【俳優・鳴海唯】「アンパンマンのような人になりたい」という言葉の意味
INTERVIEW

2025.06.30

【俳優・鳴海唯】「アンパンマンのような人になりたい」という言葉の意味

現在放送中のNHK連続テレビ小説「あんぱん」。“朝ドラ”らしい王道のストーリー展開と、俳優たちの素晴らしい演技が高い評価を受けています。

そんな「あんぱん」に第14週から登場する鳴海唯さんにインタビュー。

「アンパンマン」が題材となることを知らぬまま、オーディションシートに「アンパンマンのような人になりたい」と書いたという鳴海さんに、その時の意図や「なつぞら」以来2度目となる“朝ドラ”出演への思い、趣味だという旅行についてもお話を伺いました。

「アンパンマンのような人になりたい」

――「あんぱん」の制作統括・倉崎憲さんが、ヒロインオーディションの際、鳴海さんが「人生を変えたいです」とおっしゃられたことが印象に残っているとコメントされています。そう発言した時のお気持ちを教えてください。

その時はまだ題材が「アンパンマン」になるとは知らなかったのですが、偶然、オーディションシートに「アンパンマンのような人になりたい」と書きまして。オーディションの途中で「アンパンマン」を題材にした作品になると知って驚いたんです(笑)。とても不思議なご縁を感じて、このご縁を手放したくないという一心で、最終審査の時にそんな言葉が出たのかなと記憶しています。

でも、その話を聞いた母に、「じゃあこれまでの人生が楽しくなかったってこと?」と言われて(笑)。決してそういうわけではなくて、もちろん今も最高に楽しく生きています。ただ、何かのきっかけで大きく自分が成長できる可能性もあると思ったのでしょうね。

――「アンパンマンのような人」とはどういう人を想像していたのでしょう?

当時のマネージャーさんと未来のビジョンについて話していた時、どんな人になっていきたいかという話になって。私は愛と勇気を他者と共有できる人になりたいと思いました。それってどんな人だろうねと考えると、アンパンマンが思い浮かんだんです。

――オーディションの結果がわかった時、ヒロインはやれないけれども、別の役をお願いします、というふうになったのでしょうか?

いえ。ヒロインのオーディションが終わって、だいぶ時間が経ってからお話をいただきました。私はもう「あんぱん」には参加できないと思っていたので、こういった形で倉崎さんにご縁をつなげつないでいただいたことが本当に嬉しかったです。

――今週から放送される「あんぱん」高知新報編の琴子役で出演されます。琴子を演じて、人生が変わったことはありましたか?

撮影は終えましたが、放送がまだなので、私の演じた琴子という役が視聴者の皆さんに届いた時に、役者として自分の中で何か発見できるものがあるのかなと思っています。まだ今の段階ではどういうふうに視聴者の皆さんに届くだろうと楽しみと不安とでドキドキしています。

2度目となる“朝ドラ”出演

――朝ドラ出演は「なつぞら」(19年度前期)以来、2回目になります。朝ドラの雰囲気には慣れましたか?

「なつぞら」は私にとって朝ドラ1作目のみならず、役者として出演した作品の1作目だったので、いろいろな思いを抱えて臨みました。緊張であったり、憧れの先輩方と共演させていただける喜びだったり。とにかくいろいろな感情が渦巻いていて。それに比べると、今回は「なつぞら」で培った経験や、その後、出会ってきた様々な作品で学んだことを生かせたらいいなぁという思いで臨みました。以前よりは視野を広げて作品に臨むことができたと思います。

――今回演じた琴子は高知新報の新入社員で、のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)の関係をつなぐような役割です。演じてみていかがでしょうか?

琴子はのぶと嵩の関係性を変えるような役割を担っています。ともすれば、彼女の言動はおせっかいなだけに見えてしまいかねないとも思い、まず彼女の行動原理を探ってから取り組みました。なぜそこまでして琴子は2人を応援するんだろう、と。

これはもう本当に勝手な私の想像でしかありませんが、琴子も戦争を経験して、夫を失ったのぶと似たような経験をしたのかもしれない。もしかしたらすごく大切に思っている人がいて、その恋が実らなかったのかもしれない。戦争を生き抜いたのぶと嵩が思い合っていることがどれだけ尊いものなのか琴子は理解しているからこそ、2人の恋を応援しているのかな、とか。そんなことを考えながらシーンに取り組めば、人間味が溢れるキャラクターやシーンになっていくのではないかと思いながら演じました。

――琴子はお酒が強い設定で、居酒屋で飲んでいる場面もあります。お酒に強い所作は工夫されましたか?

琴子と違って、私はお酒が好きですが、強いほうではないので、酒豪の方の飲みっぷりは想像しないとできない部分がたくさんありました。酔っ払ったらどうなるかは十人十色。本当に人それぞれ違うから演技に正解はなくて。いかにもの様式的なふるまいもあれば、こんな人は実際にはいないだろうというのも面白いかもしれないですし。想像でやるにあたって、お酒が好きな共演者の方々にアドバイスをもらって試行錯誤しました。新聞社の人たちと飲むシーンでは、北村匠海さんと倉悠貴さんはお酒が好きと聞いて、相談しました。

――飲んでいる時の琴子と新聞社勤務中の琴子は雰囲気が違うという、二面性のある人物設定だそうですが、演じ分けについてどのように考えましたか?

