2026.05.10
パリ、オルセー美術館の特別企画。愛を描いた巨匠ルノワールの大回顧展へ
パリ、オルセー美術館。「印象派絵画の殿堂」と呼ばれるこの美術館が、2026年で創立40周年を迎えました。実は今、それを記念して、印象派画家であるピエール=オーギュスト・ルノワールの大規模な回顧展が開催されています。
今回のルノワール展は、二部構成という珍しい展示内容。先日、そんなルノワール展に実際に足を運んでみました。雨の多い5月のパリですが、現地では悪天候を感じさせないほどの熱狂ぶり! オルセー美術館の雰囲気とあわせて、回顧展の魅力をお届けしたいと思います。
印象派の宝庫、オルセー美術館

オルセー美術館は、ルーブル美術館・ポンピドゥーセンターとともに、パリ3大美術館のひとつに数えられています。その特徴は、世界屈指の印象派コレクション。モネ、ドガ、ルノワール、セザンヌといった、印象派の主要アーティストがほぼ網羅されています。
彼らの多くがフランスで活躍していますから、ここパリの美術館に所蔵されているのも納得…のはずなのですが、それをもってしても、在住者の私は来るたびに震え上がってしまいます。モネの『日傘の女』やゴッホの『自画像』『ローヌ川の星月夜』といった人類の宝ともいうべき作品が、何気なく展示されているのですから。


もちろん、オルセー美術館の面白さは印象派だけではありません。もともと駅舎だった建物を改装して作られているため、空間に唯一無二の開放感があります。トレードマークの大時計も有名で、美術館そのものが建築アートのようです。


ルノワール展は、そんなオルセー美術館の創立40年を記念して、2026年3月17日から7月19日まで開催されています。
「Renoir dessinateur」デッサン画家、ルノワール

ルノワール展は、ふたつのエクスポジションの入口が、美術館の一階フロアで分岐していました。私がまず向かったのは、そのうちの一つ「Renoir dessinateur(デッサン画家ルノワール)」。ここでは、画家ルノワールが優れたデッサン家であったことを紹介しており、約120点の素描が公開されていました。
ルノワールの絵画については、完成作しか見たことがないという方が多いかもしれません。私もそうでした。ところが彼はいろいろな画材道具をいつも持ち歩き、絶えず絵を描いていたといいます。

なかでも興味深かったのは、パステル(クレヨン)で描いたポール・セザンヌの肖像画。ルノワールは、実はパステルの名手としても知られていたようです。
会場にはセザンヌ本人が描いた自画像(コピー)もありましたが、荒々しいタッチのそれと比べると、人間味のあるやさしい雰囲気に仕上げられていたことがとても印象的でした。さすがはルノワールです。

もう一つ、水彩画も素晴らしかったです。しかし水彩画は当時、フランス美術界で「アマチュア的かつ女性的な技法」とみなされていたそう。19世紀のフランスでは、油彩画がメインだったのです。
ルノワール自身も、描いた水彩画をごく親しい仲間にしか見せなかったとのことで、今回の展示がより貴重に感じられました。

「Renoir dessinateur」では、こうした習作だけでなく、リトグラフや新聞挿絵まで展示されています。そんなルノワールの素描作品を一目見ようと、展示会場は大勢の人で賑わっていました。
「Renoir et l’amour」ルノワールと愛

さて、ここからは二部構成のふたつめ。待ち望んでいた「Renoir et l’amour」展です。
というのも、今回の回顧展があまりにも盛況なため、なかなかチケットが予約できなかったからです…! 事実、私は何度もオルセー美術館を訪れていますが、これほど熱狂的なエクスポジションは初めてかもしれません。

「Renoir et l’amour」では、“愛”の表現にスポットライトが当たっています。愛といっても男女の恋愛だけではありません。友人・家族・隣人と、「人間関係そのものの明るさ」に目が向けられました。
つまり、日常にある小さな幸せを「生の肯定」として扱った、ルノワール作品のなかでも選りすぐりの絵画が展示されているというわけです。


人のほほえみ、頬の血色、そして服にまで差し込む木漏れ日の光…。本当に、幸せそうです。油彩を通してポジティブを感じるって、ありそうでなかなかないのではないでしょうか。涙腺を軽く刺激するような絵画に、この日はいくつも出会うことができました。

しかし、ルノワールは「楽観的すぎる」として、同時代人から嘲笑されることもあったそうです。
こうしてみると、肌や髪は溶けるように描かれていて、筆運びの正確さよりも「甘さ」「柔らかさ」が優先されています。そのためか、当時の批評家たちはネガティブな評価を下していたとのこと。現代で見ればとても素敵なのですが…。

それでもルノワールは、幸福なテーマだけを選びました。彼にとっての愛とは、「世界の厳しさに対する antidote(解毒剤)」という意味合いが強かったのです。
ルノワールの名作『舟遊びの昼食』のこと

ルノワールの代表作のひとつ『舟遊びの昼食』も、国外の美術館から貸出を受けて展示されていました。セーヌ川で舟遊びを楽しんだ人々が、午後のテラスでくつろいでいるという風景です。
実は、パリの西郊外には、この絵の舞台となった場所が存在しています。「メゾン・フルネーズ」という美術館&レストランです。

私が訪れたのは昨年のことでした。特別な観光地ではなく、大きな木とセーヌ川、そして小さな美術館とレストランがあるのみです。
しかしルノワールが感じたであろう木漏れ日とそよ風が、たしかに存在していました。「彼が描きたかった幸せ」が本当に同じ場所にあったのだと、当時の私は感銘を受けたものです。
現役時代はその画風をからかわれていたルノワール。没後100年経ってこれほど多くの人を惹きつける画家になるなんて、夢にも思わなかったでしょう。

天候を気にせず、充実したアート時間

この日は、オルセー美術館から出た時に差した光が少し特別に見えました。悪天候でもまったく気になりません。印象派の光が、ずっと脳内で心地よく再生されていたためです。
ルノワール展は2026年7月19日までの開催なので、この時期にパリに行かれる方は、ぜひ早めに予約されてくださいね!

フランス在住。美容部員、メイクアップアーティストを経て、2019年からライターに。香りやコスメが大好きで、現地パリから最新情報をお届けしています。趣味はヨガと水彩画とパリの美術館めぐり。美容のほか、アート・エシカル・ライフスタイルなど、日本とフランスをつなぐ読みものを発信。
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