
2025.07.16
熊本豪雨から5年。最強開運スポット国宝・青井神社と人吉温泉を巡る1泊2日旅
2020年7月、記録的な豪雨が熊本県人吉市を中心に襲い、街は壊滅的な被害を受けました。
あれから5年。創造的復興を遂げたこの地には再び旅人たちの足が戻りつつあります。

今回の旅の目的地は、創建1200年以上の歴史を誇り、日本最南端の国宝にして“最強開運スポット”と名高い「青井阿蘇神社」。国宝指定10周年を記念し、日本を代表する建築家・隈研吾氏の設計によって新たな魅力を纏った境内は、伝統と現代が見事に調和した唯一無二の空間です。

宿泊は、球磨川沿いに佇む老舗旅館「人吉温泉 鍋屋」へ。復興の一環で新たに誕生したリバービューのスイートルームで、雄大な自然と名湯に癒されながら、地元の恵みを凝縮したイノベーティブ・キュイジーヌを堪能。
心と体を浄化し、再生の力をもらえる1泊2日の開運旅へ出かけてみませんか?
▶︎ 1泊2日 モデルプラン

[Day 1]
10:00 鹿児島空港もしくは熊本空港出発(車で1時間半ほどかけて人吉へ)
13:00 人吉着/青井阿蘇神社 参拝&散策
14:00 「お菓子の香梅」カフェ立ち寄り&ショップでお土産選び
15:00 チェックイン/「人吉温泉 鍋屋」でスイートルーム滞在
17:00 大浴場・サウナ・ラウンジでリラックス
18:30 ディナー:「CRESCENT」でイノベーティブ・キュイジーヌを堪能
21:00 客室露天風呂で星空とともに
[Day 2]
08:00 朝食&朝風呂
10:00 チェックアウト/人吉城跡や温泉街を軽く散策
12:00 人吉発・帰路へ
日本最南端の国宝・青井阿蘇神社で心を整える“開運の祈り”

人吉の中心部に静かに佇む青井阿蘇神社。その歴史はなんと創建から1200年以上。茅葺き屋根が印象的な本殿や楼門、拝殿などが2008年に国宝に指定され、“日本最南端の国宝”としても知られています。2023年には国宝指定10周年を記念(*)して、神楽殿が隈研吾氏の設計により再建されました。自然素材を用いた繊細であたたかな木組みのデザインが、境内の静けさに溶け込んでいます。
(*)……2015年頃に隈氏に打診、設計の内容がほぼ決定した頃に豪雨の被害を受けたことで内容を見直したという経緯がある

2020年7月、熊本豪雨により人吉の町が壊滅的な被害を受ける中、この青井阿蘇神社は奇跡的に大きな損傷を免れました。
被災後も変わらぬ姿で佇むその姿は、地元の人々にとって「心の支え」「希望の象徴」となり、再び祈りの場所として人々が集うようになったといいます。

一歩足を踏み入れると、凛と澄んだ空気に包まれ、自然と背筋が伸びるような感覚に。取材当日にはちょうど七五三の前撮りをする家族連れや、和装でウエディングフォトに臨むカップルの姿を見かけました。この神社は地元の人々にとって人生の節目を共有する大切な場所なのだと確信した瞬間でした。


神聖な空気の中、ゆっくりと本殿へと歩を進めて参拝します。水神を祀る“(通称)青井さん”は、浄化や再生、そして新たなスタートにご利益があるといわれ、全国から参拝者が訪れる開運スポットでもあります。


隈研吾氏設計の神楽殿では、舞が奉納されることもあり、訪れるタイミングによっては幻想的なシーンに出会えることも。御朱印は品格ある墨書きで人気が高く、開運や家内安全、縁結びのお守りも多彩。人吉の地で、“願いを言葉にして祈る”ということの大切さを再認識できる場所かもしれません。
アートと和菓子の融合空間「お菓子の香梅 ドゥ・アート・スペース」

“青井さん”にて歴史と祈りに満ちた時間を過ごした後、人吉まで来たならぜひ訪れたいのが、熊本市内にある「お菓子の香梅」の直営店舗。
ここには、和菓子文化を軸に、アートと感性が共鳴する空間「ドゥ・アート・スペース」が併設されています。


店内はギャラリーのような静謐さで、壁には地元ゆかりのアーティストによる絵画や立体作品が展示され、和菓子の概念を越えた、“文化を味わう”体験が広がっています。
お菓子とアートが共鳴し合うこの空間は、どこか青井阿蘇神社の「伝統×創造」の精神ともリンクするようで、そっと対話が始まるような不思議な感覚に包まれます。


もちろんお目当ては看板商品であり熊本銘菓として名高い「誉の陣太鼓」。
北海道産小豆を丁寧に炊き上げた粒あんと、柔らかな求肥が絶妙にマッチした逸品で、熊本土産の定番として不動の人気を誇ります。他にも店舗限定の抹茶味の陣太鼓、季節の和菓子やモダンな創作菓子など、訪れるたびに新しい発見があるのも魅力。
熊本市内での乗り継ぎや空港に向かう途中にも立ち寄りやすいので、帰路につく前に“熊本らしさ”をお土産とともにもう一度噛みしめられます。
球磨川のせせらぎと歴史を肌で感じる「人吉温泉 鍋屋」

