「やらない」という選択肢はない。岸谷五朗&寺脇康文が抱く「AAA」への想い

「やらない」という選択肢はない。岸谷五朗&寺脇康文が抱く「AAA」への想い

エイズ啓発を目的としたチャリティコンサートとして誕生した「Act Against AIDS『THE VARIETY』」。岸谷五朗さんの呼びかけに、寺脇康文さんが賛同する形で1993年にスタートしました。

2020年からは、貧困、難病、教育問題など多くの困難に立ち向かう子供たちの支援を目的とし、「Act Against Anything」という名称に変え、今年は12月1日(日)に日本武道館にて開催されます。

今年で3回目となる豪華な出演者によるエンターテインメントショー。4年ぶりに「AAA」の聖地、日本武道館で開催される思いと、演劇ユニット「地球ゴージャス」の結成30周年について岸谷さんと寺脇さんにじっくりお話しを伺いました。

「やってもやっても追いつかない、だけどやるしかない」という想いを胸に

──2020年よりスタートした「Act Against Anything」は前身の「Act Against AIDS」から数えると31年目とのことですが、はじめるに至った経緯、その時の思いを聞かせてください。

岸谷五朗(以下、岸谷):きっかけは私がMCを務めていたラジオ番組にHIVポジティブの女の子から手紙が届いたことです。当時は手をつないだり、話をしたりするだけでHIVに感染するという誤った情報が飛び交っていました。14歳の少女の手紙には「差別が怖い」と書かれてあり、かなり衝撃を受けたことを鮮明に覚えています。差別が起こることで人との友情を壊してしまうのであれば、逆に友情でこの病気に立ち向かおうと思い、友人たちに声をかけて「Act Against AIDS」が誕生しました。そこからその想いを引き継ぐ形で、チャリティプロジェクト「Act Against Anything」がスタートしました。

寺脇康文(以下、寺脇):もう31年になるのか…こうして数字を聞くと感慨深いものがありますね。僕も五朗ちゃんから聞いてその想いに賛同しました。当時はコントユニットSET隊(せったい)としても活動していましたが、第1回の会場は代々木体育館でしたね。大きなホールのステージに立つことが初めてだったので緊張したことを覚えています。参加してくれることになった方々も著名な方ばかりで、この大きなイベントをまとめている五朗ちゃんはすごいと思いました。

岸谷:そんなことないよ(笑)。

寺脇:はじめは僕のできることは五朗ちゃんをフォローすることだと思っていましたが、こうして31年間一緒に走ることができてうれしいですね。

──長きにわたってチャリティに従事されているわけですが、世界の子どもたちを取り巻く環境は悪化していると言わざるを得ないかと思います。そんな状況の中でも活動を通し、希望に思うことはどんなことでしょうか?

岸谷:世界のどこかで戦争が勃発すると、メディアは大々的に取り上げますが、その数は日を追うごとに少なくなっていく…。しかし悲惨な状況の子どもたちの数は一向に減らないのが現状です。31年間、啓蒙・啓発活動を続けてきましたが、だからといって世界が平和になったかというと、逆にあの頃よりも悪くなっている印象さえあります。「やってもやっても追いつかない」というのが正直な気持ちです。それでも「僕たちでできることはやろう」という想いから、今年も日本武道館で開催します。大勢のアーティストの想いが一人でも多くのお客さんに届き、世界中のあらゆる問題に対して意識を強く持ってくれることが希望です。

──ここ数年は戦争によって犠牲になる子どもたちも増えています。とはいえ、日本にとっては対岸の火事という意識だったり、長引く不況でそれどころではないと感じていたり…。そういった人たちに対して、エンターテインメントができるアプローチはどんなことだと考えていますか?

