“透明な人”を作ってはいけない――『虎に翼』で平埜生成が感じた、伝えることの大切さ
いつもの日常より少しだけラグジュアリーな空間で、キレイノートが今、お話を聞きたい方をゲストに迎える連載をスタート。記念すべき第1回は、放送中の連続テレビ小説『虎に翼』で最高裁判所家庭局の一員・汐見圭を演じている平埜生成さんです。
“朝ドラ”のお話はもちろん、平埜さんの旅にまつわるエピソードや、いつか叶えたい夢のお話など、たっぷり語っていただきました。
偶然の出会いも旅の醍醐味だと思っています
――平埜さんはどんな時に旅行をしますか?
控えている作品の勉強として、行先を選ぶことが多いですね。以前、特攻隊員の青春を描いた舞台『見上げればあの日と同じ空』に出演した時は、鹿児島にある鹿屋航空基地史料館へ行き、検閲を潜り抜けた手紙などを読んで、役作りをしたんです。
――やはり、その場所に訪れると違いますか?
う~ん…。自己満足に近いとは思うんですけどね(笑)。でも、行かないよりは行ったほうがいい気がしていて。そうすることで、その役を演じる自分を安心させる要素を増やしているのかもしれません。
――お仕事が全く関係ない、プライベートでの旅行もされますか?
はい。実は最近、アメリカに住む親戚が韓国の方と国際結婚したんです。それもあって、アメリカと韓国に遊びに行くようになりました。そこで地元の方々と話すと、日本に入ってくる海外の情報とはまた違う“リアルな現状”を知ることができて、すごく面白いんです。僕は舞台で海外の戯曲を演じることも多いので、海外旅行は、そのすべてがいい勉強になっています。
――旅行をする時は、緻密に計画するタイプですか?
大枠だけ決めるタイプです。僕にとって旅行は、たとえるなら絵を描くことに似ていると思っていて。下書きをして、その上から本書きをする時に、“やっぱりこの色を足そう”“こっちのほうがいいな”と、その瞬間に生まれた発想を大切にして、下書きからはみ出しながらも仕上げていくというか。
先日も、地方公演で時間が空いた時に、そうめんが好きなスタッフさんがいたので急遽美味しいそうめんを食べに行ったんです。そしたらそのお店の近くに由緒正しい神社があって、みんなで祈祷してもらうことになったんですよね。そういった偶然性も旅の醍醐味だと思っています。
――素敵ですね。ちなみに、宿泊施設を選ぶ時に重要視することはどんなことですか?
あまりこだわりはないんですが、強いて言うなら広めの空間がいいですね。以前、星野リゾート リゾナーレ熱海さんに行かせていただいたんですが、部屋に入った瞬間、大きな窓から山と海がバーンッと見えて、ものすごく感動したんです。あの一気に心を解きほぐしてくれる感覚は、やはり広い空間で、遠くまで見える解放感が呼び起こしてくれたものだと思うんですよね。
――今回撮影したOMO5東京五反田 by 星野リゾートも、五反田という都心にありながら、ものすごい解放感のあるお部屋ですよね。
素敵ですよね。熱海では海や山で広さを感じましたが、ここはかなり高層だからこそ、ビル街が見渡せるだけでなく、空が大きくて、ビックリしました! まさか都心でこんなに解放感を味わえるとは…!
毎日書いている日記で心の整理をしています
――平埜さんが旅行で必ず持ち歩くものはありますか?
日記です。20代後半くらいから書き始めました。
――どんなきっかけで書き始めたんですか?
20代後半って、多くの人が悩むと思うんです。例にもれず、僕も“このままでいいのかな”と考えているうちに、友達は仕事で昇進していったり、転職をしたり、結婚していったり…。そんな時に、周りに流されることなく、自分としっかり向き合うために、日記を書き始めました。そこには、今考えていることや、やりたいこと、喜怒哀楽をカッコつけることなく書いていきました。
――最近になり、書くことは変わってきましたか?
変わってきたと思います。あとは、いま連続テレビ小説『虎に翼』で僕が演じている“汐見圭”が達筆の役なので、稽古をして、キレイな文字で日記を書くようになりました。すごく時間がかかっちゃうんですけどね(笑)。
――忙しい中にその時間を確保するのは大変ではありませんか?
とはいえ、毎日 30 分くらいだけですからね(笑)。その日の反省も踏まえて、なぜこうなったのか、どう向き合っていくのかということを書いているんです。続かないと思っていたんですが、自分にはとても合っていたようで、うまく心の整理ができるようになりました。これからも続けていきたいですね。
――ちなみに『虎に翼』での汐見さんは、とても素敵な人物像ですが、演じてみていかがですか?
