
2025.03.19
【久保史緒里&平祐奈】役を超えて親友同士となった出会いに、お互い運命を感じている
3月20日(木・祝)に公開される映画『ネムルバカ』。「天国大魔境」などで知られる石黒正数氏による傑作と誉れ高い青春コミックを、『ベイビーわるきゅーれ』シリーズを手がけて国内外から注目を集めている阪元裕吾監督が実写化したことで、話題を呼んでいます。
大学女子寮の同部屋に暮らす入巣柚実と先輩の鯨井ルカが織りなす、何気ない日常の機微を描きつつ、2人のシスターフッド的な関係にも変化が訪れていく様を、絶妙な筆致でスクリーンに映し出していきます。
本作が初共演ながら、撮影を通じて本人たちも親友同士となった入巣役の久保史緒里さん(乃木坂46)とルカ役の平祐奈さんに、『ネムルバカ』への熱い想いと今後も長く続くであろう2人の友情について語ってもらいました。
初日を迎え、「自然と入巣になれた感がありました」

――久保さんは「人見知り」だそうですが、平さんと一緒にいる姿からは微塵も感じられないですね(笑)。
久保:それはやっぱり、たいちゃん(平)とめちゃめちゃ相性がいいからなんだろうなと思います。『ネムルバカ』の前に撮影した『誰よりも強く抱きしめて』の現場では、(同作品で共演した)チャンソンさんに対して最初、それこそ人見知りを発揮してしまいましたから…。
平:えっ、違う作品の現場だと本当にそんな感じだったんだ!? でも、私もこんなにしーちゃん(久保)と仲良くなるとは思ってなかったかも。
久保:私、あんまり友達が多いほうじゃないので…大人になってから、こんなにも仲良くなれる人と出会えたのが本当に奇跡だなと思っていて。初対面がホン読み(台本の読み合わせ)だったんですけど、阪元監督が、私たちが実際に会話する間合いとか雰囲気を見て、台本を完成させたいとのことで、わりと制作の早い段階でたいちゃんと会うことになったんです。その時は入巣と先輩の関係性を考えて「仲良くならなきゃ!」って思いつつ、私がなかなか壁をぶち破れなくて──。なのにクランクインが迫ってきてしまって、「どうしよう、どうしよう」と焦ったまま現場に入ることになったんです。不安を抱えて初日を迎えたわけですが、最初が寮でのシーンの撮影で…部屋に入ってみたら、そこにはまさしくルカ先輩がいて。「あっ、ルカ先輩だ」ってスッと受け止められて、それで私も自然と入巣になれた感がありました。そこから気づくと仲良くなっていたという感じでしたね。
平:ホン読みの時はまだ(ルカのトレードマークでもある)金髪にしてなかったから、印象が違ったかもね。あと、しーちゃんとクランクイン前に会えたのって、2回ぐらいだったよね?
久保:そうそう、2回だけ!
平:なので、その段階ではまだ深く話せる感じでもなかったし、人見知りだし〜(笑)。
久保:あぁぁぁ、ごめんなさ〜い(笑)。
平:正直、私もどうしようかなって思ったんですけど、インしたら自然とお互いに入巣とルカの関係性でいられましたし、そのおかげですんなりと距離が縮まっていった感じがありましたね。

――ちなみにお二人のクランクインはどのシーンだったんですか?
平:2人で最初に撮ったのは女子寮の──。
久保:(食い気味に)「先輩、起きてくださーい」って、入巣がルカ先輩を起こすシーンです。
平:えっ!?
久保:え〜〜っ、違ったっけ!?
平:あれ、そのシーンだっけ? 電話して──。
久保:(また食い気味に)違うよ、その前に起こすシーンを撮ったよ〜。
平:あ、起こすほうが先だったっけ?
久保:そうそう(笑)。
平:あそこでしょ…ルカが寝ていて入巣に起こされて、布団かぶって「起こすなよ~」っていうところ。
久保:どうしよう、自信満々に言っておきながら間違ってたら(笑)。
平:大丈夫、しーちゃんの記憶のほうが正しいから(笑)。
「自然体でその場にいた」阪元組の現場