寺脇:世界中の悲惨な状況をテレビで目にするたびに「なんとかならないものか…」という感情が生まれます。でも実際は自分も含め、全てを変えることはできません。解決の糸口が見つからない現状に、非常に虚しさを感じています。一方で明るいニュースに場面が変わると、気持ちも切り替わってしまうことにもまた虚しさを感じます。

今回もチャリティコンサートという形で寄付を募りますが、困っている子どもたち全員に届くわけではないことにもまた、虚しさを感じるんですよね。「虚しさ」ばかりなんです。それでも「やらない」という選択肢はないんです。ステージの上から僕たちのできることを、僕たちの方法でやっていくしかないんです。

岸谷:まさにその通りです。僕たちはエンターテイメントに携わる者として一年に一回、苦しんでいる人や子どもたちの笑顔が増えるために何かをしたいという思いが根本にあります。「AAA」という活動を続けていくことで戦争が終われば素晴らしいですが、そんなことはありません。悪くなる一方の世界情勢に自分たちの無力さを感じますが、小さな力が集まればひっくり返ることもあるかもしれない、変えられることができるかもしれない、という希望を持ってコンサートを成功させなければいけないなと思っています。

──今年は新年早々、能登で大きな地震がありました。国内でも苦しい思いをされている方が大勢いる現状にどんな気持ちを抱いていますか?

岸谷:「Act Against Anything」は寄付先をその年ごとに決めているのですが、寄付をするということにプラスして僕たちの想いも届けたいと考えています。今回は配信も考えているので、我々の想いが武道館から能登で被災された方々にも届き、励みになるといいなと思っています。

自分の気持ちを救ってくれるのは「空との対話」(岸谷)

──武道館という大きな会場でチャリティコンサートを行うこと、さまざまなジャンルで活躍されている方の力を総動員することは大変かと思います。

岸谷:今回、初めて参加してくれるメンバーもたくさんいますが、異業種の方とみんなで一つの目標に向かっていくことは大変なんです。行き詰まることもしょっちゅう。でも、そんな時は空を見上げて、果てしなく続く空を見ていると「今も世界のどこかで苦しんでいる子どもがいるんだ」という想いに立ち返ることができるんです。すると今、自分が苦しいと思っていることはなんでもないなと思えます。そうやって空と対話しながら自分を鼓舞しています。

──観客席から見ると、問題なくスムーズにできあがったステージのように思えてしまいます。

岸谷:そうでしょ? でも、とんでもないんですよ(笑)。僕たちも大変ですが、スタッフはもっと大変で、一つずつ問題をクリアにしながら当日を迎えているんです。

チャリティをやらなくてもいい世界になることが一番(寺脇)

──チャリティ活動をしたいけれど、どうしたらいいかわからないという人たちにとっては、応援しているアーティストの方々が賛同されているプロジェクトへの寄付は、信頼できるうえに参加するハードルも下がるかと思います。

岸谷:今回のイベントの前身である「Act Against AIDS」では、エイズの啓蒙イベントだとは知らずに来てくれたお客さんもいました。自分の好きなアーティストの応援で来たコンサートだけど、楽しんだうえにエイズの現状も目の当たりにし、大きな課題と知識を抱えて帰って行かれました。

最初からエイズの勉強会や、シンポジウムだと大々的に告知してもここまで人は集まってくれません。でも、コンサートであれば楽な気持ちで参加してくれると思うんです。コンサートの目的は後で知るという形でもいいと思っています。武道館という大きな箱で大勢の人と一緒に楽しむ、だけど世界で起こっている現状もしっかりお客さんに伝える、僕たちのやり方でこれからも一人でも多くの人と気持ちを共にしたいです。

──配信も導入されるということで、ますます多くの方に存在を知ってもらうことができますね。

岸谷:コロナ禍は本当に辛かったですが、唯一「配信」というシステムが導入されたことはエンタメ界にとっては大きな存在になりました。また、チャリティにとっても躍進だと思います。

寺脇:「AAA」の内容を年々濃いものにしていくことも必要ですが、一番大事なことはチャリティイベントをやらなくてもいいような世界になることが一番だと思うんです。とはいえ、世界から困っている人がいなくなることはないと思うので、できる範囲で続けることは大事ですよね。

──ステージからお客さんの表情はよく見えるものですか?

寺脇:それはもうよく見えますよ。やっぱり笑顔を見せてくれるとうれしいです。お客さんも普通のイベントとは違って自分もチャリティに参加しているんだ!という意識もあると思います。「日本武道館」という場所柄なのか、武道の精神が一体化してくれているようにも思います。そして、「また来年も行きたい」という気持ちを持って帰ってくれたら最高ですよね。

「AAA」でないと実現しないような共演も…?

