
2025.04.23
【俳優・栗山千明】挑戦となった意味のある役。さまざまな“愛のあり方”を演じて感じたこととは?
ファッションモデルとしてはもちろん、シリアスからコメディまで幅広い役柄をこなす俳優として10代から第一線で活躍し続けている栗山千明さん。4月26日(土)から独占配信されるHuluオリジナル「おとなになっても」では、既婚者の女性に恋をする朱里を演じます。
原作は、2019年3月から2023年10月にかけて「Kiss」(講談社)で連載された志村貴子さんの同名漫画。小学校で教師をしている綾乃(山本美月さん)はある時、行きつけのダイニングバーで朱里に声をかけられます。2人は出逢った直後から惹かれ合いますが、綾乃にはすでに家庭が…。ビターなおとなの女性同士の恋愛を描いたラブストーリーです。
また、4月3日からは栗山さんが主演を務めるドラマ「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(読売テレビ・日本テレビ系)も放送中。ポリアモリー(複数愛)を題材とした作品で、栗山さんは2人の恋人と高校生の娘と同居し、なおかつ一回り以上年下の大学院生と恋に落ちるシングルマザーの伊麻を演じています。
さまざまな愛のあり方を栗山さんはどのように体現されたのでしょうか? 今回演じる役柄の魅力や役作りで心がけたことから、栗山さんの代名詞でもある美しい黒髪を保つ秘訣についても伺いました。
「おとなになっても」朱里役で挑戦したこととは?


――まずは「おとなになっても」についてお話を聞かせてください。今回のオファーを受ける決め手は何でしたか?
栗山:オファーをいただいてから原作を読ませていただいたんですが、キャラクターが本当に魅力的なんですよね。綾乃ちゃんも素敵なんですけど、私は朱里のキャラクターに惹かれて。感情の揺らぎがとても人間らしくて、可愛らしい女性だなと思いました。ビジュアル的にもすごく綺麗に描かれているので、「私が演じさせてもらっていいんですか!?」と思いつつも、嬉しい気持ちでオファーを受けさせていただきました。
――私はもともと原作を読んでいたのですが、朱里を演じられている栗山さんを見て、漫画から飛び出してきたようだなと思いました。栗山さんご自身が朱里を演じる上で糸口にされたことや、心がけたことがあれば教えてください。
栗山:役作りの糸口にしたのは、やっぱり原作ですね。原作の世界観や志村先生が意図されていることを実写でも引き継ぎたいと思ったので、撮影中は常に台本と一緒に持ち歩いて、このシーンの朱里はどんな動きで、どんな表情をしているのかといったことを一つひとつ確認しながら演じていました。ただ、どうしても漫画のコマだけでは分からない部分もあるので、そこをどう埋めていけるかということが一番の課題だったなと思います。
心がけたこととしては、綾乃ちゃんとの対比を強調しつつ、視聴者の皆さんにも愛してもらえるようなキャラクターになったらいいなと思って、私自身が朱里の魅力だと感じた感情の揺らぎをなるべく出すようにしました。

――演じながら迷うところもありましたか?
栗山:これまではコメディに振り切った役か、もしくはすごくクールな役かのどちらかを演じることが多く、コメディではなく、かつ朱里のように可愛らしい役柄というのはあまりなかったので、私的には挑戦でした。なので、綾乃ちゃんへの思いで葛藤して、ベッドで暴れるシーン一つとっても、「やりすぎてないかな?」「むしろもっとオーバーにしたほうがいいのかな?」と心配になりましたね。でも、そこは監督を信じて、さじ加減に関しては確認してもらいつつ演じました。
初共演の山本美月さんは“大人”

――私から見ても綾乃は「こんなの好きにならざるを得ない」というようなキャラクターだと思ったのですが、栗山さんから見て一番魅力に感じるところはどこですか?
栗山:先ほど対比という言い方をしましたが、綾乃ちゃんは朱里からすると「私だったらこうするのに、なんで綾乃ちゃんは?」って困惑するような行動を取るんですよね。でも、人間って恋愛に限らず、理解できないものを理解したくなる心理ってあるじゃないですか。朱里が綾乃ちゃんに惹かれていくのって、そういう心理に近いんじゃないかなと思います。
あと、綾乃ちゃんは柔らかい雰囲気に反して、すごく芯がしっかりしていて。不倫のような形ではじまる2人の恋ですが、そこでも綾乃ちゃんなりの正義をちゃんと貫いているし、そういうところに朱里もどんどん沼っていったのかなと思います。

――確かに、綾乃には思い切りの良さがありますよね。一方の朱里もこうと決めたら一直線で、2人とも潔くて気持ちがいいなと思ったんですか、栗山さんはどう感じられましたか?
栗山:先ほども言ったように綾乃ちゃんは自分なりの正義を貫いていて、自己完結もできていると思うんですが、朱里に関しては自分が「どうしたいか」「どうありたいか」よりも、「こうするべき」「こうあるべき」のほうに引っ張られやすいのかなって。だから、突然スイッチが入って、綾乃ちゃんの連絡先を消したりするんだけど、なかなか自分の気持ちが追いついていかないこともある。そういう意味では2人とも決断は早いけど、また違う潔さなのかなと思います。
――栗山さんご自身はどちらに共感されますか?
栗山:自分が演じたからというのもありますけど、綾乃ちゃんよりは朱里のほうが共感できるかなと思います。私自身も「頭ではこれが正しいって分かってるけど、気持ち的にはこっち」みたいなことが、恋愛以外でも多々あるので、朱里の葛藤はリアルで人間味を感じますね。

