2025.01.31
【俳優・志田彩良】目に見えるものだけがすべてじゃないと、作品を通じて改めて気づく
1月31日(金)に公開される映画『遺書、公開。』は、まずタイトルやストーリーをいっさい明かさずに全キャストの情報を解禁。次代を担う若手俳優たちが結集した豪華布陣は、たちまち話題を呼びました。しばらく間を置いてから衝撃的なタイトルと世界観、あらすじを公開。さらに注目度と期待値が高まり、話題を集めています。
新学期、2年D組に送られてきたクラス内の序列に、いつしか生徒も担任も従って日常生活を送るようになっていく。そんな中、序列1位の姫山椿(堀未央奈さん)が自殺してしまう──。ところが彼女の葬儀後、姫山からクラス全員に遺書が届く。1人ひとり文面が違う遺書をクラスメートの前で読み上げることで、真実に近づこうとしていく群像を、脚本・鈴木おさむ/監督・英勉(『東京卍リベンジャーズ』シリーズ)の強力タッグで描く、衝撃的な一編です。
そのメインキャストの1人である廿日市くるみを演じた志田彩良さんに、教室という閉鎖的な空間で日常を過ごす集団の本質をはじめ、人の心理などについてじっくり語っていただきました。
「もう無理だから」と、自分で制限しない
――志田さんに対しては愚問と承知でお聞きしますが、制服を着て教室に入れば気持ちも高校生になるのでしょうか…?
そうですね(笑)、制服を着れば高校時代の気持ちを思い出しますし、役として必要としていただけるのであれば、制服を着続けたいと思います。ただ、最近は共演者の方はもちろん、私よりも年下のスタッフの方がいらっしゃったりもするので、自分も年齢を重ねてきたんだとも実感していて──。以前はどちらかというと、年上の方々に囲まれていることが多かったので…時の流れを感じずにはいられないです。
――ただ、大人というか…年相応の役が増えてきた分、学生役を新鮮な気持ちで演じられるのかなと想像もしますが、いかがでしょう?
確かに、そういう部分もあります。なので、求められる限りは幅広い年齢の役を演じられたらいいなと思います。30歳を過ぎても制服を着る役に挑戦してみようかなって(笑)。
――志田さんは結構、近年も学生役が多いんですよね。『アオハライド』の村尾修子役もそうでしたし。あと、大西流星さんが主演された映画の…。
『恋を知らない僕たちは』(24年/池澤瑞穂役)ですね。20歳を過ぎたあたりの頃は「25歳くらいになったら、もう役で制服を着ることもなくなるんだろうな…」と思っていたんですけど、25歳の今も『遺書、公開。』でしっかり着ていました(笑)。でも、今は大人の役も演じられるので、そう考えると一番楽しい年齢でもあって。なので、自分から「もう無理だから」って制限してしまうのではなくて…繰り返しになってしまいますが、求めていただける限りは幅広く演じたいです。
誰よりも演じる役のことを理解したい
――その『遺書、公開。』で演じた廿日市くるみは“クラス内の序列が20位”と、カースト的には下層に位置するわけですが、彼女の心情を理解するにあたって何を糸口にしたのでしょうか?
廿日市って、“自分がこう動いたとしたら、相手はどうするんだろう?”とか、“これって、何でこうなんだろう?”といった好奇心が意外と強いんです。そこは自分と似ていたと言いますか、“ちょっかいをかけたら、どんな反応するかな?”みたいなことを想像するところが私にもあったので、好奇心に準じて行動する廿日市と自分を重ねて役柄をつかんでいった感じでした。
とはいえ、彼女のすべてに共感できたわけではなかったんです。それでも、廿日市くるみという人のことをちゃんと理解したいと思って、台本を読み込みました。ただ、廿日市に限らず、自分がいただいた役に対する理解はできる限り深めた上で演じたいと考えているので、今回のアプローチが特別だったというわけでもないんです。
――仮に世界中から否定されたり拒絶されたりしても、志田さんだけは廿日市くるみの味方でいたい…的な?