──今回の出演者はこれまで以上にバラエティに富んだ方々がそろっているように感じます。

岸谷:「どんなステージになるんだろう?」と、そんな想像をたくさんしながら武道館に来てもらいたいですね。今回も声をかけた方は忙しい方ばかりですが、「ぜひ参加したいです!」と二つ返事で引き受けてくれました。今の段階ですでに心は一つになっています。これまで見ることがないコラボレーションも「AAA」では見られると思うので、楽しみにしていてください。

──今回のコンサートで特に楽しみなアーティストの方はいらっしゃいますか?

岸谷:ロバートの秋山君からこっそり「やりたいネタがあるんです」と聞いたので何をしてくれるのか期待しているんです。もしかしたら寺ちゃんと2人で梅宮辰夫さんのネタをやるのかもしれないな…とか(笑)。

寺脇:じゃあ、今から体格をそろえるためにも増量しなきゃいけないな(笑)。2017年に古坂大魔王さんと僕たち、そして(三浦)春馬と4人で「ピコ4兄弟」をやった時は盛り上がったよね。ふなっしーも出演してくれたなぁ…。

──「AAA」でないと実現しないような共演ですね。お客さんにとっては本当にうれしいと思います。

寺脇:実現が難しい共演も「AAA」なら可能ということもあるので本当に楽しみにしてほしいですね。

──活動を続ければ続けるほど、どんどんパワーアップしていくような印象です。今後「AAA」を通してやってみたいことや目標はありますか?

岸谷:一番の目的は世界平和に向けてお客さん一人ひとりが興味を持って、祈ってくれることだと思います。このコンサートが面白ければ面白いほど、エネルギーがあればあるほど大きなチャリティに結びついていくと思うので、僕たちはコンサートのテーマを胸に刻んで「続けていくこと」が目標です。

コロナ禍に「当たり前がこんなに幸せだったんだ」ということを再確認

──1994年に旗揚げした演劇ユニット「地球ゴージャス」は今年で30周年の節目を迎えられました。

寺脇:コロナで中止になったこともありましたが、平均すると2年に1回は公演していたことになりますね。「地球ゴージャス」も「AAA」と同じで、一回一回を大事に、やりたい芝居を大切にやってきたという感覚です。そしてまだまだ続けたいという幸せな想いでいっぱいです。

──続けていくことは並大抵のことではないと思いますが、お2人にとって活動の源泉とは?

寺脇:よく木で例えるんですが、芽が出て、葉が生えて、幹も太くなって、そして花が咲いたり実もつけたりしますが、千穐楽を迎えればその木はなくなってしまいます。でもその木が生えていた場所の土は栄養を蓄えています。そしてまたそこで木を育てて、土に戻す…舞台もこの繰り返しのように思っています。

一つひとつ積み重ねてきたというよりも、「0」から「100」を繰り返してきているというイメージなんです。だから僕にとって活動の源泉は「またやりたい」という気持ちですね。

岸谷:コロナの時に「なんのために演劇を続けていくのか?」と一瞬見失うこともありました。一緒にやっている仲間たちが一人、また一人とバイトを掛け持ちしていく姿を目の当たりにして、この先どうなっていくのか…と不安でした。だから舞台『儚き光のラプソディ』で久しぶりに満席の会場でお客さんの顔を見たときは自分たちの存在価値を再確認することができて嬉しかったです。

寺脇:コロナ禍は苦しかったけれど「当たり前がこんなに幸せだったんだ」と確認できたことはいいことだったように思います。

舞台に対しての思いを再確認できた2024年

──今年もお2人とも、ドラマや映画、舞台と多岐に渡ってご活躍されています。少々気が早いですが、2024年を振り返ってみてどんな年でしたか?

