2024.08.13
余市ワインと食材のマリアージュを堪能。ワイン好きのロマンを掻き立てるオーベルジュ「Yoichi LOOP」
道内初のワイン特区認定、日本屈指のワイン産地・余市
豊かな大自然、凜とした空気、広大な山々が湛える清らかな伏流水、そして豊穣のテロワールが育む食の宝庫、北海道・余市。
道内でも余市湾を望む丘陵地帯は、比較的温暖で夏季に雨量が少ないことから、フランス・ブルゴーニュに似た気候風土と言われています。
2011年には道内で初となる「ワイン特区」に認定。それを機にワイン製造量の規制が緩和され、小規模事業者でもワイン造りに挑戦しやすい環境になりました。豊富な土壌と良質なブドウを求め、年々栽培農家が増加し、現在では大小19軒の個性豊かなワイナリーが存在するほど、ワインの一大産地に成長しました。
春から夏、そして秋へ、なだらかな斜面に広がるブドウ畑が織り成す、美しい田園風景を楽しむことができます。毎年ブドウの収穫時期になると道内外から多くのボランティアが訪れ、町はいっそう賑わいを見せます。
待望のオーベルジュが余市駅前に誕生
ところが、余市のワイン産業が盛んになる一方で、ワイナリーは点在するものの、ホテルやレストランの選択肢が少ないのが難点。多くの観光客は日帰りで訪れ、電車やバスがあるうちに小樽や札幌にトンボ帰りするケースも。余市には良いワインはたくさんあるのに美食宿がない、と嘆く声が多くありました。
そんな中で2020年に誕生したのが「Yoichi LOOP」。宿泊施設を併設したレストラン、いわゆるオーベルジュです。
JR余市駅を下車してすぐ。駅舎正面に佇むブリック調のレトロな建物に、赤のネオンサインがアイコニック。どこかポートランドのACE HOTELにも似た雰囲気を彷彿させます。
元々生命保険会社だった建物をリノベーションして、1階はレストラン、2~3階は宿泊施設で構成。コンクリート剥き出しの無機質でシンプルな客室は、ワイナリーの中にある空き部屋をイメージして作られたそう。
コロナ禍での開業となり、当初は制限のある営業スタイルで集客に苦労したものの、今では道内外・国内外問わず、多くのワイン愛好家が足繁く通うデスティネーションホテルに。
ハイシーズンでは素泊まりを設けず、ディナー付き宿泊プランのみ。稼働状況を見ながら臨機応変に対応。
駅前という好立地がゆえ、ホテルを拠点にワイナリー、ニッカウヰスキー蒸留所、市場、バーホッピングやカフェ巡りなど、周辺観光を楽しめる利便性は言うまでもないけれど、特筆すべきはやはり、余市ワインと余市食材が織り成すマリアージュ。ここでしか味わえない美食体験でしょう。
冬場はこたつが登場する
猫足バスタブが海外のブティックホテルを彷彿
バスアメニティはAromatherapy Associates
世界を知るシェフとソムリエが巻き起こすケミストリー
九州出身でワイン好きなオーナーが余市ワインに惚れ込み、「この地で生まれる素晴らしいワインにはそれに呼応する本格的な料理が必要」と考え、自ら余市にブドウ畑を購入し、オリジナルのワイン造りを目指したことが始まりだったそう。
「余市ワインと余市食材が生むマリアージュを世に出したい」という想いから、当時スペインの名店で修行を積んでいたシェフと、本場フランスのレストランでサーブ経験のあるソムリエを口説き、余市に何度も足を運んで地元の農家やワイナリーに分け入りながら、余市ワインと余市食材の相性を探り、イメージを確立させたことで、オーベルジュの誕生に至りました。
ダイニングを指揮するのは、シェフの仁木偉さん。世界のベストレストラン50で3位に選ばれた、スペイン・バスク地方の「Asador Etxebarri」をはじめ、ガリシア地方のミシュラン星付きレストラン「A Tafone」、京都の老舗日本料理店「嵐山吉兆」や「山地陽介」など、日本国内外でジャンルを横断して研鑽を積んだ経歴を持つ1人。