そうですね、誰よりも自分が演じる役のことを理解したいです。それにしっかりと責任をもって演じなければ、『遺書、公開。』のように原作がある場合、原作者の陽 東太郎先生に対しても原作ファンの方々にも失礼になってしまうので、ひときわリスペクトをもってお芝居しようという気持ちがありました。
――英勉監督からは「変わり者だけどかわいらしい…そんな廿日市にしてほしい」という要望があったそうですが、その言葉をどう受け止めたんでしょう?
その言葉をいただいたのが、初めて英監督とお会いした時だったんですけど、加えて「廿日市はたぶん、こういう話し方をすると思うんだよね」といったイメージも伝えてくださって。その時点で、すでに監督の中で廿日市像がはっきりと確立されているんだと感じ取れたんです。なので、監督のイメージする廿日市くるみの情報をできるだけたくさん吸収して、自分の中で咀嚼したうえで「こういう風に演じてみようかな」と考えながら現場に入りました。
「自信がないからこそ努力を」、友人からもらう刺激
――素朴な疑問として、細部まで具体的に提示してもらった方が演じやすいのか、あるいはガイドラインにとらわれてしまいがちになるのか…志田さん的にはどちらなんでしょうか?
いずれのアプローチも私は好きなので、もがいたり、やりづらさみたいなものを感じることはないんです。原作を実写化する場合は確固たるモデルが存在しているので、まずはそのベースとなる部分を掘り下げますし、実写の前にアニメ化されていたら、しっかりと観た上で自分の中に役を落とし込んでいく、といった役作りをするようにしていて。その段階で役を研究していく面白さもありますし──。
一方、オリジナル作品の場合はイチから役を構築していける面白味があって。なので、どちらが得意とか不得意みたいな感覚はなくて…純粋に役の人物像を掘り下げていく役作りが私は好きなんだと思っています。
――なるほど。最終的に志田さんの身体と心を“依り代”にするわけですから、そこに“志田彩良ならではの妙味”が生まれる、と…。
そうであれば、嬉しいんですけど…(笑)。基本的に自分の表現に対して確固たる自信があるわけではないので、なかなか「はい、そうですね」とは言えないんです──。ただ、同じように役者をしている友達と話してみると、すごく自信があるように見えても実際はそうじゃなかったりします。だからこそ向上心が潰えることなくコツコツと努力をしている、とわかったりもして。そういう同業の友達がいるので、私も「自信がないからこそ、努力しよう」と刺激をもらっているところが多分にあったりするんです。
――僭越ながら、すごく素敵な心がけだなと思いました。
昔は“自信を持っていた方がカッコいい”と思っていたので、なるべく緊張していない…平静なフリをしていたんですけど(笑)、今は「自信がないけど、努力をした分は裏切ることがないはずだから、きっと大丈夫!」と自分に言い聞かせて安心させるように暗示を掛けています。
目に見えるものがすべてじゃない
――そういったお話を、撮影現場で共演者の方と共有することもありますか?
こういったお話を現場ですることは、ほぼないです。自分の性格面や心情的な部分を自ら話すことが、ほとんどなくて。聞かれたら言うんですけど、相談することはまずないです──。
ほかの学園モノだと、クラスメート役の人たちと撮影の合間に和気あいあいと他愛もない話をすることもあったんですけど、『遺書、公開。』の現場はダークな作風だったこともあって、現場ではみんなあんまり口数が多くなかった印象があります。教室のセットの中に入ると、心なしか少し空気もどんよりとしていて…。でも、教室から一歩出れば「お菓子、何食べた?」とか、いわゆるフツーの会話を楽しんでいました(笑)。
なので、本番を撮り終わってカットが掛かったら、なるべくセットの外に出てリフレッシュするようにしました。ずっとセットの中に籠もっていると、時間がどれだけ経ったのかもわからなくなってくるんです。同じ場所にずっといて、芝居とは言えお互いに熱量をぶつけ合っていると、だんだん押し潰されるような感覚に陥ってしまうので、外の空気を吸って切り替えるようにしていました。
――深呼吸、大事ですよね。それと…教室という空間って結構閉鎖的だからこそ、いつしかその中で出来上がった序列に生徒たちが縛られてしまう──ある種の集団催眠的な状態に陥ってしまうのかな、と『遺書、公開。』を観て感じたりもしたんです。10代=若さゆえに集団心理にたやすくなびいてしまう怖さが描かれているようにも思いましたが、志田さんは作品の本質をどう捉えたのでしょうか?