寺脇:今年は「地球ゴージャス」の公演をやりきったことと、ドラマ「相棒」の出演という大きなことが実現した1年でしたね。そしてこれから「AAA」もあるので、2024年はこのまま駆け抜けたいですね。

岸谷:メイクしてスタンバイしたものの、毎日「中止」になるという時期を味わった身としては、今年「地球ゴージャス」で初日から千秋楽まで満席のお客さんの顔を見られたことは感無量でした。お客さんの「私たちも待っていたよ」という表情が忘れられません。「ああ、また舞台ができるんだ」と舞台に対しての思いを再確認できた年でした。

──ドラマや舞台などの期間は体調管理がとても重要になるかと思います。なにか気をつけていることがあれば教えてください。

岸谷:僕たち共通してやっていることがあるんです。まず朝起きて半身浴をします。そこから体力やスタミナをつけるためにランニングやストレッチなどのロードワークもします。

僕の場合は時間ができるとサーフィンにも行きます。これは完全に趣味ですが、自然の中に身を置くことも身心の健康に繋がっていますね。

寺脇:僕は半身浴、ストレッチからポールを使って体をほぐしたりもします。これをやっているからビールを飲んでも後ろめたさを感じないです(笑)。

──ストレスを溜めない、自分の心のケアも大事ですよね。

寺脇:お酒を飲むことを我慢しないために体を動かす、そして僕の場合は無駄なものは溜めないということも大きいかな。

この間、五朗ちゃんとどうやって物を捨てるか? と断捨離の話になったんです。僕の場合は自分が気に入っているブランドやデザインでも、気になるところがあればすぐに手放します。物に対しては「これは自分にとって必要なものか?」と、自問自答の繰り返し。だから部屋も非常にシンプルです。

岸谷:僕は真逆。寺ちゃんと34年前に一緒に買った色違いのアロハシャツ、まだ着てるもん(笑)。俺は捨てないでとっておくんだよね。

寺脇:そうなんだよ、そこの感覚は五朗ちゃんと真逆だよね。

岸谷:この間も同じ時期に同じ靴をいただいたんですが、俺のは今も新品同様なんだけど、寺ちゃんのはもうボロボロ。

寺脇:ピッカピカの五朗ちゃんの靴を見てびっくりしたよ。「なんでそんなにきれいなの?」って(笑)。僕は気に入ると毎日同じ靴を履きたくなるタイプ。でも五朗ちゃんは毎日違う靴を履くタイプなんだよね。

岸谷:長年一緒にいるけれどやっとわかったわ。そうか、俺たちってそこの感覚が真逆だったんだね(笑)。

Profile
岸谷五朗
1964年生まれ。1993年、映画「月はどっちに出ている」(崔洋一監督)で数々の映画賞を受賞。以降、映画・ドラマ・CMに多数出演。1994年、寺脇康文とともに演劇企画ユニット「地球ゴージャス」を結成。舞台「SONG WRITERS」、「ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~」、「キンキーブーツ」(日本版演出協力・上演台本)などで演出も手掛けている。また、多くの作品で脚本も担当。NHK 2024年大河ドラマ「光る君へ」に出演中。

寺脇康文
1962年生まれ。1984年に三宅裕司主宰の劇団「スーパー・エキセントリック・シアター」(SET)へ入団。1994年、岸谷五朗と共にSETを退団し、演劇ユニット「地球ゴージャス」を結成。1996年4月の放送開始からTBS「王様のブランチ」の総合司会を10年間務める。2008年第16回橋田賞俳優部門受賞。2009年には第32回日本アカデミー賞優秀助演男優賞。現在はテレビ朝日系「相棒 season23」に出演中。

■Act Against Anything VOL.3「THE VARIETY 29」
2024年12月1日(日)
16:30開場/17:30開演
会場     日本武道館
出演     岸谷五朗 寺脇康文
葵わかな / 秋山竜次(ロバート)/ 猪塚健太 / .ENDRECHERI.(堂本剛)/ 大黒摩季 / 大村俊介(SHUN) / 甲斐翔真 / 小関裕太 / サンプラザ中野くん・パッパラー河合 / 城田優 / 杉山真梨佳 / 武田真治 / 中川晃教 / 中村雅俊 / 中村百花 / 新原泰佑 / 藤林美沙 / 三吉彩花 / 屋良朝幸 and more…
公式HP:https://actagainstanything.com/

※岸谷五朗、寺脇康文以降の出演者クレジットは五十音順

撮影/渡会春加
取材・文/安田ナナ

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