【俳優・佐藤寛太】「好きのパワー」があれば、生きていける
5月10日(金)に公開を迎える松居大悟監督の最新作『不死身ラヴァーズ』で、「好き!」に一直線な主人公・長谷部りの(見上愛)から全方位の愛を受ける甲野じゅんを、佐藤寛太さんが演じます。
本作のタイトルになぞらえて「理屈抜きに好きなものは?」と聞くと、彼は「どんなに悔しい思いをしても、芝居を諦められない」と語ってくれました。不滅の愛を体現した本作で、佐藤さんは「好きのパワー」をどのように受け止めたのでしょうか。
練習よりも、まず「好き」になる
――本作は、見上さん演じるりのが、佐藤さん演じるじゅんに恋をするけれども、両想いになった瞬間にじゅんが消えてしまう…という不思議な展開から始まります。りのの純粋な「好き!」の表現が見ていて気持ち良いのですが、佐藤さんが理屈抜きに「好き!」と思えるものはなんですか?
俳優っぽいことを言ってしまいますが、どんなに悔しいことがあっても、お芝居や映画づくりを諦められないんです。それは「好き」でもあるし「依存」でもあるな、と。
――佐藤さんにとって「好きのパワー」とは?
たとえば今後、ピアニストやバイオリニスト、陸上選手やラグビー選手の役を演じることがあるかもしれない。まったく経験のない分野に飛び込む時、僕がまずやることは、役づくりよりも「その競技のことを知って、好きになる」こと。
僕にとって、まず「好き」っていう気持ちが最初に必要なんです。楽器の練習を積むよりも、好きになることが一番大切。好きになったら、自然と練習するじゃないですか。
どんなに時間がかかっても、まずは好きになる。技術を学ぶのは、そのあと。そうすれば最後にグンッと伸びる瞬間があるって、これまでの経験上、知っているから。やっぱり「好きのパワー」があれば、誰に言われるでもなく自然とやってしまう。好きなものがあるから、なんとか生きていられるんだと思います。
――ゼロの状態から「好き」になるためには、どうしたらいいでしょうか?
関わる時間を増やすこと、ですかね。僕の場合は、ずっと読書が好きで、お手洗いに持っていって読む時期もあるくらいなんです。人生において触れる回数が多いと、だんだん好きになっていくんじゃないかな。
お仕事でも「あの人に会いたいから仕事がんばろう」とか、「好きのパワー」ってモチベーションに繋がりやすい。育んで、積み重ねながら、好きになっていくものもありますよね。
甲野じゅんは「ぜんぶ自分だった」
――両想いになった瞬間に消えてしまうじゅんは、その後さまざまなタイミングでふたたび、りのの前に現れます。同じ人物に見えますが、性格は少しずつ違っていて、その理由は物語の終盤で明かされます。佐藤さんがじゅんを演じるにあたって、どんなプランがあったのでしょうか。
現場に入る前は、いろいろなパターンの甲野じゅんを演じ分けよう、と準備していました。でも気がついたら、松居監督がそれを取っ払ってくれたんです。「そのまんまでいいよ」って言ってカメラの前に送り出してくれたので、どのじゅんにも僕の側面が出ている気がします。
――松居監督の意図としては、佐藤さんのナチュラルな演技を引き出そうとされていたのでしょうか?
僕の気が付かないうちに、そう配慮してくれていたのかもしれません。松居監督自身、すごくナチュラルな方なんですよ。気取らず、気張らず、いつもニュートラルな感じ。だからこそ、僕が「こういう風に演じよう!」と考えて背負い込んでた荷物や装備を、フッとはがしてくれたのかも。
松居監督って、とても淡々としているんです。お芝居が良い時も「OK」、もう1テイク欲しい時も「もう一回やろっか」って。これまでの松居監督の作品を観ていても、良い俳優さんしか出ていないし、お芝居に対するハードルが高いんだろうな、と思って現場に入ったのを覚えています。でも、求められるレベルが高いぶんワクワクしたし、楽しかったです。
――松居監督は、ご自身も俳優として映画やドラマに出演されていますよね。演者の視点も持っている監督ならではの演出だ、と感じた部分はありますか?
俳優ごとにアプローチを変えているのかも、と思った瞬間はありました。僕に対しては「そのままで」と自然な演技を求めている反面、見上さんに対しては「今、どういうふうに感じた?」「こう動いてみたらいいかも」とロジカルな話をしていたみたいです。
僕としては、良ければ良い、ダメであれば「もう一回!」って淡々と言われる演出が合っていました。じゅんという役が自分自身に近かったおかげもあるかもしれませんが、松居監督のおかげで、あまり難しいとは感じなかった気がします。
見上愛さんとの共演が、楽しみだった
――今作で初めて見上さんと共演されて、役者さんとしての魅力をどんなところに感じられましたか?
一言で表すなら「新鮮な人」です。今作の長谷部りのという役も、恋心が輝いていて、ものすごくキラキラしているんだけど、いわゆる「ポジティブ無敵女子!」って感じではない。傷ついているし、自分の醜い部分にぶち当たってもいる、普通の女の子なんです。
見上さんの笑顔には、人の心を動かすパワーがあると思うんですけど、それは彼女がもともとすごくポジティブで、常にハツラツと明るい性格だから!というわけではない。これまでの人生で培ってきた経験を土台にした、文化的な側面が感じられるからこそ、りのという役も輝いたんじゃないでしょうか。
見上さんの笑顔って、根が明るい人が笑ってるよりもグッときませんか? 見る側がすごく元気になるような、心が掴まれるような感じがしますよね。
僕、見上さんが出演されている過去の作品も観させてもらっていて、共演するのがすごく楽しみだったんです。りのの友人・田中役の(青木)柚くんも含めて、素敵な俳優さんと共演できて嬉しかったなぁ。
――見上さんとは、撮影の合間にどんなお話をされたんですか?