――実年齢で言うと、平さんが3歳上のお姉さんなんですよね?
平:はい、お姉さんです。でも、実際は全然年上っていう感じでもないんですよ(笑)。むしろ、しーちゃんのほうが心が広くて母性に満ちていて、私が言うことだったりすることだったり…何でも受け止めてくれるんです。
――ちょっとモヤッとする思いを抱えながら帰ってきたルカ先輩を入巣が抱擁するシーンは、久保さんの母性が入巣に投影されているとも言えそうですね。
久保:あのシーンは細かいニュアンスにいたるまで、監督のこだわりがすごく反映されているんです。
平:しかも、最初はセリフがあったんですけど、結果的になくなったんですよ。
久保:そうそう、なくなった。
平:何度かテストで演じてみて、「この場面で、この2人に言葉はいらないよね」ということになって。そんなふうに現場で削ぎ落としていって、シンプルに抱擁で見せようって。
久保:撮影が始まってからしばらくは、現場で生まれたお芝居やセリフが足されることもあったんですけど、私とたいちゃんの関係性ができていくにつれて、削ぎ落とすほうが増えていった覚えがあります。そういう意味でも、あの先輩を抱きしめるシーンは思い出深い場面の1つですね。
平:阪元監督はキャスト間の普段の会話だったり、普段の言い回しを大事にしていらっしゃったのか、台本にも落とし込んでくださっていたんです。なので、演じるというよりも“自然体でその場にいた”感覚のほうが強かったりもするんですよね。

――今のお話を踏まえると、後輩だけど面倒見がいい入巣役が久保さんで、先輩だけど奔放なルカ役が平さんという配役は絶妙だったと言えそうですね。
久保:もし、たいちゃんが入巣で私がルカ先輩だったなら…って想像しようとしても、全然イメージが湧かないんですよね。仮に配役が反対だったとしたら、その場で生まれるセリフのニュアンスもまったく違う感じになっていたんじゃないかなと思います。
平:確かに、私が入巣を演じている図が全然思い浮かばない…(笑)。自分で言うのも何ですけど、ルカのセリフって“セリフ感”がなくて、すごく馴染んでいたなっていう感じがするんです。それは、しーちゃんの入巣のセリフにも言えることなんですけど──。
久保:分かる! 『ネムルバカ』の現場では、いい意味で演じていたっていう感じがしなかった。
――それは阪元裕吾監督の演出であったり、撮影場所からインスピレーションを受けることもあったからではないかと想像します。
久保:そうかもしれないです。(入巣とルカが住んでいる)寮も実際にアパート型の住居を使って撮影したので、空き時間もあの決して広いとは言えない間取りの部屋の隅っこのほうにペタンと2人して座って待っていたり、階段の踊り場でずっと2人でしゃべっていたりしたからか、だんだん本当にそこで暮らしているような感覚になっていって。その環境で撮影できたことは、私からするとすごくありがたかったですね。
平:しかも部屋の中のシーンを撮る時って、撮影部と照明部と録音部のスタッフさんも入ってこられるから、めちゃめちゃ狭くなるんですよ。人口密度が高いから日中は暑いし、空気もだんだん籠もってくるような感じがするっていう(笑)。
久保:そうだった、そうだった!(笑)
平:それから美術さんや衣装さん、メイクさんは阪元組の常連さんだったので、居心地のいい空気感ができあがっていたんです。“はじめまして”の私たちも、すんなりと場に入っていけるくらい雰囲気が良かったんですけど、そこも阪元さんの人柄によるところも大きかったんじゃないかなと感じていて。あと、これはポジティブな意味合いで言わせていただくんですけど、阪元組の撮り方とか作り方って自主制作映画っぽさがあるんですよね。ライブシーンも、音楽好きのスタッフさんがたくさんいらっしゃったので、それぞれに「ここは、こうでしょ!」みたいに意見やアイデアを出し合っていて、“このシーンでは何をやりたいのか? 何を表現しようとしているのか”という目標を共有しながら着地点に近づいていく感じが、何だかすごくカッコいいなって傍から見ながら思っていたんです。