――綾乃を演じた山本さんの印象についてもお聞かせください。
栗山:山本さんとは今回が初共演だったんですが、私が勝手に抱いていたイメージが綾乃ちゃんにぴったりで。実際にお会いしてみて、ビジュアル面だけじゃなく、お人柄も含め、やっぱりぴったりだなと改めて思いました。山本さんは、私からすると大人なんですよ。それこそ、大人ってなんだという話になりますけど、現場でも色んな方々と分け隔てなくコミュニケーションを取られていて、すごくしっかりされている印象を持ちました。私が人見知りなので、山本さんのほうから歩み寄ってくださって、とてもありがたかったです。
「こうじゃなきゃいけない」から人々が解き放たれる世界を願って

――「彼女がそれも愛と呼ぶなら」では、全員の同意を得て複数人と関係を結ぶ“ポリアモリー“の女性を演じられますが、日本ではまだあまり知られていない恋愛スタイルですよね。栗山さんは演じられていて、どのように感じましたか?
栗山:私もポリアモリーという言葉自体、知らない状態で飛び込んだので、まだ分からないこともあるんですが、好きな人が何人もいて、複数のパートナーと一緒に暮らしている伊麻の感覚をどうすれば視聴者の皆さんに伝えられるだろうかと考えています。このドラマは複数恋愛という形の是非を問うような作品ではないんですよね。実際、本人たちが納得していることに良い悪いもないと思いますし。ただ、やっぱり視聴者の皆さんには良いほうに受け止めていただきたいので、そのために今は試行錯誤しているところです。
――おとなの女性同士の恋愛を描いた「おとなになっても」と、ポリアモリーの恋愛事情を描いた「彼女がそれも愛と呼ぶなら」。さまざまな愛のあり方に触れて、今思うことは?
栗山:当事者の皆さんの思いは、それぞれに様々な形としてあるものだと思います。私自身は恋愛だけじゃなく、それ以外のことに関しても、「こうじゃなきゃいけない」と思っていることって自分を客観視した時にもあまりない人間だとは思っていて。多様性…とはまた違うかもしれませんが、多くの人が「こうじゃなきゃいけない」と縛られているものから、解き放たれていく世界があったらいいなとも思うので、こうした作品に携わることができて本当に嬉しかったです。
10代の頃は早く大人になりたかった

――栗山さんといえば、美しい黒髪が印象的ですが、どんなことにこだわってお手入れされていますか?
栗山:年齢ごとに髪の毛やお肌の悩みも変わってくるので、その時々の自分に合ったものを選ぶという感じですかね。それこそ、若い頃は普通にシャンプーとリンスをして、乾かす前にオイルをつけて…みたいな、みんなが一通りやっているようなことでどうにかなっていたんです。でも、やっぱり年齢を重ねるとそうはいかないんだなっていう実感があるので、昔よりもヘアメイクさんをはじめ、周りの方に勧めていただいたものを積極的に試すようになってきたかなと思います。ある程度、継続が必要でもあるので難しいところではあるんですけど(笑)。
10代からずっと同じものを使っていて、何もトラブルがなければいいんですけど、合わなくなってきたなと感じたら、ちょっとチャレンジするつもりで他のものに変えてみるのもありなのかなと思います。

――10代の頃から栗山さんの作品を観させていただいている身からすると、ずっとお変わりないように思うんですが、栗山さんご自身は年齢を重ねることにどう向き合っていますか?
栗山:年を取ることを嫌だなと感じる方もいらっしゃると思うんですが、私自身は早く年を取りたかったんです。というのも、10代の頃は「大人っぽいね」と言われることが多くて。きっと皆さんは良かれと思って言ってくださっていたと思うんですが、私は「しっかりしなきゃ」とか、「大人っぽくしなきゃ」って、勝手に自分でハードルを上げてしまっていたんですよね。実際に大人になってしまえば、そのハードルもなくなるので、早く大人になりたいって気持ちを持っていました。今は実年齢と精神年齢が良いバランスになって、気持ち的にも楽になったかなと思います。
一方で、大人になりきれてない部分も感じていて。もういい大人なのに、こんな自分で大丈夫なんだろうかと心配にもなるんですけど、今が幸せならそれでいいやとも思うんですよね。そういう風に色んなことに対して寛容になったというか。例えば、目標としていたことが達成できなくても、昔よりはイライラしたり落ち込んだりすることが減ったなと思います。ちょっと視野が広がったのかな。いつもベストを尽くしたいけど、できない時もあるよねって思えるようになりました。

Profile
栗山千明
1984年生まれ、茨城県出身。幼い頃から芸能活動を始め、ティーン誌のモデルを経て、1999年に映画『死国』で女優デビュー。映画『バトル・ロワイヤル』(2000)の出演をきっかけに、2003年には映画『キル・ビル Vol.1』でハリウッドデビューを果たす。その後も映画『図書館戦争』シリーズや『無限の住人』(2017)「八犬伝」(2024)、ドラマ「ハゲタカ」(2007)「ATARU」(2012)「アルジャーノンに花束を」(2015)「遺留捜査」シリーズ、「晩酌の流儀」シリーズなど話題作に多数出演。
■Huluオリジナル「おとなになっても」作品情報
4月26日(土)Huluにて独占配信
出演:山本美月
濱正悟
桐山漣 河北麻友子
錫木うり 樋口日奈 織田梨沙
野口かおる 田中直樹
麻生祐未
栗山千明
原作:志村 貴子『おとなになっても』
(講談社「Kiss」所載)
※桐山漣さんの「漣」は、しんにょう点ひとつです
撮影/須田卓馬
取材・文/苫とり子

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