【俳優・柿澤勇人】自分の小さなテリトリーの中でいくら頑張っても突き抜けられない
2024年、舞台「オデッサ」「ハムレット」に主演したほか、第49回菊田一夫演劇賞も受賞した柿澤勇人さん。舞台だけではなく、映画・ドラマでも活躍し、10月からは『全領域異常解決室』(フジテレビ)、『ライオンの隠れ家』(TBS)に出演予定です。
そんな柿澤さんがキャリア初となる写真集『untitled』を発売します。
「写真を撮られることに未だに慣れない」という柿澤さんですが、写真集には2023年の夏から2024年上半期にかけて、舞台に全力投球した姿が詰まっています。
舞台のこと、写真集のこと、柿澤さんにたっぷりとお話を伺いました。
自分の写真を見るのは恥ずかしい
――初めての写真集、オファーが来たという形だったとお聞きしたんですが、出版が決まった時のお気持ちはいかがでしたか?
最初は断りました(笑)。僕の写真集なんて誰が買うんだろ、って(笑)。
どうしても僕の性格上、カッコつけるのがすごく恥ずかしいんです。写真も未だに撮られ慣れません。役を演じる時は枠があるから、その中でいろいろと組み立てたり、考えたり想像したりするのは楽しいんですけどね。
でも今回は約1年間、出演している舞台3本を追いながら稽古場やオフの時、本番前や本番後を撮っていただけるということで、それならやりましょう!となりました。
――オフショットや稽古の様子は貴重ですよね。
我々の職業は映像にしても舞台にしても、出来上がったものしかお見せできないわけですけど、そういった目に見える部分は実は全体の1割ぐらいだと僕は思っています。
稽古中やオフの日なんかはなかなかお見せすることがありませんから、1枚1枚にその時の心境やエピソードが詰まったものになっているかなと思います。
――ご自身で写真集を見られていかがですか?
恥ずかしいですね(笑)。でもおもしろいです。稽古場でも劇場でもカメラマンの黒沼(諭)さんがいるのは分かっているんですけど、こんなところを撮っていたのか、と。自然体というか、上手く工夫して撮ってくださって感謝しかないですね。
――ちなみにお気に入りの1枚はありますか?
基本的に自分の写真は見たくないんですけど…(笑)。全部いいです。行きつけの居酒屋で撮ってもらった写真は酔っていて本当に覚えていないんです。
あと、気に入っているわけではないんですけど、シャワーカットがあるんですよ。いつも舞台が終わった直後に、楽屋に入ってシャワールームに直行するんですけど、黒沼さんとマネージャーが何か言いたげな顔をしていて。そこで「シャワー撮りたいんでしょ」って察して(笑)。すぐに全裸になって、はい撮って撮って、って撮ってもらいました(笑)。
今日は何を撮ろうと決めるわけではなく、その場その場で黒沼さんと「ここを撮ろうか」というのをお互いの空気でやっていたんです。そういう写真が多いから、オフの時も含めていろんな表情があると思います。
過酷だった上半期の舞台
――お稽古中や、本番後に上裸になられているお写真もあったんですけど、筋肉がすごいな、と。
何にもしてないんですよね。
――舞台に出演されている中で培われたものなんですね。
30歳ぐらいまでは鍛えたり、運動をしていたんですけど、舞台中にケガをしたのを機にしなくなりました。
今、舞台が終わって2カ月ぐらい経つんですけど、体の状態で言うと、今のほうがたぶん健康的ですね。「ハムレット」のときから5キロぐらい増えています。あの時は人生で一番痩せていました。
トレーニングをする時間も気力ありませんでしたし、役自体、筋肉美や肉体美を見せる役でももちろんないですからね。そういう意味でも自然体だと思います。
――今年は過酷な舞台が続いていたかと思います。「ハムレット」の際は、そんな心境をXにポストされていらっしゃいましたが、追い込まれていた部分があったのでしょうか。