青井阿蘇神社から徒歩圏内にあり球磨川沿いに悠然と佇むのが、創業190余年を誇る老舗旅館・人吉温泉 鍋屋です。
江戸時代から続く人吉老舗の一つで、現在の富田家に伝わる先祖の話が「冨田家永代記」に綴られており、創業家一族が歩んできた足跡の一端を知ることができます。そこには明治10年、西郷隆盛軍の人吉通過を機に宿屋が始められたとも記されています。


「大空の山のきわよりはじまると 同じ幅の球磨の川かな」
これは歌人の与謝野寛・晶子夫妻が九州を旅する中で、当時の鍋屋本館に滞在して詠んだ和歌。それを歌碑として建立されました。



長きにわたり人吉の町とともに歩んできたこの宿も、2020年の熊本豪雨で一時は営業休止を余儀なくされましたが、その後この町の“創造的復興”の象徴として新館を新設。 今、再び多くの旅人を迎え入れています。
悠久の時間が息づく町。人吉と雛人形のやさしい物語

館内の廊下で目を引いたのが、季節を感じさせる雛人形の飾り。
格式あるしつらえの中にも、どこか家庭的なぬくもりが感じられるこの風景に、人吉という土地が持つやわらかさが映し出されているようでした。


実は人吉球磨地域では、江戸時代から続く「人吉球磨のひなまつり文化」が今も色濃く残っています。
相良藩の城下町として栄え、婚礼の際に雛人形を持参する風習があり、各家に代々伝わる雛飾りが大切に守られてきました。
その伝統を受け継ぎ、毎年2月から3月にかけては町中で「人吉球磨はひなまつり」という催しも開かれ、歴史ある商家や宿、町の至る所で雛人形が飾られる華やかな季節行事となっています。


館内の装飾にその名残を見ることができ、旅の合間にふと立ち止まって眺めると、この町が守ってきた暮らしの美意識と“ひとの想い”がふわりと心に伝わってきます。
暮らすように滞在する、リバービュースイートで特別な一夜を







今回滞在したのは、新館の方にある球磨川を望む「リバービュースイート」。
客室に入ると、まず目に飛び込んでくるのは大きな窓の向こうに広がる清流の眺め。まるで川の上に浮遊するような感覚になるほど。



新館客室のスイートルーム、セミスイートルームは全室に温泉風呂が設置されています。
広々としたバルコニーに源泉掛け流し露天風呂が備えられ、湯船に身を沈めながら、朝靄や夕暮れに染まる球磨川の景色を独り占め。湯のやわらかさと風の音が心と身体をゆっくりと解きほぐしてくれます。周囲を気にすることなく、好きな時間に好きなだけ、人吉温泉の湯と景観を心置きなく楽しむことができます。




リバービューの露天風呂に加えて内風呂も。ドライヤー、アメニティ、バスローブは上質で、心地よい滞在を演出しています。





球磨川を望む広々とした間取りに、簡易的なキッチンやカウンター、こあがりの和室が備えられているのも魅力。冷蔵庫のアルコールやソフトドリンクは全てコンプリメンタリーというのも嬉しいポイント。小腹がすいたときに軽く調理したり、景色を見ながらお茶を淹れたり。湯上がりの夕暮れ時、ドリンク片手に景色とともに寛ぐ贅沢な時間。




畳敷きの和室スペースは、お風呂上がりにごろんと横になったり、旅の荷ほどきをゆったり楽しんだりと、まるで誰かの家に招かれたような、肩肘張らないぬくもりを感じさせてくれました。旅先でも“暮らすように過ごしたい”という想いを叶えてくれる、機能性とくつろぎを兼ね備えた絶好の空間。
球磨川を望む大浴場とサウナで、ととのう旅時間を


スイートルームの専用露天風呂も贅沢ですが、人吉温泉 鍋屋の魅力は館内の大浴場にも。
開放感あふれる大浴場からは、球磨川の流れを間近に感じられ、朝も夜も表情の異なる水辺の景色に癒されます。


泉質は弱アルカリ炭酸水素塩泉。お年寄りから子供も安心して入浴できる優しい湯で神経痛、筋肉痛、関節痛に効くともされています。
熊本県に根付く「家族風呂」の風習を生かして、貸切利用できる風呂も備えています。


注目は2023年に新設されたサウナエリア。
清潔感のある内装に加え、程よい温度と湿度で初心者からサウナーまで心地よく利用できるセッティング。


外気浴スペースでは、川風を浴びながら“ととのう”体験が可能に。耳を澄ませば、球磨川のせせらぎと風に揺れる木々の音が静かに交差し、日常では得られないような深いリラックスを感じられるでしょう。