僕自身、ひとりの視聴者として『虎に翼』を楽しんでいるので、どうしても補正がかかってしまっているんですが、僕は寅子の夫である優三さん推しでして(笑)。だから、優しくて強い優三さんのような存在でありたいなと思っているんです(笑)。みんなのことを支えながらも、ホッとするような存在になれるように演じています。
伊藤沙莉さんの肝の座り方に感銘を受けています
――平埜さんは、個性的な役を演じる滝藤賢一さんとのシーンが多いですが、ものすごく刺激的な日々を過ごしているのではないでしょうか。
とっても楽しいです! 滝藤さんは、僕に今後の俳優としての道しるべを示してくれたんです。現場でも演技論についてや、肉体作りの話など。とにかくストイックで贅沢な話をたくさんしてくださるので、すべてを吸収して成長し続けていきたいですね。
――すごくいい環境でお仕事ができているんですね。
とてもありがたいです。さらに主演の伊藤沙莉さんが、本当に素晴らしい役者さんなんです。肝の座り具合がものすごいですし、どんなことがあっても動じないんです。いつも笑顔で現場をパッと明るくしてくれる存在。それでいて、どんな球が来てもフルスイングでホームランを打ち返せる方なんですよね。天才だと思います!
朝ドラは、毎回リハーサルの時に、キャストやスタッフみんなで話し合って作り上げていくんです。そこで滝藤さんをはじめ、沙莉ちゃんが引っ張って“ここにいるなら、次の場所はここにいたほうが自然ですよね”“このセリフの内容なら、隣に行って話したほうがいいですよね”など、すり合わせていて。
――まるで、劇団のようですね。
そうです! その感覚にすごく近いですね。リアリティを追求する劇団員が揃っていて、本当にいい現場でお仕事をさせていただいているなと毎日実感しています。実は今、在日外国人の現状と、人権について勉強をしているんですが、まさに『虎に翼』でもそういったことが描かれていますし、すべてがリンクしていて、学ぶ大切さを感じています。
――平埜さんは、以前からマイノリティと言われる人達についてしっかりと調べていますよね。その興味はどこから来るのでしょうか。
今作の脚本を書かれている吉田恵里香さんもおっしゃっていたんですが、歴史の中や、普段の生活の中で、絶対にいたはずなのに、いないことにされている人たちがたくさんいるんです。そんな人たちを、吉田さんは“透明な人”という表現をされていたんですよね。まさに僕の興味はそこにあって。
個人的な話になりますが、僕は障碍者支援のアルバイトや、老人ホームでのアルバイト経験があり、そこで様々な人達と接していくうちに、絶対に透明な人なんて作ってはいけないと強く思った過去があったんです。『虎に翼』では、当時透明な人として扱われていたこの時代の“女性”にフォーカスしているので、すごく考えさせられることが多いですね。すべてが繋がっていると思うからこそ、演じて、伝えられるこのお仕事に、宿命を感じています。
――『虎に翼』は佳境を迎えていますが、汐見さんにどんな未来が待っているといいなと思いますか?
やはり家族の幸せですかね。これから奥さんがどんな決断をしていくのか。それを汐見がどう見守っていくかは気になります。そして、ドラマで描かれるかは分かりませんが、朝鮮と日本にルーツを持つ子どもが生まれ、汐見夫妻は、その子にどんな教育をしていくのか、さらにその子がどんな将来を歩んでいくのかはすごく楽しみですね。
いつか絶対に大河ドラマの主役を演じたい
――では最後に、平埜さんの今抱く大きな夢を教えてください。
大河ドラマの主演をいつか演じられたらいいなと思っています。共演した(仲野)太賀も大河ドラマの主演に決まりましたからね。すごく羨ましいです(笑)。でも、いいライバルでもありますし、尊敬もしているのですごく楽しみですし、僕も頑張らないといけないなと、改めて気合いが入りました。やはり、時代劇は日本にしかないものですし、価値のあるものですし、なにより1年以上同じ役を演じるということはなかなかできないので、いつかこの夢を叶えたいですね。
Profile
平埜生成
1993年生まれ。東京都出身。舞台を中心に、ドラマや映画などで幅広く活躍。舞台『私はだれでしょう』(2017年・2020年)、『常陸坊海尊』(2019年)、『アーリントン』『ウェンディ&ピーターパン』(2021年)、『VAMP SHOW ヴァンプショウ』(2022年)、『兵卒タナカ』『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』(2024年)、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(2017年)、連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(2022年)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(2021年)、「インビジブル」(2022年)「グレースの履歴」(2023年)など話題作に出演。現在放送中のNHK連続テレビ小説「虎に翼」、9月1日(日)より放送予定のNHK BS時代劇「おいち不思議がたり」に出演している。また、来年2月には舞台『他者の国』の上演も決定。
タカハ劇団『他者の国』
脚本・演出:高羽彩
出演:平埜生成 小西成弥 野添義弘 土屋佑壱 西尾友樹 本折最強さとし 近藤強 田中真弓 柿丸美智恵 平井
珠生 丸山港都 高羽彩
日程:2025年2月20日(木)~2月23日(日)
会場:本多劇場
主催:タカハ劇団
HP:http://takaha-gekidan.net/
お問合せ: info@takaha-gekidan.net
スタイリスト/渡辺慎也(Koa Hole inc.)
ヘアメイク/齊藤沙織
取材・文/吉田可奈
撮影/須田卓馬
撮影協力/OMO5東京五反田(おも) by 星野リゾート
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