【俳優・水原希子】興味のあることだけにエネルギーを注ごう
死が近づいている男性と、その臨床心理士、そして治療のために提供される自分とまったく同じ見た目をした「それ」との物語を描く映画『徒花-ADABANA-』が10月18日(金)に公開となります。
裕福な家庭で育ち、妻との間に一人娘も生まれ、理想的な人生を歩んでいるように見える新次(井浦新)。しかし、実は死の危険も伴う病気を抱えていました。そんな彼の心理状態をケアするのが臨床心理士のまほろ(水原希子)。
毎日眠れず、不安にさいなまれている新次は、まほろのアドバイスから過去の記憶をたどり始めますが、それがさらに不安を強くすることに。そんな彼がまほろに望んだのはもうひとりの自分「それ」と会うことでした。
生と死と、作られたもうひとりの自分。そんな中で揺れ動く新次を支えるまほろをどのように演じたのか。そして、ご自身がいま思いを傾けることについて、水原希子さんにお話を聞きました。
作品の要のひとつとなる「それ」への印象
――やはり、作中では「それ」の存在がとても大きなものとなっています。水原さんは「それ」をどのように捉えながら演じられましたか。
まほろにとってのすごく複雑なものだと思います。「それ」は、コントロールされている中で生きているがゆえに不気味なんですけど、とても純粋で、ある意味、幸せそうに生きている。そういう部分もどんなふうに感じたらいいんだろう、と思いましたね。「それ」のほうが幸せなんてどういうこと? みたいな。でも、それこそ核心をついているような感じがするというか。
まほろは、自分の存在自体にも漠然とした不安や苦しさを感じていました。そういった感情を抑え込んで生きているようなタイプの女性だったんですけど、新次さんが「それ」と出会い、対話をしていくなかで変わっていく姿を見て、まほろも大きく価値観が変わっていくんですよね。真実を知りたくなるというか。
――「それ」と出会った新次さんが変わっていくことで、まほろにも変革をもたらしていくわけですよね。
ずっと自分に心を開いてくれなかった新次さんが「それ」に出会って、別人のように、どんどん元気になっていく。彼はずっと抑圧されていて、社会のレールに沿って生きてきたけど、「本当だったら『それ』のような人になれたのかもしれない」という、自分とは違う、「自分の人生」を見ているような気分になったと思うんですよね。そこに救われていくと言うか。そんな新次さんを見て、やっぱりまほろにも感じるものがあったんだと思います。
役と一緒に悶々としたものを抱えながら
――新次の変化は確かにすさまじいものでした。水原さんは、新次を演じる井浦新さんを間近で見ていらして、いかがでしたか。
井浦さんは本当に大変だったと思います。新次さんとクローンが最初に対面するシーンって、交互に撮影していたんですよね。「それ」を撮り終わってから次は新次、というわけではなくて、メイクチェンジもそのたびにやっていました。私も観ていて大変そうだな、と。井浦さんも混乱してきたって言ってましたし。
――水原さんご自身もまほろの変化はどのように作っていかれたんでしょう?