「ハムレット」は数ある演劇作品で、男性が演じる役の中では一番セリフ量が多いといわれている役です。それに加えて、父親が殺され、自分も人を殺し、母が目の前で死に、恋人が死んで…と感情の振れ幅をフル稼働しなければならない作品でした。稽古中2回ほど倒れましたし、「もうダメだな」と思った時もあったんです。スタッフさん、キャストさんとも終わってから話したんですけど、「ダメかと思った」ってみんな言っていましたからね。
しかも、舞台は1回やればいいというものでもなく、地方のツアー公演も含めるとそれが2ヶ月ぐらい続きます。よく乗り切ったし、しかも全員、体調を崩すことも怪我することもなくできたのは凄いことだなと改めて思います。
僕は今36歳。「ハムレット」はデンマークの王子だし、ある程度の若さもないとできないと思っていたので、ギリギリ間に合ったかな、と。そして自分がある程度培ってきたものや経験してきたものが、全部クロスしたところでできたので、いいタイミングに演じられたな、と思いますね。
――そんな過酷な舞台を乗り越えられた秘訣は、どういったところにあるんでしょうか。
やっぱり周りの人ですね。結局、1人では何もできません。仕事の場で言ったら演出家がいて、共演者がいて。
もちろん舞台に立ったら、最後は1人ですし、助けてなんて言えませんけど、それまでの過程で僕はいつも甘えさせてもらっています。家族や親友にいつも励まされ、支えてもらっていますね。
芝居も自分の小さなテリトリーの想像の中でいくら頑張っても突き抜けることはできません。
三谷幸喜さんの「オデッサ」という舞台では、標準語と英語と鹿児島弁というある意味3ヵ国語で芝居をやったわけですが、そんな役は自分の想像にもちろんないわけです。
多分、誰の頭の中にもなくて、でもそれを僕に課してくれて、それを飛び越えられる、と言ってくれる人もいてくれて…。やっぱり、人間は普通に生きているだけでは成長しないし、ステップアップしていきません。人ってどうしても楽して生きていきたいと思いますし。でもそこでお尻を叩いてくれて、引っ張ってくれる、「こういうのもあるよ」と教えてくれるのが三谷さんだったりします。
一緒に頑張ってくれる共演者もいて…そんな作品(=「オデッサ」)も今年の頭にあったので、そういう意味で上半期はもう大変でしたね。
今下半期に入りましたけど、あんまり仕事したくないです。もう3年分ぐらい舞台はやった感じがしますもん(笑)。
――そんな! 待っていらっしゃるファンの方もたくさんいらっしゃいますし! でも、今少しホッとした状態なんですね。
そうですね。ちょこちょこの仕事はしていたんですけど、2ヶ月くらいは休んだのかな。
舞台の稽古、本番中は人としての生活は出来なかったですもん。お酒も飲めなかったし、ご飯は食べるようにしていたけど、どんどん痩せていって…今、やっと普通の感覚になれたのかな、と思います。休みをもらって、家にだんだん飽きてくると体を動かしたくなってきて、今まで観ていなかった映画や舞台が観られる時間ができるのもやっぱり楽しいですよね。
舞台でも、映像でも揺るがず持っている思い
――10月クールは2本のドラマに出演されます。柿澤さんとしては、やはり舞台と映像のお仕事では意識は違うところはありますか。
全然違いますね。舞台だと稽古していく間にトライ&エラーを繰り返して、できあがったものを本番でやって、本番中もいろいろ変わったりはするんですけど、やはり基本の枠は変わらないんですよね。
映像作品の現場は稽古やリハーサルもなければ、本読みもそんなにガッツリなく、用意ドン、はいOK、はい終わり!という感じですよね。
舞台と比べると僕は、映像はまだまだ経験値が低いので、わからない部分も多いです。
――手探りの部分もある?
もちろんありますし、監督と話して演じてみても完成の形は分かりません。
「こっちじゃないんだろうな」「やっぱりこっちなんだ!」と思うこともあるし、カメラアングルによっても見え方は変わりますからね。
ただ一つ、舞台だろうと映像だろうと、動く気持ちや、自分の中で役が思っているだろうことは変わらないでいよう、と決めていますね。
――『全領域異常解決室』では事務所の先輩の藤原竜也さんとの共演ですが、藤原さんとは何かお話されましたか?
