。ご一緒した撮影チームの皆さんもそうですし、現地で案内して下さったハワイの方々も含めて、皆で本当に仲良くなれたんです。

海外に行くと、人との距離が近くなる感じがありますよね。自分のキャパシティが見える瞬間もありますし、そういった時にどれだけ人と関わり合えるか、自分がどんなスタンスでいられるかを試されている気がします。特に今回はパーソナルなお話もする番組だったからこそ、余計デリケートになる感覚もありました。ただ、自分がいつも思うのはどこに行くかも大事ですが、行った場所で出会った人たちとどんな景色を見て、どんな話ができるかのほうがずっと大切だということです。ハワイで生まれた信頼関係が、自分にとってはとても大きな出来事になってくれました。

――映画『ミーツ・ザ・ワールド』の撮影後には、リフレッシュで北海道に旅行に行かれたと仰っていましたね。

一昨年のことですね。自分で車を運転して、札幌を拠点に、富良野など様々なところを巡りました。

――ちなみに、杉咲さんにとって旅の醍醐味とは?

正直言うと私は旅を多くするほうではありませんが、だからこそその土地で出会えるものは大切にしたいんです。観光地に行くのも素敵ですが、個人的には地元で愛されているようなお店を探したりするのが好きなんです。あとは、器が好きなのでセレクトショップを回って良いな、と思えるものに出合えたら買って帰ったり。使うたびに「あの時あそこで買ったな」と思い出せるのがいいな、と思って。

――日常の中にリフレッシュできた時の記憶や思い出が入っていくのが素敵ですね。

旅って、自分の暮らしに帰っていく時間な気がします。旅に出るたび、自分の住まいが好きだということを確かめに行っているというか。日常の大切さを再確認できる時間になっています。

おうち料理のこだわり

――先ほど「美味しいもの」のお話がありましたが、杉咲さんは食事シーンが印象的な作品に多く出演されてきましたね。去年の『ミーツ・ザ・ワールド』でもラーメンや焼き肉を食べるシーンが素敵でしたし、今回の『クロエマ』でもパフェを中心に美味しそうなものばかりが登場しました。共演者の方やスタッフの皆さんも「食べっぷりが素敵」と仰いますが、杉咲さんにとって食べることとは?

食べることは、人生の楽しみです。くたくたになって家に帰ってくるような時でもなるべく美味しいものが食べたくて、自分で作ったり、好きなお店まで行ったり。1日に3回しか食べられないので、やっぱり大事にしたいですね。

――素敵です。ちなみに、おうち料理でのこだわりはありますか?

すっぱいものやニンニク料理を食べると元気が出るので、仕事の時は量を調整しつつですが、好んで摂ることが多いかもしれません。

最近だと、去年からぬか漬けをはじめました。親しくさせていただいている料理家の細川亜衣さんにアドバイスいただいて青梅と山椒の実を入れたら次の日に格段に美味しくなっていて「こんなに違うんだ」と本当に感動しました。

――不勉強で恐縮ですが、ぬか漬けはまめにケアしないといけませんよね。

そうですね。毎日のルーティンになっています。はじめた頃は生真面目に早起きして30分くらいかけて混ぜていましたが、亜衣さんに相談したら「そんなにやらなくて大丈夫だよ」と言われて、最近は3分くらいになりました(笑)。

“冬のさ春のね”で撮影監督から学んだこと

――ここからは『クロエマ』について伺えればと思います。杉咲さんが本作で演じられたエマを「ちょっとエキセントリックな思考の飛躍がある人物」と分析されていたのが印象的でした。確かに、エマは物語を転がしていく役割も担う分、非常に動的な人物ですよね。杉咲さんはお芝居をされていく中で「役をわかった気にならない」を大切にされていると仰っていましたが、繊細なリアリティラインの設定が必要だったのではないかと感じました。

非日常的な出来事が様々な場面で巻き起こるような、リアリティだけでは成立しない魅力のある作品ですよね。その中でどこまでフィクション性をもたせていくかの塩梅をつかむのが最初は難しく、クランクイン前から、主に今泉力哉監督とすり合わせを重ねていきました。そして撮影現場では、どうお芝居のバランスを取ったらよいかを今泉監督が細部に至るまで調整して下さったと感じています。また、多部未華子さんがそこにいるだけで成立させてくれるような力を持った佇まいで隣にいて下さったので、自分はとにかくお2人についていこうという気持ちでした。

――杉咲さんは今回、組んでみたかったスタッフの方々とご一緒できたとお話しされていましたね。杉咲さんが惹かれるスタッフの方々にはどんな特徴があるのか、気になります。

純粋に自分が好きな邦画のスタッフクレジットでよく目にする方々でしょうか。エンドロールを眺める時間は、ご一緒したことのある方の名前を目にできるので、家で見る時などは画面を停止して熟読したりもします(笑)。

撮影監督の岩永洋さんは今泉監督の作品でもたくさん拝見してきましたが、画の美しさやそこに流れる哲学のようなものを感じるだけでなく、タッグを組まれる方によってアプローチがまったく違って見えることに毎回感動があって。『こちらあみ子』や『若武者』の鋭さ、どのシーンを切り取っても美しいカットの数々に「こんな画も撮る方なんだ」と衝撃を受けて。ご一緒することが夢だったんです。