――バンドの演奏シーンも臨場感があって、胸に迫るものがありました。
平:私のギターの先生でもあるthe dadadadysの儀間陽柄さんは、(ルカが組んでいるバンドの)ピートモスのメンバー、ジャガー・モリィ役で初めて本格的にお芝居をされたそうなんですけど、ライブハウスで客席にダイブするシーンも普段のライブ活動で日常的にしていることなので、めっちゃリアルで。そういった要素の一つひとつが、阪元監督の座組と絶妙にマッチしていたような感じがしているんです。
久保:ライブのシーン、良かったなぁ…。私はどうしても入巣の視点や感情で見てしまうのもありますけど、劇場の大きなスクリーンと大きな音で体感してもらえたらいいなって願わずにはいられなくて。
平:個人的には、青春映画でもあると同時に“音楽映画”でもあるんですよ、って言いたい(笑)。
久保:でも、本当にそう言ってもいいぐらい、たいちゃんが音楽と向き合っていたのも知ってるから…胸を張っていいと思うよ!
平:自分が歌っているシーンを見るのは恥ずかしいんですけど(笑)、この映画のためにつくっていただいた楽曲はどれも本当に素晴らしいので、たくさんの方に聴いていただけたらうれしいです。
『ネムルバカ』は「入巣とルカとしての私たち2人の記録」

――“爆音映画祭”とかでも観てみたいですよね。一方、青春映画の部分で言うと…まさに撮っている期間に青春を追体験できたのではないかな、と想像してもいるんです。
久保:おっしゃるとおりで、めちゃめちゃ青春を感じていたんです。入巣の感覚的には、ただただ何気ない毎日を過ごしていただけだったんですけど、先輩との日々が過ぎ去った時に、ふと「あ…時間って進んでるんだ」って、ようやく気づくっていう。でも、先輩は「この日々はそう遠くない将来に終わってしまう」と自覚しながら生きているんですよね。入巣もさすがに永遠に続くとは思っていないんですけど、人生を刹那的に捉えながら日々を過ごしているのかなと感じたりもしました。(平に)ね、青春だったよね?
平:ね! 青春って一般的には学生生活のことを指すのかなっていう感覚があったんですけど、『ネムルバカ』の現場では「この年齢でも青春できるんだ」って感じることができたんです。
久保:うん、うん! それと何か…めっちゃ儚かった。1ヶ月あるかないかの撮影期間にギュ〜ッていろいろなものが凝縮されていて、ものすごく楽しかったからこそ終わってしまうと儚いっていう──。
平:言ってみれば、『ネムルバカ』は入巣とルカとしての私たち2人の記録なんです。なので、撮影が終わった瞬間は私もすごく儚さを感じたんだけど…それからもずっとプライベートでしーちゃんと会えてるから、まだ終わってないな〜って(笑)。
久保:本当に、続いている感覚がするよね! そもそも私は撮影期間だけで、たいちゃんとの関係を終わりにしたくなかったから。
平:だって、オールアップした後、すぐに会ったもんね(笑)。
久保:そう、クランクアップの1時間後(笑)。しかも、アップして2人で泣きながら、お互いに「たいちゃんがルカ先輩で良かった!」「入巣がしーちゃんで良かった!」って連絡し合って、「ねえ、無理かも。今から会わない?」って、すぐ再会して。で、次の日も会いました(笑)。