サービスとホテル総支配人を兼任するのは、ソムリエの倉富宗さん。11年間フランスのレストランにてサービスを担当したのち、アラン・デュカス日本2号店「Benoit Tokyo」の開業、ミシュラン星付きレストラン「Monolith」や「Thierry Marx」の立ち上げに携わった実力派ソムリエ。
海外経験のある2人の最強タッグが叶うのは「Yoichi LOOP」だからこそ。「競争率の高い都心のレストランではなく、海外の経験を生かしながら、地方で輝ける存在になろう」というのが共通の想い。オーナーは開業前から彼らが生み出す化学反応を予想していたのかもしれません。
“余市を食す”、余市の四季を五感で感じるマリアージュ
ディナーは仁木シェフが自ら厳選した四季折々の地元食材を、確かな技術と感性、創造力で最高の状態に仕上げる、全9皿のイノベーティブなコース料理。
「余市は漁港が近く、素晴らしい品質の魚介が水揚げされるし、野菜自体の旨味が強く、風土の力を感じます。潮風を浴びて育ったブドウを丁寧に醸した余市のワインは、この地で採れる海の幸や野菜、フルーツと驚くほど相性がいい」と話す仁木シェフ。
一方で、「ワインそのものがハーブや調味料の要素があるように、料理の中の一つの付け合わせのような存在になり得ると考える」と話す倉富ソムリエ。
ダイニングにある大きなセラーには、ドメーヌ・タカヒコ、平川ワイナリー、ランセッカ、ドメーヌ・モンなど、余市を代表する希少なラインナップを中心に、世界各国のワインがずらりと並びます。
開業当初はスペインバルとしてスタートしたこともあり、今は本格的なコース料理の提供でありながらも、どこか肩肘張らずに楽しめるカジュアルな雰囲気が心地良い。ゲスト一人ひとりに目が行き届くようにと敢えて席数に制限を設けて、ゆとりある接客を心がけているとか。
コースのはじまりは、自社畑のナイアガラを使用したオリジナルスパークリングワインから。
アミューズをのせたお皿は、余市で作陶している人気陶芸家・馬渡氏の作品。北海道の原料の特性を活かして作られる素朴で味わい深い土味の器は、北海道の大地の力強さ、奥深い豊かな温もりを感じさせてくれます。
北海道は桜前線が遅れて到達するように、旬の食材もまた本州とは2か月ほど時差があります。その遅れて訪れた季節を一皿一皿に感じられます。
フレンチやスパニッシュにとどまらず日本料理の経験が生きるアレンジで、余市の食材が持つ魅力を最大限に引き出しています。引き出しを多く持つシェフだからこそ叶う、余市の四季を五感で感じる、唯一無二の極上コースです。
SAUNA QUEEN:ナイアガラは北海道では食用ブドウとしてポピュラーな品種。ドライな仕上がり
「ドメーヌブレス」Your Story:ケルナーとバッカスのブレンド。黄色い花を連想させるアロマティックな白ワイン
「平川ワイナリー」SELENE:キリッと澄んだキレイな酸。青リンゴや柑橘系の香り。ブドウ品種は非公開。生臭さを感じさせない、鰊を包み込むようなペアリング
「平川ワイナリー」HESPERIDE:フランス語でシトラスの意。レモンやライムのようなシャープな酸。ヒラメのフリットとあわせて
「Ebeotsu」虹:レインボーの7色に由来してブドウ7種を使用。ブルゴーニュのような複雑さ
「ドメーヌ・モン」Somagnon blanc:余市でしか出会えない味わい。とろみあるテクスチャーで一度飲んだら忘れられない複雑な白ワイン
「ラン・セッカ」(pon nitay)アイヌ語で小さな森。ブドウ3種を使用したオレンジワイン。皮ごと漬け込み、色、コク、アロマが出る。ビターでアロマティックな部分がパエリアにマッチ
「Takahiko Soga」YOICHI NOBORI:ピノノワールとツヴァイゲルトの2種をブレンド。赤身の肉にも負けないスパイシーなアクセント