岩永さんとは『クロエマ』に続いてTVドラマ「冬のなんかさ、春のなんかね」でもご一緒しましたが、実際にお会いしても、やっぱり素敵な撮影監督でした。私が画の中からいなくなってまた戻ってくるシーンを撮っていたとき、フォーカス(カメラのフォーカスを合わせる役職)のスタッフさんに「足音が聞こえてくるぐらいの間で合わせてほしい」と仰っていて。実際の撮影現場では、室内にいたスタッフさんたちから私の足音が聞こえることはなかったはずなので、とても感覚的な話なんですよね。

「画に映す」ということも演出のひとつであり、お芝居でもあるんだ、という気付きがあったりもして。岩永さんの繊細で厳かな美的感覚に惚れ惚れするような出来事でした。

――杉咲さんはこれまで数多くの現場をご経験されてこられましたが、ご一緒されるスタッフの方によって作品のカラーも大きく変わるでしょうね。

本当にそう思います。お芝居をするうえでも、スタッフさんは一番近くにいる人たちなので、ちゃんと心を開けないとお芝居はできないと感じていますし、自分のことも信じてもらいたい気持ちがあります。

――それを実現するために、現場ではどんなことを実践されているのでしょう。

当たり前のことですが、皆さんの名前を覚えてなるべく呼びかけたり、目を見て話したりするように心がけています。現場に携わる方はたくさんいらっしゃるので、中にはほとんどご挨拶ができない方もいるんです。でもだからこそ、たった一瞬でも、気持ちが届いたらいいなと思っています。

『市子』以降で感じる変化

――杉咲さんは2023年の映画『市子』がご自身のターニングポイントになった、と仰っていました。個人的には同作以降、『クロエマ』に至るまで、現代社会を生きる人々へのメッセージを含んだ作品に出演されている印象を持っていますが、周囲からの反応は変化しましたか?

どうなんでしょう。でも確かに肌感覚として、周囲の人々が『市子』以前/以降と一つのフェーズとして受け取って下さっているのは感じています。自分としてはやってきたことは大きくは変わっていない感覚なのですが、強いて違いを挙げるとしたら「俳優としての欲を抑える」ということだったのかもしれません。私はすごくプレッシャーを感じてしまうタイプなので「いいシーンにしたい」「期待以上のもので応えたい」と気負いすぎてしまうところがありますが、『市子』ではそこと距離を置いて、ただそこに立つことを今まで以上に意識しました。

『市子』は特に、自分の感情がどこに行くのかわからない部分が作品の最大の武器になりそうな感覚もありました。脚本を読むと自分の中で「これくらいの温度まで上がりそうだな」といったイメージがなんとなく湧くようになってきたのですが、そういった自分の中でのOKラインであったり、出口を決めないことを大切にしたいなと思っていたんです。

――固めすぎずに監督や演出家の方に委ねていくようなマインドを得た形でしょうか。

そうですね。あとは、自分にとって、脚本に書かれるト書き(台本に記された動きの指示)は、ある種呪いのように体に刻まれる感覚があって。これまでは、ト書き通りにお芝居が出来なかったらどうしようという気持ちになってしまいがちだったのが、それは必ずしも良くないわけではないと思えるようになってきました。例えば台本のト書きで「泣く」と書かれていたとして、仮に涙が流れなくても、それはそれでその時の心の動きに素直であるということで、むしろそのほうがいい場合もきっとあるはず。その場でしか起こらないことを大切にできたほうが、予定調和ではないことが起こりますし、そういうものを大事にしていくことで深みや面白さが生まれていくのかもしれないという捉え方の変化がありました。

――素敵ですね。余白や余裕にも繋がる気がします。『クロエマ』の現場ではいかがでしたか?

『クロエマ』では起こっている物事が面白くて、自分が笑いをこらえるのに必死な時間がたくさんありました。そんな時に今泉監督がパッと来て下さって、思ってもいなかったような一言をかけて下さることで集中するポイントが変わっていく奥深さがありました。

――今のお話に関連して、ご自身のパブリックイメージに対して杉咲さんはどう捉えていらっしゃるのでしょう。

自分としては、比較的アンテナを張っている方なのではないかと思っています。世の中にどう受け止められているのかを知りたいですし、その上で、それだけじゃないところも表現していきたいというか。その期待をどう裏切っていけるかを意識しています。

Profile
杉咲花
1997年、東京生まれ。映画「湯を沸かすほどの熱い愛」で第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞・新人俳優賞はじめ、多くの映画賞を受賞。主な出演作に、連続テレビ小説「おちょやん」(20〜21年)、「杉咲花の撮休」(23年)、「アンメット ある脳外科医の日記」(24 年)、「冬のなんかさ、春のなんかね。」、映画「トイレのピエタ」(15年)、『十二人の死にたい子どもたち』(19年)、『⻘くて痛くて脆い』(20年)、『市子』『52ヘルツのクジラたち』(ともに23年)、『片思い世界』(25年)などがある。

■Prime Originalドラマシリーズ『クロエマ』
2026年6月12日より毎週金曜日3週にわたり配信
出演:杉咲花 多部未華子
岩瀬洋志/井之脇海 河井青葉 野添義弘 諏訪太朗/光石研
原作:海野つなみ 『クロエマ』(講談社「Kiss」連載)
監督:今泉力哉
脚本:今泉かおり
主題歌:LAUSBUB『sign(サイン)』
(C)海野つなみ/講談社 C2026 WOWOW

スタイリスト/中澤咲希
ヘアメイク/宮本愛(yosine.)
撮影/須田卓馬
取材・文/SYO

<衣装協力>
ドレス ¥275,000 / ラドロー
お問い合わせ先:https://ludlow.jp/
その他、スタイリスト私物

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