2023.12.17
温故知新を体現|隈研吾設計、紫翠ラグジュアリーコレクションホテル奈良
京都から30分、大阪から60分。いまふたたびの奈良へ
秋の京都をあとにして私が向かったのは奈良の地。近鉄線でわずか35分ほど、大阪から入っても60分弱で辿り着くアクセスの良さは言うまでもないけれど、教科書や修学旅行先だけにとどめてしまうのは惜しいほど、古都・奈良には美しい自然と文化、歴史が根付き、日本史上において重要な時代の遺産や文化財が今もなお残っています。
アフターコロナですっかり賑わいを取り戻した奈良公園。其処彼処に野生の鹿が餌を求めて徘徊する光景は圧巻で、多くの観光客を魅了し続けています。
奈良の大仏が祀られる東大寺、興福寺、春日大社など、世界遺産登録された観光名所はおそらく誰もが一度は訪れたことがあるはず。長い年月を経て、歳を重ねて、経験を積んだ今、もう一度その古き都に足を運んでみたら、壮大な佇まいに心を動かされたり、重厚な時間の流れを肌で感じられたり、あの頃とはまた違った感動があるかも。今こそふたたび、いざいざ奈良(*)の旅へ。
(*)……万葉集や古事記にもみられる人を誘(いざな)う意味で用いられることばの「いざ」を繰り返したもので、奈良への旅の誘いの思いを込めてJR東海で名付けられたそう
翠 SUI×ラグジュアリーコレクションのダブルブランドは国内3軒目
今回奈良で滞在したのは、今年8月末に開業したばかりの「紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良」。世界有数のホテルチェーンであるマリオット・インターナショナル最上級カテゴリーブランド「ラグジュアリーコレクション」を冠したホテルとしては国内5軒目、「翠 SUI」との“ダブルブランド”のホテルとしては国内3軒目となります。
「伝統と現代の結び」をコンセプトに、木々の緑がみずみずしく美しいさまを表す「紫幹翠葉(しかんすいよう)」に由来する「紫翠」という名前を冠して、奈良が擁する自然や、歴史と伝統、時の流れの神秘を体感する滞在を約束してくれます。
大正期の趣を蘇らせた古今融合のダイニング、奈良のテロワールと歴史ある食文化を体感できる食体験、四季折々の木々の美を堪能できる日本庭園・吉城園、旧興福寺子院・世尊院をリノベーションしたカフェなど、ラグジュアリーな施設と洗練されたサービスで、世界中のゲストを迎えています。
中:ホテル正門の屋根
右:宿泊者専用ラウンジ「寧楽(なら)」
中:日本建築の特徴的な格天井や貴重な大正ガラスを現存させた窓と欄干
右:大正時代に導入されたアール・ヌーヴォー様式により和と洋が混在した建築美
中:ウェルカムドリンクは月ヶ瀬の煎茶
右:昭和天皇が「サンフランシスコ講和条約批准書」に署名をした「御認証の間」
地方創生に貢献する「翠 SUI」ブランドとは
「混じり気のない美しい羽」を意味する「翠」の字に由来した「翠 SUI」は、2017年に森トラストグループが立ち上げたホテルブランドで、現在では京都、宮古島、そして奈良に3軒あります。美しく透明度の高い青に染まる海、輝く白浜、紺碧の空、 鮮やかに彩られる森や山といった、日本各地の美しい自然や独特の文化など、その土地が持つ色に鮮やかに染めて世界にはばたく、という意味が込められています。今後も日本の観光先進国化、地方創生への貢献を目指して、日本各地で展開予定だそう。
京都、沖縄、奈良の3つの「翠 SUI」の食材を融合したデザートをレストランで提供。“翠 SUIを集めた至極の一品”。京都産の宇治抹茶、沖縄産の琉球和三盆、そして奈良産の大和大鉄砲のきな粉。これら3つの産地の食材が見事に調和した、ここでしか味わえないスペシャルなデザートです。
奈良県知事公舎をリノベーションした隈研吾設計の宿泊棟
設計を担当したのは、日本を代表する建築家・隈研吾氏。約9000坪の敷地に、8棟の建物が建ち並ぶ、ある種の町並みのような風景となっています。
ホテルメイン棟は、1922年に奈良県知事公舎として建てられた歴史的建造物を活用。当時の設えを残しながらも見事に現代に蘇らせています。
中:施設全体がミュージアムのような美術品の宝庫。
中:幹線道路や大通りから離れていることもあり静寂な時間が流れる
右:室内着の浴衣やパジャマでリラックス
中:ジュニアスイート(温泉風呂付き)
右:奈良の照明デザイン会社「ニューライトポタリー」による春日大社の灯籠をモチーフにした照明
