
2025.03.12
【俳優・橋本愛】初挑戦のラブストーリー。20代最後の年もフレッシュなパワーで突き進みたい
デビューから多くの作品に出演し、存在感が光る俳優の橋本愛さん。大河ドラマや話題作への出演が続く中、3月14日(金)から公開される映画『早乙女カナコの場合は』では、主人公の早乙女カナコを演じます。
原作は、柚木麻子さんによる小説「早稲女、女、男」。監督は、世界映画祭でも高い評価を得ている矢崎仁司さんが務めます。
「これまでラブストーリーとは無縁だった」という橋本さん。10年にもおよぶカナコのラブストーリーをどんな風に捉え、恋と仕事に揺れる20代の女性を演じたのでしょうか? じっくりお話を伺いました。
「恋をしている顔」を撮られるのは恥ずかしい

――本作は柚木麻子さんによる「早稲女、女、男」が原作です。原作を読んでどんなことを感じましたか?
お話をいただいてから原作を読ませていただきました。原作は、軽やかでユニークな文体が面白くて、他の人の視点でカナコという人物像が立ち上がってくる構造描写が楽しかったです。周りから見るとカナコはかっこよくもあり、少し残念なところもあり、人間力が見えてくるところも興味深かったですね。また、「学校にこういう子、いるよね」というリアルさ、生きている人の息遣いが聞こえてくる人物描写にも引き込まれました。
――脚本を読んだ時の感想も聞かせてください。
脚本は10年前の原作を現在の社会に届ける工夫が施されています。男らしさ、女らしさといったジェンダーロールにとらわれて生きる登場人物たちの、個性がしっかり描かれているところに共感できました。
――価値観が刻々と変わっていく中で、ラブストーリーの意義をどんなふうに捉えていますか?
人を好きになること、人と一緒にいることは、人生の大きなテーマになり得ます。今回の作品は王道のラブストーリーではありませんが、恋愛によって、それぞれの人間性が浮き彫りになっていきます。ラブストーリーを演じるのはほとんど初めてだったので、とても新鮮な経験でした。
――ラブストーリーを演じてみてどんなところが難しかったですか?
今回の作品で10代、20代の女性の恋愛模様を演じてみましたが、やっぱり「恋をしている顔」を撮られるのは恥ずかしいですし、慣れませんね。
初共演の中川大志さんから学んだこと

――カナコの10年にわたる恋愛模様を描く本作。カナコの役作りをするにあたり、カナコとご自身が似ていると思った部分や、共感できた部分はありましたか?
カナコという人間は、「自分はこうあるべきだ」とか、「人からどう見られたいか」という部分に少し縛られているように感じました。私もカナコと同じように、「周りから見られている自分」に自分自身をはめこんでしまっている部分があります。
また、「自分はこうでなければいけない」という呪縛が強く、その感情に翻弄されて葛藤していた時期があったので、カナコの気持ちに共感できました。
――逆にここはカナコとは違うなと思うところはありますか?
中川大志さんが演じる長津田は魅力的ですが、私は好きにはならないタイプです(笑)。だから、長津田という男性がいかにカナコにとって特別な人か、というところを自分の中に落とし込む作業に時間を使いました。

――今回の作品で中川大志さんとは初共演だったと思います。共演シーンも多かったと思いますが、ご一緒してみていかがでしたか?
中川さんは本当に頼もしい存在でした。監督にも物怖じせずに、世間話をするような温度感で意見を言い合ったり、コミュニケーションを取ったりしている姿を見て、すごいなと感じました。
――橋本さんは現場では中川さんとは違うタイプですか?
私は思っていることを相手に伝える時、勇気を振り絞って話すタイプなので毎回エネルギーを使ってしまいます。でも今回、中川さんとご一緒させてもらって、私も現場ではそこまで気負わず意見を言ってもいいのかも…って思わせてもらいました。撮影でご一緒する時間が長かったので、いろいろ空き時間には雑談をしました。とにかく存在が心強い方でした。
のんちゃんは私にとって目が離せない人

――山田杏奈さん演じる麻衣子、臼田あさ美さん演じる亜依子、そしてカナコと3人の女性が作品の中で生き生きと描かれています。橋本さんの素の部分と一番近いのはどの人物ですか?
私は亜依子さんみたいに逆算して計画性を持って生きられないし、麻衣子のようにフワフワした雰囲気はないし…(笑)。カナコとは自分と重なるところ依多々ありました。
お話としては、一番似ていないキャラだけど、麻衣子のストーリーが大好きです。本来の自分を取り戻すところに愛おしさを感じました。
――小説家・有森を演じた、のんさんとの共演も注目を集めています。
のんちゃんとは過去に共演した「あまちゃん」(NHK)の影響が大きく、あれから10年以上が過ぎましたが、今でもいろんな方に注目してもらっています。長い年月を経て、こうして周りの皆さんに期待してもらえる関係性は、めったにないことなのでありがたい気持ちです。
――のんさんの存在は橋本さんにとってどんな存在ですか?
のんちゃんは私にとって目が離せない人です。私はじわじわと煮詰めながら表現していくタイプですが、のんちゃんはいろんなことに興味を持ち、すぐに行動に移して発信していくタイプ。だからのんちゃんを見ていると、創作意欲を枯らさず、これからも頑張っていこうと刺激をもらえるんです。
ファッションは“ときめき”を大事にしている