湯上がりには、ロビーフロアのラウンジで冷たいお茶や地酒、スナックを楽しむのも一興。
温泉、サウナ、景色の三拍子が揃う「鍋屋」の滞在は、ただ癒されるだけでなく、自分をリセットし整える“整養”の時間とも言えそうです。
地元の恵みを再構築。五感に響くイノベーティブ・キュイジーヌ

旅の夜は館内レストラン「CRESCENT – 希望 –」で供されるイノベーティブ・キュイジーヌを堪能。地元・球磨地方の山の幸や川魚を現代的な感性で再構築したコースは、まさに温泉旅館の枠を超えた食体験。
イノベーティブ・キュイジーヌを彩るのは、料理長・富山康二シェフ。31年にわたってレストランやホテルで腕を磨き、さらに在日ウラジオストク公邸の料理人としても活躍した経歴の持ち主。
歴史ある宿の新たな挑戦を象徴するレストランの名前には、「三日月が満ちゆくように」という再生と明日への希望の思いが込められているとか。富山シェフの料理にも、伝統を受け継ぎつつ、新しい価値を創造したいという精神が反映されています。


上品な器に美しく盛り付けられた一皿一皿は、地元食材の魅力を余すことなく引き出しながら、驚きや発見をもたらしてくれます。


アミューズの「鴨ロースと晩白柚・オレンジのタルト」から始まり、柑橘の爽やかな香りが鼻を抜ける「山女魚のエスカベッシュ」へ。ほどよい酸味が口の中をリセットし、次なる一皿への期待感が高まります。続く「ポルチーニのラビオリー」は、茸の旨味が凝縮されたスープに浮かぶ贅沢な一品。芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、温もりある味わいが心までじんわり染み渡ります。


「山芋饅頭 蟹餡がけ」は、土地の恵みを生かしつつ、テクスチャーやソースの組み合わせが実に巧み。


「奥日向サーモンのミキュイと天草の車エビ」では、春菊のグリーンソースと甲殻類の濃厚なアメリケーヌソースが奏でるハーモニーは、海と山のエネルギーを一皿で表現したかのよう。


メインの肉料理は富山シェフのスペシャリテとも言える「熊本産和牛ロース 53.1℃の火入れ」。
53.1℃で火入れされる和牛ロース絶妙な温度管理により、肉の旨みとしなやかな食感が両立。付け合わせの焼き芋のピューレやビーツのソース、醤油ベースのジュが、肉の魅力を引き立てながらも、どこか郷愁を誘う味に仕上げられています。熊本の素材を温度・時間・調理法で最大限に引き出す彼の技術が光る逸品。
〆の料理は日替わりでおすすめの食材を使用したご飯ものが登場。この日は鯛の旨味をふんだんに引き出した「鯛茶漬け」。シンプルながらも料理人の繊細な感性がにじむ締めくくりに。


デザートは「フォンダンショコラとチョコレートケーキ」に加え、「塩キャラメルのマカロン」とコーヒーで余韻を楽しみます。
伝統的な和の技法とフレンチのエスプリが融合した料理の数々は、球磨川の自然を感じたあとの感性に、やさしく響きます。地域への敬意と食文化の再解釈が随所に見られるコースでした。
熊本の“いま”と“祈り”に触れる、1泊2日の再生トリップへ

歴史と自然、祈りと創造。
2020年の熊本豪雨から5年を経た今、人吉の町は着実に前へと進んでいます。
神社や温泉宿、美しい食や文化を通して感じたのは、この地が決して“復旧”だけを目指してきたのではなく、未来を見据えた“創造的復興”の歩みを続けてきたということ。

旅を終えて思うのは、そんな場所に身を置くことで、被害に遭われた人々への追悼の気持ちにとどまらず、どこか自分自身の中にも“整う”感覚が生まれるということ。


何より忘れてはならないのが、女将さんによる心温まるおもてなし。
老舗ならではの落ち着いた接客に加え、「また来たい」と思わせてくれる人のぬくもりこそが、旅の記憶をより豊かなものにしてくれました。

ただ観光地を巡るのではなく、「いま、この地でしか出会えないもの」を体感できる場所として、人吉はきっと印象に残るはずです。
祈りに触れ、心を整え、再び前進するための1泊2日。
そんな旅に出かけてみてはいかがでしょうか?

17歳から読者モデルとして「Vivi」「JJ」「non-no」など多数女性誌に出演。6年にわたってMBSラジオパーソナリティを務める。大学卒業後、化粧品会社勤務を経て、フリーランスに転身し、ヨガインストラクターを務める傍ら、トラベルライターとして世界中を飛び回る。過去渡航した国は47カ国。特にタイに精通し、渡航回数は30回以上。ハワイ留学、LA在住経験有り。現在は拠点を湘南に移し、全国各地を巡りながら、東京と行き来してデュアルライフを送る。JSAワインエキスパート呼称資格取得。
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