
2025.07.03
パリ最大級のバラ園へ。「バガテル公園」で1万本のバラに出会う
パリの初夏が大好きです。コバルトブルーの空に、通りを彩るたくさんの花々。22時を過ぎても太陽がまだ残る街に、テラス席で冷えた白ワインを楽しむ人々。そんな初夏のパリは、まさに「花の都」という言葉がぴったり!
でも実は、パリには“花”という言葉だけでは語りきれない、世界有数のバラ園があるのをご存じでしょうか? バラが満開を迎えたこの季節、パリの隠れた名所「Parc de Bagatelle(バガテル公園)」を訪れてみました。
パリ西部、ブローニュの森にある「バガテル公園」

バガテル公園は、パリ西部・ブローニュの森の中に位置しています。誕生したのはなんと1775年。あのマリー・アントワネットと義理の弟、アルトワ伯爵との“ある駆けごと”がきっかけでした。
「ここに100日以内に小さな城を建てて。実現できたら10万リーヴル払う」
マリー・アントワネットは義理の弟にこう言います。当時の1リーヴルは、0.75gの純銀からできた“銀貨”でした。つまり今でいえば、数千万円~1億円に相当する金額です。国の財政が揺らぎ始めていた時代に、こんな優雅な賭けが交わされていたとは…。いかにもフランス王族らしいエピソードですね。

しかしアルトワ伯爵は、彼女の挑発に堂々と応じました。城と庭園を、わずか64日で完成させたのです。そこには900人以上の労働力と、パリ中の建築資材が大急ぎで集められたのだとか。この庭園が「バガテル(=些細なこと)」と名づけられたのも、思わず微笑んでしまう話です。

いわゆる、“フランス王家の遊び場”だったバガテル公園。その後は拡張と再開発を繰り返し、1905年にやっと市営化されることになります。現在は約24ヘクタール(東京ドーム5個分)という広大な敷地に、イギリス・フランス・中国のテイストをミックスさせた美しい庭園が広がっています。
約1,200種、1万株のバラがここに

そんなバガテル公園では、およそ1,200種・1万株以上のバラが育てられています。クラシック品種から最新のハイブリッドまで、花屋では見たこともない大ぶりのバラがあちこちに…!
さらに、毎年6月には「バガテル国際バラ新品種コンクール(Concours international de roses nouvelles de Bagatelle)」も開催されています。これは、1907年から続く歴史ある品評会。審査も大変に厳しいということで、ヨーロッパのバラ界では一種の“登竜門”になっているそうです。


東京ドームおそよ5個分と、かなり広いバガテル公園。バラ園はその一角にありますが、規模・歴史・品種のいずれにおいても、パリ市内では最大級です。
確かに、ここまで数が多いと、バラの香りがまるで湯気のように漂ってきます。ほんのりスイートなものからちょっと青みある香りまで。フレグランスでもスキンケアでもない、リアルなバラの香りは本当に癒やされますし、頭までスッと軽くなった気がしました。緑豊かなバガテル公園ですから、空気もきっと澄んでいるのでしょう。
バラのアーチは必見

中でも目を引くのが、つるバラが咲き誇る「アーチ」です。このアーチは、色彩と香りの“トンネル”のようなもの。代表的な品種としては、バガテル公園を象徴するピンク色の「Miss Helyett(ミス・エリエット)」と、柔らかなアイボリーイエローが魅力の「François Guillot(フランソワ・ギヨ)」などがあります。

実はどの品種も丈夫で、花付きが抜群。見た目はとても可憐なのに、力強くて長く楽しめるところが魅力です。
これも国際バラ新品種コンクールの影響だそうで、アーチとその周辺は見本園のように美しく構成されました。それぞれのアーチには品種名が表示され、観察や写真撮影にも最適です。満開時期の6月中旬には、ここから天国のような光景を目にすることができるでしょう!

アーチの奥には、噴水やパゴダ(中国風の東屋)など、バガデル公園ならではの美しい景観が広がっています。
いつ訪れても穏やかな場所ですが、やはりバラが満開を迎える季節の美しさは格別です。日陰がないことだけ気をつけなければいけませんが、これだけ美しい場所なら「日焼けしても構わない!」なんて思ってしまいました。
クジャクが散歩。動物たちも自由に

もう一つ素晴らしいことといえば、動物たちが自由に公園内を歩きまわる姿です。クジャク・水鳥・猫・リスといった可愛い動物たちは、みな放し飼い。特にクジャクの美しさといったら…! 絵画のようなひとコマに、私の心臓も羽ばたくようでした。


バガテル公園は、「自然美」というより「人工美」が光る場所です。ですが、人と自然、そして動物との距離が絶妙に保たれていると感じます。
お互いに干渉せず、支配もせず、ただ共に生きていく。そんなバガテル公園はバラ愛好家だけでなく、動物を愛する人・自然を愛する人にとっても、きっと特別な場所になると思います。

ピクニックや読書、スケッチを楽しむパリ市民の姿もまた印象的でした。幼稚園生のお散歩コースになっていたり、週末にはウェディングフォトの撮影スポットとして使われていたり。バガテル公園は本当に長い間、地元の人々から大切にされてきた存在なのだということが、その扱われ方からもわかります。
パリ市が管理しているとはいえ、ギフトショップや清掃員として働く人たちの笑顔も本当に素敵でした。
パリ観光に「余白」を生む贅沢な時間

バガテル公園は、バタバタしがちなパリ観光にぜひとも取り入れてほしい、おすすめのスポットです。アクセスはメトロやバス+徒歩とちょっと不便ですが、その分秘境感が味わえます。バラのベストシーズンは5月下旬〜7月上旬。ただ近年のパリは暑いので、今後は開花時期が少し早まるかもしれません。これから秋にかけては、睡蓮やダリアも愛でることもできます。
パリ観光にちょっと「余白」を加える、贅沢な時間をぜひバガテル公園で。綺麗な香りにも包まれ、心が洗われるひと時です。
■Parc de Bagatelle(バガテル公園)
Route de Sèvres à Neuilly, Paris 16e
https://www.paris.fr/lieux/parc-de-bagatelle-1808

フランス在住。美容部員、メイクアップアーティストを経て、2019年からライターに。香りやコスメが大好きで、現地パリから最新情報をお届けしています。趣味はヨガと水彩画とパリの美術館めぐり。美容のほか、アート・エシカル・ライフスタイルなど、日本とフランスをつなぐ読みものを発信。
この著者の記事一覧へ