私も10代の頃…特に学生時代はそういった本質的な部分を隠さないといけないのかなと思っていたので、本音では「嫌だな」って思ったことがあっても、友達に言えずにいたことが結構あったんです。言えたとしても「え〜、やめてよー」って笑ってごまかしてしまっていたので、傍から見たら楽しそうに映っていたのかもしれないですけど…本心では傷ついていて。
でも、反対に私からはキラキラ輝いているように見えた友達も、「本当はそうじゃないんだけどな…」っていう葛藤を少なからず抱えていたんだろうなって、今になって感じたりもするんです。自分から見たら周りは楽しんでいたように思えたけれど、本当はすごく悩んでいたのかもしれない──って、目に見えるものだけがすべてじゃないんだということを、『遺書、公開。』に関わることで改めて感じた部分がありましたね。
2025年は“前の年を超える1年”に
――その本質的なものが『遺書、公開。』では可視化されるわけですが、これが実に怖いなと感じました。
私も怖かったです。姫山さんにしても、「序列1位、おめでとう〜!」って囃し立てられるけど、その羨望も嫉妬も全部1人で受けとめなければならないじゃないですか。SNSでも似たような構図があったりしますけど、自分が当事者になった時のことを想像すると…ものすごく怖いです。
しかも真実じゃなくても広まったら、それが“真実”になってしまう。だから、というわけでもないんですけど、人の気持ちを考えて行動するように心がけていますし、それこそSNSに投稿する場合も極めてシンプルな文言にとどめるようにしていて。自分が真剣に伝えたいメッセージがあったとしても、捉え方によっては意図から離れて受け取られてしまう可能性もありますし。インスタグラムなどにはなるべく余計なことを書かず、場合によっては絵文字だけで終わらせたり、意味を持たせずメッセージ性を込めないように投稿しようと気をつけています。…何か重たい話になっちゃいました(笑)。
――いえいえ、とても大事なお話だと感じました。では、次の質問で締めましょう。日常から作品の現場へ入る時の切り替えで志田さんが心がけていることは、何でしょうか?
当たり前のことかもしれないんですけど、「一つひとつ丁寧に取り組もう」と、ずっと心がけていて。次の作品が決まっていたとしても、まずは目の前にある役柄としっかり向き合う。その先に次のことが見えてくると思うので──一つひとつを大事にしていきたいです。
──もう一つ。2025年、どんな年にしたいですか?
毎年言っていることなんですけど、“前の年を超える1年”にしたいです。2024年も素敵なことがたくさんあって、充実していた年だったんですけど、2025年はさらに実りのある1年にしていけたら、と思っています。
Profile
志田彩良
1999年生まれ、神奈川県出身。2013年からファッション誌の専属モデルとして活動し、2014年に短編映画『サルビア』で初主演を務め、役者デビュー。主な出演作に「ゆるキャン△」シリーズ(2020,21)、日曜劇場「ドラゴン桜」(2021)「大奥 Season2『幕末編』」(2023)など。主演を務める「こんなところで裏切り飯〜嵐を呼ぶ七人の役員〜」が放送中で、連続テレビ小説『あんぱん』(2025年前期放送予定/NHK)の放送を控える。
■『遺書、公開。』作品情報
1月31日(金)より全国公開
出演:吉野北人 宮世琉弥 志田彩良
松井奏(IMP.) 髙石あかり 堀未央奈 忍成修吾
上村海成 川島鈴遥 荒井啓志 松本大輝 星乃夢奈 榊原有那 藤堂日向 菊地姫奈 大峰ユリホ
阿佐辰美 兼光ほのか 日髙麻鈴 大東立樹 金野美穂 鈴川紗由 浅野竣哉 青島心 楽駆
原作:陽 東太郎「遺書、公開。」(ガンガンコミックス JOKER/スクウェア・エニックス刊)
監督:英勉
脚本:鈴木おさむ
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撮影/濱田茉里
取材・文/平田真人
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