新聞社での振る舞いと屋台での振る舞いのギャップが大きければ大きいほど面白いキャラクターになるだろうと思いました。ただ、表面的な表現になることだけは避けたくて。違う顔を使い分ける琴子の心情に寄り添い深掘りすることで、説得力のある人物になると思ったので、バランスに気をつけながら演じることを意識しました。また、結婚相手を探すために入社したので社内ではおくゆかしくしていますが、のぶが自分の足で取材している姿を見て、次第に仕事への向き合い方が影響されていくところもあり、琴子の気持ちの変化にも注目していただきたいです。

――先ほど、「アンパンマンのような人に」というお話がありましたが、琴子は二面性があるから、ロールパンナ(善と悪の二面性をもつ設定)の要素もある気がしますね。

人間誰しも、二面性どころではなく何面性も持っていると思うんです。私自身もやっぱり無意識に状況や環境に合わせてスイッチを切り替えて、様々な顔を表に出していると思うので、琴子に共感できます。琴子の場合は、お酒をスイッチにして、違う面を切り替えているのでしょうね。

――今田美桜さんとの共演はいかがでしたか?

今田さんはとても自然体な方で、彼女のたたずまいが「あんぱん」を作っていると思いました。発する空気があたたかく、それが現場の空気に伝播している感覚があるんです。途中参加の私が過度の緊張を感じずに済んだのは、今田さんがそういう空気感を作ってくださっていたからだと感謝しています。

――高知が舞台ですが、高知でのロケはありましたか?

残念ながら高知ロケはなく、スタジオ撮影でした。高知へはこれまで2回ぐらい行ったことがあります。有名なひろめ市場の活気あふれた雰囲気は本当に好きです。高知って本当にお酒の文化が発展していますよね。お酒が強いわけではない私でも、そこにいるだけで元気になれます。

安兵衛という餃子のお店は、高知では駐車場を貸し切りにして営業されていて。そこで食べた味が忘れられないです。東京にも支店がありますが、現地で食べた餃子が最高だったので、今度、高知に行くことがあった際は絶対安兵衛へ行きたいと思っています。

海外への一人旅は“修行”

――ほかに、好きなところ、行きたいところ、印象に残っているところなどがあったら教えてください。

私は一人旅が好きで、一昨年はニューヨーク、去年はカナダに行きました。一人旅も兼ねて現地にいる友達に会いに行くこともありますが、基本的には私にとって海外への一人旅は修行です。航空チケットを取るのもホテルを予約するのも何から何まで自分でやってみたいという思いがあって。

それに、言葉が通じない国に行って人と関わることが自分にとっていい経験になると思っています。言葉が通じなくてきつくても、それが成長につながると思うんです。

今年は海外に行けそうにないので、国内旅行に行きたいです。国内旅行はリフレッシュが目的で、友達と温泉に入ったり食い倒れたりしたいです。いま、行ってみたい場所は伊勢神宮ですね。

――海外旅行に今年は行けそうにないとのことで、「あんぱん」のあとも出演作が目白押しだそうですね。

ありがたいです。私はこれまで、一度お仕事をした方と次またご一緒させていただく機会が多く、それは事務所の皆様と今まで一緒にお仕事で出会った方々のおかげだと思っています。どれだけ自分が順風満帆でも、今の自分があるのは絶対に周りのおかげ。心からそう思える人でありたいです。順風満帆でい続けられる人なんていないですし、うまくいかなくてもうまくいっていても、常に平常心で、凪のような気持ちでいることが理想です。

――NHKつながりだと土曜ドラマ「地震のあとに」(村上春樹原作)が劇場版になって『アフター・ザ・クエイク』(10月3日公開)として公開されます。ドラマでは第2話に出演していました。映画はどんなふうになりそうですか?

ドラマは4本のオムニバスだったのが、ひとつの作品になるように再編集されています。ドラマ版では地震とは直接的なつながりのない作品もありましたが、ひとつにまとまったことによって、より地震というテーマが響くものになっていると思います。

私が出た海岸で焚き火を燃やすエピソードは、海で見知らぬ中年男性(堤真一さん)と死生観について語り合います。火はとてもエネルギーがあるものにもかかわらず、私の役は真反対のところにいて、今すぐにでも消えてしまいたいような、でもここに留まっていたいような、感情のグラデーションみたいなものがずっと揺れ動いていました。

演じ終わったあとも、自分の芝居が正解だったのかわからない、不思議で面白い経験をしました。2人が海で出会い、それぞれが抱えていた孤独を誰かと初めて共有できた時、きっと次の日も生きるという選択につながったらいいなと願いながら演じました。

もしかしたら「あんぱん」で戦禍をくぐり抜けたのぶと嵩も、そういう関係なのかもしれませんね。

――キレイノートにちなんで、「キレイ」についても教えてください。“キレイな人”と聞いて思い浮かべる人はいますか?

自然体で、心も体もヘルシーな人に出会うとキレイだなと思います。それが最近の自分のテーマでもあって、飾らない気さくな人に憧れていて、私自身もそうありたいと思っています。

Profile
鳴海唯

1998年生まれ。兵庫県出身。2018年に俳優デビューした後、映画やドラマなど多数の作品に出演。主な出演作に映画「偽りのないhappy end」「赤羽骨子のボディガード」、連続テレビ小説「なつぞら」、大河ドラマ「どうする家康」、ドラマ「Eye Love You」「あのクズを殴ってやりたいんだ」「地震のあとで」などがある。

ヘアメイク/丸林彩花
スタイリスト/中井彩乃
撮影/芝山健太
取材・文/木俣冬

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