全くしていないんです。仕事の話はほぼしないですね。…いつもなんの話をしてるんだろう…お酒をご一緒するといっつも記憶が残らないんですよ(笑)。
竜也さん、お話も上手だし、兄貴分なので、何人かいてももちろん彼がトークの中心になるんです。いろんな話を振ってくれるんですけど、30秒に1回話題が変わっていくんですよ。
――30秒に1回は回転率が良すぎますね(笑)。
「かっきー、○○さんって人がいてさ、この人がめっちゃおもしろくて…」って言った30秒後には「かっきー、これ知ってる? この○○ってさ、めっちゃいいよ」「かっきー知ってる? これはどこどこの会社が開発して…」だとか、どんどん話題が変わっていくから、何について話しているか全く覚えてない(笑)。
睡眠についての悩みが…
――舞台中は特に多忙だったかと思うんですけど、体調管理について注意されている点はありますか?
ストレスになるので、逆に何もしないです。無理のないところでやっています。週に2、3回は運動するとか、オフの日も午前中に起きるとか。
……あ、でも睡眠は気をつけたいと思っているんですよね。3時間ぐらいで起きちゃうんです。
――何時に寝ても関係なく?
そうなんです。9時間ぐらいはベッドにいるようにしているんですけど、9時間ぶっ通しで寝られたら最高なのに、そんなことはここ何年もなくて。3時間、3セットみたいな睡眠のとり方なんですよ。
――それで疲れ取れます…?
取れないですよね(笑)。動き出さなきゃ、という時が一番眠いんですよ。オフの日はそれで夕方まで寝てしまったりすることもあるんですけど、そうなるともう生活のリズムがガッタガタになります。
この2ヶ月くらいはずっと休んでいたから、そういう生活でも良かったんですけど、ドラマの撮影も始まったので、決まった時間に寝て起きることを心掛けないと、と思っています。
――最近だとパジャマとか、快眠グッズもいろいろありますよね。
パジャマも買ったんです! でも全然効かないです。
あと、掛布団にある程度の重さがあるとよく眠れるっていう記事を読んで7kgの掛布団を試したんですけど、今は暑くて使ってないですし(笑)。でもタオルケットの薄手のものは、それはそれで軽くて微妙だな、と。
枕もマットレスも、いいといわれるものを試しているんですけどね…。
――睡眠については今後、要研究、なんですね。では、最後に、柿澤さんが思う魅力的な人はどんな人か、お聞かせください。
優しい人ですね。何気ない時にスッと手を差し伸べられたり、逆にその人のことを思って今は何もしないとか。とにかく、相手のこと考えられる、相手を想える人はステキだな、と思います。
先輩と接する機会が多いんですが、いろんな現場や修羅場をかいくぐってきたんだな、という人はやっぱり優しいですよね。それに、思いやりがある。
そういう人はやはり魅力的だなと思いますね。
Profile
柿澤勇人
1987年生まれ。神奈川県出身。2007年、劇団四季「ジーザス・クライスト=スーパースター」でデビュー。退団後は舞台、映画、ドラマと活動の幅を広げる。主な出演作は、舞台「海辺のカフカ」「デスノート The Musical」「メリー・ポピンズ」「ジキル&ハイド」、ドラマ「真犯人フラグ」(日本テレビ)「大河ドラマ 鎌倉殿の13人」(NHK)「不適切にもほどがある!」(TBS)など。第31回読売演劇大賞優秀男優賞、第49回菊田一夫演劇賞受賞。
■『untitled』
2024年9月13日(金)発売
3,080円(税込)
出版:宝島社
撮影:黒沼諭
<衣装>
シャツ¥39,600(トゥモローランド)
靴¥41,800(パドモア アンド バーンズ× トゥモローランド/2点共にトゥモローランド)
他スタイリスト私物
※全て税込価格
スタイリスト/五十嵐堂寿
ヘアメイク/松田蓉子
撮影/須田卓馬
取材・文/ふくだりょうこ
編集部のおすすめやお知らせをアップしていきます。
この著者の記事一覧へ