すごく難しくて、私も探り探りの部分は正直ありました。私はわりと受けるお芝居が多かったんですよね。臨床心理士なので、新次さんが言ったことを受けて、自分から何か言ったり、行動を起こすシーンもあまりありません。そういう意味では、手ごたえを感じられるわけではなくて、悶々としたものを抱えてやっていましたね。
――特に難しかったシーンはありますか。
カウンセリングのシーンが特に難しかったですね。新次さんとの関係性も難しいし、彼もお医者さんだから、まほろのやることも全部把握しています。まほろが何かしようとしても「これをすればいいんでしょ」と言われてしまうから、何もできないんですよね。立場的にも、新次さんは病院にとって大切な存在だから邪険にも扱えませんし。
何が正しいのか分からない中で、私も私で「これ大丈夫?」「こういうことでいいのかな?」という葛藤もありました。まほろ的にも「なかなか難しいぞ」という状況がたぶんあったと思うので、その気持ちが一緒になってモヤモヤしていましたね。
女性ホルモンは私たちのエネルギーの源でもあるから
――水原さんの活動についてもお話を聞かせてください。女優、モデルだけではなく、最近は「iroha(イロハ)」のアンバサダーや、コスメブランド「kiiks(キークス)」も立ち上げていらっしゃいます。
確かに本当にいろいろとやっていますね(笑)。
「iroha」に関しては、オファーをいただいた時、シンプルに嬉しかったんですよね。番組でTENGA社長の松本(光一)さんに取材させていただいてからの縁だったんですけど、すごくリスペクトをしていますね。
――水原さんがアンバサダーを務められたことで「iroha」を知った方もいるかと思います。
いろんな方にフェムケアやセルフプレジャーグッズのアンバサダーって怖くなかったんですか? って聞かれるんですけど、「iroha」の商品自体、10年前に登場した時点で女の子向けに作られているのが伝わってくるような商品だと思ったんです。男性が女性のために、というよりは、女性が女性のために使うものだということが商品のデザインからも分かります。そういうものは称賛していくべきだと思いますし、セルフプレジャーって実は健康という側面でもすごく大事ですし。
――まだまだ理解されていない、知られていないことが多いのかもしれませんね。
うちは、母が膣脱症になったことがきっかけで、「ママ、ちょっと恥ずかしいんだけど、今膣トレしてるの」って言われて。母とそういう話をしたことがなかったからすごくびっくりしました。50代、60代でなる人も多いらしいんですけど、もっともっとオープンに話せたら若い時から膣トレをすることもできるんですよね。膣に触れることに対しても、健康という意味ですごく大切ですし、女性ホルモンを活性化させるということも大切です。私たちのエネルギーの源じゃないですか。大事なことなのに、勘違いされることが多いな、と思っていたので、アンバサダーをやろう、と思いました。
やっぱり、笑顔が大事
――2月にはコスメブランド「kiiks」がローンチしました。
「kiiks」に関しては、植物や自然の素晴らしさを伝えたいという思いがあって。ほかにも、耕作放棄地のいろんな問題を抱えていたり、伝統工芸の後継者がいなくなったりと、難しい状況もたくさんあります。
それはやりながら、いろんな人に教えてもらったことなんですけど、何かひとつでもポジティブな方向に持っていけるなら、という思いと、単純にケミカルフリーのプロダクトを自分で作って自分で使いたいっていうのがありました。
――ご自身の経験や思いがそのまま直結しているんですね。
コロナ禍で時間って限られているんだな、ということを意識したんです。そうなった時に仕事もプライベートも自分が好きなことをしよう、と思って。なので、仕事も苦しいな、と思うことはやらないようにしています。空いた時間は例えば海に行くとか、自分の好きなことをやる。そうするとまた次のインスピレーションに繋がって、それがまた新たなプロジェクトになっていくんですよね。そういう感じでなるべく好きなこと、興味のあることだけにエネルギーを注ごう、って切り替えました。
――最後に、そんな水原さんが思うステキな人はどんな人ですか?
うーん……。キラキラしていて、笑顔が美しくて、「ありがとう」と「ごめんなさい」が言える人ですね。
――やっぱり、それが基本なんですね。
そうですね。
この間、インドネシアのスンバ島というところに行ったんですけど、本当に未開拓の地なんですね。昔ながらの民族衣装のような姿で生活していらっしゃって、みんな言葉を喋らないんですけど、本当に笑顔がすっごく素敵な人もいて、もうそれだけでいいというか。言葉が通じなくても、笑顔で確認し合う、みたいな。それが私にとっては一番大切だな、と思いました。
Profile
水原希子
1990年、アメリカ合衆国生まれ。2003年にモデルとしてデビュー以降、モデル、女優、デザイナーとして幅広く活動。主な出演作に映画『ノルウェイの森』(2010年)『ヘルタースケルター』(2012年)『あのこは貴族』(2021年)など。2024年3月にはライフスタイル・ビューティーブランド「kiiks」をローンチした。
■『徒花-ADABANA-』作品情報
2024年10月18日(金)テアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
出演:井浦 新 水原希子
三浦透子 甲田益也子 板谷由夏 原日出子
斉藤由貴 永瀬正敏
脚本・監督:甲斐さやか
©2024「徒花-ADABANA-」製作委員会 / DISSIDENZ
ヘアメイク/池田奈穂
撮影/芝山健太
取材・文/ふくだりょうこ
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