【俳優・杉咲花】「生活に戻っていく時間を愛している」、演じることを楽しむ原点
映画『52ヘルツのクジラたち』に続き、春クールの主演ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」でも話題を集めている杉咲花さん。彼女の最新主演映画『朽ちないサクラ』が、6月21日(金)に劇場公開を迎えます。
本作で杉咲さんが演じたのは、警察の広報職員・泉。学生時代からの友人で記者の千佳(森田想)にうっかり警察内のアクシデントを漏らしてしまい、口止めするも千佳が勤める新聞社から記事が出てしまったことで、署内は大混乱。泉は「私じゃない」という千佳を信じきれず、調査に乗り出した千佳は遺体で発見され帰らぬ人に…。激しく後悔した泉は、真相を突き止めようと動き出していきます。
撮影の舞台裏と共に、杉咲さんの「失敗」に対する向き合い方を教えていただきました。
ロケ地・岡崎で見た桜が「人生のベストサクラ」
――『朽ちないサクラ』は柚月裕子さんの小説の映画化ですが、杉咲さんのなかで原作モノとオリジナル作品では関わり方は変わるものでしょうか。
実感としてはあまり変わりませんが、小説のように文字に落とし込まれたものは受け手によって様々な想像が広がるものだと思います。対して、自分たちなりの解釈をもとに、ある一つの姿として見せるのが実写化だと私は考えているので、やっぱりそこに対しての緊張感は抱いています。
――今回は、事前に原廣利監督や我人祥太さん・山田能龍さんといった脚本チームに「原作を読んで心に残った部分」を共有されたそうですね。
制作に関わる方々の中でどういう輪郭を持っているのか意見交換する時間を大切にできたことは、映画としてなにを見つめていくべきかの方向性もより深堀りされて、私にとっても貴重な時間でした。自分にはない視点を教えてもらえる時間でもあるので、泉を演じるうえでヒントとなることが沢山ありました。
――逆にいえば、原作という共通認識があるということでもありますもんね。ちなみに、本作を拝見して杉咲さんのまなざしが印象に残りました。泉の変化に従って目力が増してくるような感覚を抱きましたが、何か意識されていたのでしょうか。
千佳(森田想)のことがあってから、泉は心の中が乾いてしまったのだろうという印象を抱いていました。そこから、意志をもって目的に向かっていくにつれて、外見的な変化が出てきたのかもしれません。自分としてはそこまで意識していたわけではありませんでしたが、その時置かれた環境が泉をそうさせていったのだと思います。
――原監督は一枚絵としての美しさを大切にされていた、と杉咲さんは仰っていましたが、表情や目の部分に対する演出はあったのでしょうか。
そういった部分に関しては、俳優部に託されていたような印象を抱いています。ただ、いま思うと撮影していて演じる役が真に迫っていったときほど、カメラとの距離が近くなる感覚がありました。反対に、泉が「独りである」と実感するときほど、その環境にポンと置かれてカメラが遠くにあった気がします。自分自身と向き合って現状の気持ちに明確さが出てきたときに観客との距離も近づいていくのかもしれないと感じました。
――撮影は岡崎で行われたと伺いましたが、思い出に残っているスポットや美味しかったものはありましたか?
やっぱり1番は桜です。いままで見たことのある桜のなかで一番美しかったんじゃないかと思います。特に神社に向かっていく時とおみくじを見つけたシーンでは、実際にとんでもない量の桜が咲いていて、生命力を感じました。
美味しかったのは、安田顕さんに連れて行っていただいた和食のお店で食べたお刺身です。
失敗をしても「そういう時間こそチャンスだと思いたい」
――杉咲さんは、本作に際して「この物語は、ひとりの人物の失敗から始まります。私はその出来事に温もりの眼差しを向けることはできないけれど、失敗に向き合い、責任を取ろうとする姿を見捨ててはいけないと思いました。“再生を見守る”という世の中のあるべき姿のひとつとして、この映画に関わる価値を感じ、緊張を抱きながら演じました。いつの日か失敗してしまったことのある誰かにも、他者の失敗を許してあげられない誰かにも、この映画が届いてほしいです」とコメントされていました。改めて、本作を経験して得た気づき等があれば、教えていただけますでしょうか。
今あげて下さった部分に尽きるのですが、一人の人が変わっていこうとする姿をどう受け止めるかということは、日常生活を送るうえで「他者をどう目差すのか」にもつながる気がしています。自分と対面する相手との付き合い方を問われているような感覚になりました。
――杉咲さんご自身は、「失敗」というものにたいして今現在どんなお考えを持っているのでしょう。
自分のことでも、誰かのことでも小さな失敗は日々たくさん起こるものだと思います。そういう時間って悪いことばかりではない気がしていて。「その失敗にどう向き合っていけるのか」ということが人を成長させると思いますし、私個人はそういった時間こそチャンスだと思いたい、という気持ちもあります。そこに真摯に向き合っていたら、その姿を見ている人もきっといるでしょうし、次の信頼のきっかけになったりもすると思うんです。内容にもよるかもしれませんが、ネガティブなことだけとしては捉えていません。
――ちなみに、失敗した際の切り替え方や折り合いのつけ方はどうされていますか?