「千歳ワイナリー」KERNER LATE HARVEST:遅摘みケルナー種を使用。蜂蜜のニュアンスで上品で爽やかな甘口に仕上がる。苺、林檎、黄桃などフルーツとの相性が良い
ランチ(6,600円・全7品)、ディナー(16,500円・全9品)ともにコースのみ。ワインペアリングはランチ8,800円〜/ディナー12,100円~
次に迎えるメインの肉のジューシーな部分と赤ワインのタンニンに備えて、口の中を心地よくフラットにするため、ビターな部分が油分をカットしてくれるオレンジワインを選択するなど、流れを大切にしたペアリング。
希少価値の高い余市ワインの数々を飲めるのはここだけ
日本で最も入手困難とされる「ドメーヌ・タカヒコ」のワインを求めて訪ねて来るゲストも少なくありません。その期待に応えるべく、「Yoichi LOOP」ではワインペアリングの中に必ず“タカヒコ”を入れて構成しています。遠方から足を運んでくれるゲストの存在を造り手たちが理解してくれているからこそ、なかなか市場に出回らない希少なワインを特別に取り扱えているのだとか。
余市ワインのポテンシャルについて尋ねてみると、「余市ワインもフランスワインも、語り尽くせないくらいどちらも好き」と話す倉富ソムリエ。
「私自身、フランスは第二の故郷でもあり、フランス料理の現場に長く従事していたからこそ、フランスワインへの思い入れは人一倍強いです。総合的な味わい、バランス、エレガントをとってもやはり歴史を紡いできたワインには敵わない。
もちろん全て仏産で揃えることもできます。ただ、ここでこの料理に提案するならブルゴーニュではない。地元の素材に本当に染み入るかどうか? そういう点でも“地産地消”という言葉は理にかなっていますよね。
何より、余市ワインは贔屓目無しにしても年々レベルが上がっていると感じます。環境や土壌を含めた“テロワール”が素晴らしいからこそ、こんなにも素晴らしいワインができるんだと思います。『え! こんな余市ワインもあったんだ!』という、従来の日本ワインのイメージを良い意味で覆してくれるような、驚きや発見をゲストの皆様に提供できる場でありたい。
これらのワインを通じて、余市の魅力や可能性を感じてほしいと願います」
倉富ソムリエの軽快で巧みな、そしてワインへの情熱と愛が溢れるプレゼンテーションは、訪れたゲストたちを魅了し続けています。
終わりに
2020年のコロナ真っ只中に余市駅前に誕生したホテルは、まるでワイナリーのちょっとした空き部屋に泊まるような、ワイン好きのロマンを掻き立てるオーベルジュでした。
「余市=日帰り」という長年のイメージを見事に払拭し、いつしかこの町に新風を巻き起こす存在に。地元の農家や造り手を巻き込みながら、地元食材を“食財”と讃え、みんなで手を取り合って余市を盛り上げようという“For All”の姿勢。そこには旅行者と生産者、そしてこの土地に対してのリスペクトが込められています。
「造り手の多様な個性やフィロソフィーを伝えられる場になれたら」ー今後さらに世界を席巻するであろう余市ワインを一同に楽しめるのはもちろん、世界のダイニングシーンを見てきたシェフとソムリエ、二人の視点やセンスが見事に調和して生じたケミストリーを体感できる場所はおそらく「Yoichi LOOP」だけだろう。
17歳から読者モデルとして「Vivi」「JJ」「non-no」など多数女性誌に出演。6年にわたってMBSラジオパーソナリティを務める。大学卒業後、化粧品会社勤務を経て、フリーランスに転身し、ヨガインストラクターを務める傍ら、トラベルライターとして世界中を飛び回る。過去渡航した国は47カ国。特にタイに精通し、渡航回数は30回以上。ハワイ留学、LA在住経験有り。現在は拠点を湘南に移し、全国各地を巡りながら、東京と行き来してデュアルライフを送る。JSAワインエキスパート呼称資格取得。
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