――いやぁ、そのエピソードはエモいですね。これはもう2人で旅行に行かなきゃですよ。
平:そうなんです、しーちゃんと旅行に行きたいんですけど…お互いのタイミングがなかなか合わなくて。今年こそは隙あらば、どこかに行こうと思っています。
久保:どこ行く? でも、まずは国内かな?
平:まずは沖縄あたりでって、さっきも2人で話していたんですよ。
久保:一緒にお弁当を食べながら(笑)。あと、お互いの地元(久保は宮城、平は兵庫)に行きたいねって。
平:うまいこと、東と西なので。
――早いうちに実現しますよう…。で、ちょっと気は早いかもしれませんが、もしまた共演するとしたら、どういう役柄や関係性がいいですか?
平:ん〜、何だろう…!? でも、お互いにどんな性格かを知った今、もう1回『ネムルバカ』を撮ったらどんなふうになるのかなっていう興味があります。それは2人でも話したことがあるんですけど、ベースに自分たちの関係性がある上で入巣とルカを演じたら、どうなるんだろうねって。と言いつつ、先輩と後輩という関係上は、お互いに“はじめまして”だったことが良かったのかもしれないなって思う部分もあるんですけど…そうですね、まったく違う世界観で、それこそ“ベビわる(『ベイビーわるきゅーれ』)”みたいにバトルする感じの作品も面白そうですよね。今のしーちゃんとの信頼関係があるからこそ醸し出せる“バディ感”が表現できるんじゃないかな、と私は思っているんです。
久保:私も今のたいちゃんとの関係性を踏まえた上で『ネムルバカ』をもう一度やってみたいですね。同じ役柄で同じストーリーなのに、たぶん全然ニュアンスが違った映画になるんじゃないかなと思っていて。それか、入巣と先輩の“その後”の世界線も見てみたい気持ちもあります。でも、あの終わり方は寂しさだけにとどまらず美しさも内包していて、それが余韻として残るんじゃないかと思っているので…迷いますね(笑)。

――まさに全幅の信頼を寄せているように映りますが、理屈を超えて通じ合っている感もありますか?
平:そうですね、いつからか…気づいたら心と心が通じ合っていました。最初はまさかこんなに仲良くなれるとは想像していなくて。出会った頃は真逆のタイプかなと思っていたんですけど、だんだん似ている部分が見えてきたんです。いわゆる好みが似てるんですよ、食べ物とか服とかインテリアとか…。なので一緒に買い物へ行くと、同じものに「これ、いいよね!」って反応するんです。それでいて、お互いに違う感覚を持っているからバランスがとれていて、それが刺激にもなっていて。
――そのように思える久保さんと『ネムルバカ』というシスターフッドを描いた作品で出会えたというのも、運命的ですよね。
平:今振り返ってみると、確かに運命的だったなと感じます。私、人見知りはしないんですけど、同世代の人との距離がこんなに縮まったのは本当に珍しくて。わりと年上の方々と仲良くなることのほうが多いので、そういう意味でもしーちゃんとの出会いが新鮮でしたし、それこそ学生の頃から友達だったような感覚を抱いてもいるんですよね。
久保:たいちゃん、よく言ってくれるもんね…「同世代でここまで距離が近くなれたのは、しーちゃんしかいない」って。私もグループの外ではなかなか社交的になれないので、たいちゃんとの出会いには運命を感じましたし、『ネムルバカ』の現場を共にできてすごくうれしかったし…これからもずっと末長く仲良くしてほしいです(笑)。

Profile
久保史緒里(Shiori Kubo)
2001年生まれ。宮城県出身。アイドルグループ・乃木坂 46 のメンバー。2022 年公開の映画『左様なら今晩は』で映画初出演にして初主演を務める。以降、NHK 大河ドラマ「どうする家康」(2023)、映画『リバー、流れないでよ』『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』(ともに2023)、舞台「天號星」(2023)などに出演。
平祐奈(Yuna Taira)
1998年生まれ。兵庫県出身。2011年に是枝裕和の監督作『奇跡』で俳優デビューを果たす。その後映画『紙の月』(2014)、『ソロモンの偽証』シリーズ、『忍びの国』(2017)、『恋は光』(2022)など話題作に多数出演。『ReLIFE リライフ』『未成年だけどコドモじゃない』『honey』などの映画でヒロインを務める。

■『ネムルバカ』作品情報
3月20日(木・祝)全国ロードショー
出演:久保史緒里(乃木坂 46) 平祐奈
綱啓永 樋口幸平 兎(ロングコートダディ)
儀間陽柄(the dadadadys) 長谷川大 高尾悠希 吉沢悠 伊能昌幸
原作:石黒正数「ネムルバカ」(徳間書店 COMIC リュウ)
監督:阪元裕吾
公式サイト:https://nemurubaka-movie.com
公式X:@nemurubakamovie
公式Instagram:@nemurubaka_movie
©石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会
撮影/芝山健太
取材・文/平田真人

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