まずその状況を自分が受け止めないとその次には進めないかと思います。やってしまったことや間違えてしまったことによって、自分自身も傷ついたりショックを受けたりすることもありますが、どちらかというと「いつまでもそうしていられないな」という思いに割とすぐ切り替わっていくかもしれません。自分はそういった部分が楽観的なのですが――「しょうがない」と思って、その失敗を次にどう生かしていくかに集中するようにしています。
「髪の毛を切ることがリフレッシュに」
――杉咲さんは『市子』や『52ヘルツのクジラたち』等々、観ている側からすると「引きずってしまうのではないか」と思うような役どころにも数多く出演されてきました。演じられた後の“切り替え”についても、教えて下さい。
なかなか切り替えられない時もあります。演じた役のことを大好きになったり、自分がその物語に救われたり、現場がとても楽しかったりと理由は様々ですが、毎日時間をかけて過ごしていた日々が一気になくなって、散り散りになってしまうのはやはり喪失感があります。「無事に終わって良かった」という安堵ももちろんあるのですが、寂しさが消えなくても切り替えるようにしています。そうしないと、自分の生活の軸がブレ始めてしまうんです。生活に戻っていく時間を自分は愛しているし、そこが充実していないと仕事も楽しめないと思っているので、そうした原点を見つめ直すようにしています。
あとは、髪の毛を切ることはリフレッシュになります。一つの作品が終わって次の現場に入る期間がここ数年は割とタイトだったこともあり、髪の毛を切ることが次の役に近づいていく手段、そしてその前まで演じていた役とお別れする時間でもあって、一つのリセットになっていました。
――杉咲さんとお話ししていると思慮深さに感銘を受けますが、考えること自体に疲れることはありませんか?
そうですね、考えすぎてしまって「今日はもう無理だなぁ」と一旦ストップしてしまう日もあります。あまりコントロールが得意な方ではないと思います。
――最後に…もしまとまったお休みが取れたとして、行きたい場所はありますか?
海外に行きたいです。プライベートの旅行で一度しか行ったことがないのですが、その時に訪れたハワイが最高だったのでもう一回行きたいです。夕焼けが今でも覚えているくらい美しすぎて、もう一度観られたら他にはもう何もいらないなぁって。
Profile
杉咲花
1997年生まれ。映画「湯を沸かすほどの熱い愛」で第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞・新人俳優賞はじめ、多くの映画賞を受賞。主な出演作に、ドラマ「花のち晴れ〜花男 Next Season〜」(18年)、連続テレビ小説「おちょやん」(20〜21年)、「杉咲花の撮休」(23年)、映画「トイレのピエタ」(15年)、『十二人の死にたい子どもたち』(19年)、『⻘くて痛くて脆い』(20年)、『99.9―刑事専門弁護士―』(21年)、『大名倒産』『法廷遊戯』『市子』『52ヘルツのクジラたち』(すべて23年)などがある。また、主演映画『片思い世界』(25年公開予定) の公開も控えている。
■『朽ちないサクラ』
劇場公開:2024年6月21日(金)
出演:杉咲花
萩原利久 森田想 坂東⺒之助
駿河太郎 遠藤雄弥 和田聰宏 藤田朋子
豊原功補
安田顕
原作:柚月裕子「朽ちないサクラ」(徳間文庫)
監督:原廣利
脚本:我人祥太 山田能龍
音楽:森優太
©2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会
取材・文/SYO
撮影/木南清香
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