まったく覚えてなくって、中身のないくだらない話しかしてないんですけど、ずっと楽しかったことだけは記憶しています。撮影のあいだ毎日が楽しくて、現場に行くのも楽しみでした。見上さんに対しても「今日はどんなお芝居をするんだろう?」ってワクワクして。
この『不死身ラヴァーズ』そのものが、見上さん演じるりのがどう動くかによって、周りの人物たちの人生も変わっていく作品で、いわば彼女が台風の目だった。だから、明日はどんなふうに演じるんだろうとか、どんな表情をするんだろうとか考えているだけで、常に新鮮でした。
――見上さんや青木さんの、現場での過ごし方をご覧になって、印象に残っていることはありますか?
僕自身、カメラ外でのことをあまり気にしたことがないんですけど、見上さんや柚くんを見ていると早熟だな、と思います。学生時代にコロナ禍を経験したことも大きいのかな。
たとえば、お酒を飲みすぎて酔っ払って、朝に目が覚めた時に何も覚えていない! そんな失敗が、彼らにはないんじゃないかな、と。「常に誰かが自分を見ている」っていう意識がベースにありそうな気がするんです。そう考えると、ほかの世代よりも、大人にならざるを得ないタイミングが早くきてしまったのかな、と思います。
「佐藤寛太が出ているから観る」と言われる俳優になりたい
――本作では、耳に残る良いセリフが多いですよね。りのがじゅんに向けて言う「明日も健やかにね」というセリフも印象的です。
とっても良いですよね! この間、柚くんと会った時に2人で写真を撮って、見上さんに送る時に「明日も健やかにね」ってメッセージを添えたんです。確か、松居監督が考えたセリフだったんじゃないかな。
それで言うと、いま『鴨川ホルモー、ワンスモア』という舞台をやっているんですが(取材時期は2024年4月上旬)、帰る時にメンバー全員に「また明日ね」って伝えているんです。
毎日、同じメンバーと顔を合わせるのって、学校や会社みたいじゃないですか。年下も年上も関係なく「また明日ね」って言い合う瞬間がすごく好きで。普段はなかなか言えない言葉だから。
――佐藤さん自身、また明日も健やかに過ごすために、一日の終わりに必ずやっているルーティンはありますか?
キャンドルに火をつけて瞑想したり、あとは最近ハマったヨガをやったりしています。舞台中なこともあって、毎日酷使した身体を労わるためにも、欠かせません。
――反対に、朝一番に必ずやっていることは?
舞台で共演させてもらっている、かもめんたるの岩崎う大さんの影響で「コールドシャワー」を始めました。朝、起きた瞬間にスマートフォンを触る癖がついてしまっていたんです。軽く2〜30分ほどヨガをやってからコールドシャワーを浴びるっていう、新しい習慣をつけたいと思って。
――体調管理のために、いろいろなことをされているんですね。
せっかくつくったマイルールでも、遠慮なく壊してますよ。ルールに縛られてイライラしちゃうのも良くないですから。毎日続けられなくてもいい、3〜4日空いてしまっても、また始めたらいい。それくらいの緩い感じで続けています。
体調管理についても、僕はなぜかスケジュールが詰まっていれば絶好調、暇な時に体調を崩す不思議な体質なんです。いまは瞑想、ヨガ、コールドシャワーをやっているくらいで。気をつけていることは、それくらいです。
――俳優としての活動はもちろん、ショートフィルムの監督もされている佐藤さんですが、今後「こんな俳優になりたい!」というロードマップはありますか?
今回のように、良い作品、素敵な監督や俳優さんに恵まれた時に、自分ってすごく幸せだなと思うんです。どんな役者になりたいかと聞かれたら、いまなら「佐藤寛太が出ている作品だから観る」って言ってもらえる存在になりたい。
一朝一夕には、そう思ってもらえる立ち位置には辿り着けないですよね。一つ一つ、目の前の作品や役をコツコツと、大事に表現したい。挑戦することで、学んだり磨かれたりする側面も多いはずなので、自分にとっての心地よいバランスを模索しながら、これからも一歩ずつ進んでいきたいと思っています。
Profile
佐藤寛太
1996年生まれ、福岡県出身。2014年に「劇団EXILEオーディション」に合格し、2015年に「劇団EXILE」に正式加入。主な出演作に『HiGH&LOW』シリーズ、『イタズラなKiss』シリーズ、『いのちスケッチ』(2019年)『軍艦少年』(2021年)『正欲』(2023年)など。
■作品情報
映画『不死身ラヴァーズ』
劇場公開日:2024年5月10日(金)
出演:見上愛 / 佐藤寛太
落合モトキ 大関れいか 平井珠生 米良まさひろ 本折最強さとし 岩本晟夢 アダム
青木柚 前田敦子 神野三鈴
監督:松居大悟
原作:高木ユーナ『不死身ラヴァーズ』(講談社「別冊少年マガジン」所載)
脚本:大野敏哉 松居大悟
製作幹事:メ~テレ ポニーキャニオン
配給:ポニーキャニオン
製作プロダクション:ダブ
公式サイト: https://undead-lovers.com
©2024「不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©️高木ユーナ/講談社
撮影/Marco Perboni
取材・文/北村有
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