2024.12.09
ロンドンで、劇場は社交場のひとつ。在英ライターの観劇日記
ロンドン在住のライター・ウエストウッド知佳さんによる新連載「My cup of tea」。イギリス英語の表現にある”Not my cup of tea” は「好みではない、好きではない」、”My cup of tea” はその逆に「好みである、好きだ」という意味になります。
この連載では、知佳さんの「My cup of tea=イギリスでの生活や少し足を伸ばして訪れたヨーロッパ旅行」でのエピソードなどをご紹介いただきます。
第二回は、この3ヶ月で7回も観に行った、という観劇についてのエピソードを書いていただきました。
ミュージカルや劇のようなエンターテインメントといえば、NYのブロードウェイがよく知られているのではないかと思います。
しかし、ロンドンの商業の中心部・ウエストエンドと呼ばれるエリアには、1663年にオープンした劇場「ロイヤル・デュレイ・レーン」から始まり、約40もの劇場が集まっています。さすがはイギリスといった歴史の長さ。
しかも、実は入場者数もブロードウェイよりはるかに多<、2022年にはなんと16億4千万人がウエストエンドの劇場を訪れているのです。
私はというと、息子が生まれて以来、たまに行く子ども向けの劇やバレエ鑑賞を除いては、大人の劇場から足が遠のいてしまっていたのですが、この夏、息子とその友達を連れて行った「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のミュージカルを観て、久しぶりに生の演劇の素晴らしさに感動し、この3ヶ月で7回も劇場に足を運ぶことになりました。
そのうち二つは日本のプロダクションで、イギリスでも大人気、スタジオジブリの「千と千尋の神隠し」、それに野田秀樹さんの「正三角形」です。
また、谷崎潤一郎の「刺青」を案に作られた日本人キャストで全編英語の「Tatooer」も観ました。小劇場だったのですが、インターバル中に墨と筆で演者さんのひとりに絵を描くライブパフォーマンスもあり、あの日本独特の変態的エロティシズム文化をイギリス人の観客もしっかり楽しんでいたようでした。
夫も私も去年の冬からとても楽しみにしていたのは、スタンリー・キューブリック作品の「Dr.Strange Love」。イギリスを代表するコメディアンで俳優のスティーヴ・クーガンが主演で、なんと劇中4役をこなすのです。あのイギリスのシニカルなジョークを耳にした観客が劇中に何度も笑っていて、最後は文句なしのスタンディングオベーション。
でも、よく在英日本人の友達とも話題するのですが、イギリスのジョークって高度すぎるんです(苦笑)。観客の中でも私だけ笑えない~という状況が多々あったことは否めません。
例えば「俺の名前はGuanoだ!」で一同大場笑。何が面白いの?? と思って夫に聞くと、guanoって単語は“海鳥の糞”って意味なんだと。私の語彙力不足でもありますが、海鳥の糞って言葉を一言で表す単語が日本語に存在しますか?
また、Netfixで大人気「エミリー、パリへ行く」シリーズのリリー・コリンズ主演「バルセロナ」という劇も観ました。
主演の2人による幕間なし、1時間半たった2人だけの圧巻の掛け合い! 一夜だけの口マンスから始まり、台詞にステレオタイプも盛り込んだポリティカルな部分あり、わかりやすい笑いもたくさんあり。ただの言葉の掛け合いではなく、2人の演技とその内容に惹き込まれ、観ているこちらの気持ちも高まったり悲しくなったり、すっかり心が動かされました。
ロンドンで劇場は社交場のひとつ。観劇前や幕間で劇場内に併設されているバーに行き、飲んで意見を交換したりします。観終えて劇場の外に行くと、ステージドアという俳優さんたちが出入るするドアの周りには、サインや写真を待つ人たちが溢れ返っていることも。
歴史ある劇場の建築美を楽しみ、生きている文化に触れ合えるウエストエンドでの観劇、星5つでオススメします!
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