――今回の役は女子大生から社会人になるまでの女性を演じていますが、現在29歳の橋本さんにとって20代はどんな年代でしたか?
2年前くらいに成人式に行ったような感覚なので、あっという間でした。10代から性格の根本は変わっていませんが、経験や知識が豊かになったことで枝葉の部分には変化があると感じています。このままフレッシュなパワーのまま、行けるとところまで突き進みたいなって思います。
――橋本さんといえば、披露試写会などに登場する際の衣装に注目が集まることも。ファッションのこだわりがあれば教えてください。
年齢やイメージなどもあるとは思いますが、ファッションに関しては自分の好きなものにフタをせず、ときめきを大事にしています。周りから似合っていないと思われたとしても自分の好きなものを身に纏っていたいです。

――私服にもこだわりはありますか?
プライベートでは、カジュアルなものとファンシーなものを混ぜるのが特に好きです。他にもさまざまなテイストを楽しんでいます。
――お仕事とお仕事の間のリフレッシュ方法、ストレス発散方法はありますか?
散歩をしたり太陽を浴びたりと、自然を感じることでストレスが軽減されているように感じています。リフレッシュ方法は、お風呂ですね。檜の香りが好きなので、檜の風呂板や椅子を買いました。そこへ檜のアロマオイルも炊いて、香りで癒やされています。
――お風呂にはどれくらい入っていますか?
これはおすすめしませんが、5時間くらい入っていることもあります。
本や漫画を読んだり、ゲームをしたり…。お風呂の中で自分の好きなことをしながら過ごすことがリフレッシュです。
心を柔らかくしてくれた、キレイな人は…?

――橋本さんにとって“キレイな人”とはどんな人をイメージしますか?
「キレイ」と思う感覚は人それぞれかと思いますが、私は外見だけではなく、内側から輝いている人に惹かれます。自分もそうありたいと思っています。
――最近出会った“キレイな人”はどなたですか?
昨年、東京国際映画祭のコンペティション審査員に就任した時に出会ったキアラ・マストロヤンニさんです。フランスの名女優、カトリーヌ・ドヌーヴの娘さんです。外見ももちろんですが、内面からにじみ出るオーラが圧倒的に美しかったです。知的で知識も豊富。強さの中にしなやかさも感じました。キアラさんは最年少の私にも対等に接してくれて、涙が出そうでした。自分もキアラさんのような女性になりたいと強く思いました。

――審査員長のトニー・レオンさんをはじめ、素晴らしいメンバーの中で緊張されたかと思います。
審査員は5名でしたが、私だけ英語が話せない状況だったので通訳を介してお話をしました。なので自分からなかなか話しかけにくい環境でしたが、その都度「愛はどう思う?」とキアラさんが話をふってくれて、その中の一員として接してくれました。私が「英語が話せなくてすみません」と伝えると、「私のほうこそ日本語が話せなくてごめんね」と気遣ってくださったんです。心が柔らかくなった瞬間でした。
――キアラさんとの出会いは橋本さんにとって転機になるかもしれませんね。
同じ俳優としてこんな人になりたいと強く思いました。そして、英語を真剣に勉強したいと思いました。いつか英語で記者会見ができるくらい、目標を高く設定して頑張りたいです。

Profile
橋本愛
1996年生まれ、熊本県出身。2010年の映画『告白』に出演し注目を浴び、2012年の映画『桐島、部活やめるってよ』では日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。近年では、映画『熱のあとに』『アナウンサーたちの戦争』(ともに2024)、ドラマ「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」(2024)などの作品に出演し、2025年も多くの作品を控えている。
■『早乙女カナコの場合は』作品情報
3月14日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
出演:橋本愛
中川大志 山田杏奈
根矢涼香 久保田紗友 平井亜門/吉岡睦雄 草野康太/のん
臼田あさ美
中村蒼
監督:矢崎仁司
原作:柚木麻子『早稲女、女、男』(祥伝社文庫刊)
脚本:朝⻄真砂 知 愛
主題歌:中嶋イッキュウ「Our last step」(SHIRAFUJI RECORDS)
配給:日活/KDDI
公式サイト:saotomekanako-movie.com
公式 X:@wands_movie
公式Instagram:@wands_movie
©2015 柚木麻子/祥伝社 ©2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会
撮影/渡会春加
取材・文/安田ナナ

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