全43室の客室には、日本の伝統を感じられる趣ある佇まいに自然と調和するインテリアが施されています。各客室からは、天井まである大きな窓から日本庭園の豊かな緑を堪能できます。
今回宿泊したジュニアスイートを含む23室には、天然温泉の湯を湛えた内風呂、露天風呂を設え、旅の疲れから解放される癒やしのひと時を過ごせます。
中:赤漆をイメージさせる箱に、環境を配慮したアメニティ
右:バスアメニティはBYREDOの「LE CHEMIN」という爽やかな香り
日本庭園でアペロを楽しむ、宿泊者限定シャンパンディライト
チェックイン時に受け取ったインビテーションには「TASTES TO INSPIRE THE SENSES -五感を刺激する味わい-」というメッセージが。
17:00-18:00の夕暮れ時、日本庭園を望みながら楽しめるシャンパンのフリーフロータイム「ガーデンディライト」は宿泊客限定のサービス。
会場でもある茶寮「世世」は、ホテル敷地内にある独立した店舗で、旧興福寺子院・世尊院をリノベーションしたカフェ。
シャンパン片手に、旅の思い出を語らったり明日のプランニングをしたり…ディナー前の贅沢なひと時。
国内に3軒ある「翠SUI」ブランドのホテルで共通して催されるサービスで、これを楽しみに再訪するゲストも少なくないとか。
右:それ以外の時間帯はコーヒーや軽食、アフタヌーンティーなどビジター利用も可能
蔵をリノベーションしたイノベーティブな鮨ダイニング
ディナーは1922年建造の奈良県知事公舎の内蔵を活用した8席のカウンター、鮨&バー「正倉(しょうそう)」にて。
ホテルのテーマである「伝統と現代の結び」にフォーカスを当て、奈良の歴史と日本の“SUSHI”を新たな視点で解釈し、鮨を中心としたイノベーティブなコース料理を提供。ゲストの希望に合わせた本格的な鮨と、料理長の遊び心が融合した、五感を刺激する食体験を堪能できる、唯一無二のダイニングです。
中:階段と2階部分を打ち抜いて天井高に
右:仕込みにかける時間を惜しまない
料理長・平山氏は和食の料理人として京都で研鑽を積んできた若手職人。日々のトレーニングと研究を絶やさないストイックな一面があるからこそ生まれる、クリエイティブで繊細な料理たち。仕込みも調理も全てお一人で担っているそう。ワインにも精通していて、料理の価値を跳ね上げるワインペアリングの提案が楽しく、カウンター越しに料理長との会話が弾みます。
右:一番出汁は調味料をほぼ使わず、利尻産の天然昆布と奈良鰹で旨味のバランスを取っている
コースの始まりは、“一番出汁のエスプーマ”から。まるでフレンチやスパニッシュのような響きだが、梅肉や柚子といった和食材でアクセントを添えた、いわゆる擂り流し。
右:糸造りには国産キャビアの塩分でいただく
右:海老の真砂揚げ。細かくした衣を纏わせて揚げる技法
右:自家製スモークサーモンにディル、ケッパー、赤玉ねぎのピクルスを添えてマリネに
コースの中盤では、一つのネタに対して握りと一品料理が登場。これは“デクリネゾン”と言われる、一つの食材を様々な調理法で生かすフレンチの技法で、食感や部位の違いで、味の変化を楽しませてくれます。
というのも、総料理長が本場フランス三つ星レストラン出身のシェフであることから、ジャンルや常識に捉われない斬新なアイディアから日々メニューが生まれるのだとか。
左はのどぐろと金目鯛。自家製醤油と合わせていただきます。奈良の名産品でもある柿の葉寿司にインスパイア。柿の葉に包むことで抗菌作用も。
右は酢・醤油・和三盆に漬けたガリと、アンダルシア地方のオリーブオイルとの相性に着目し、日本酒とのマリアージュを提案したもの。
コースの終わりに手渡されたのは、正倉内に積んであった古櫃(こき:宝物を納めていた古い木製の箱)に由来したコースメニュー。答え合わせできるのも新鮮。
2-3時間のコース料理の中であっと驚く仕掛けが満載、五感を刺激する食体験。その一方で、持ち手にフィットするようにとあえて五角形にデザインした箸や、提供のスピードやボリュームを調整したりと、ゲストに寄り添ったきめ細かなおもてなしが心地良い時間を提供してくれます。
③
②メニューにはない茶碗蒸しのサプライズ。一番出汁、雲丹、ワサビを添えて
③醤油をサラリと塗った本鮪は素材を生かして。この後鮪がもう一回登場するサプライズが
④小ぶりの雲丹丼にワサビを添えて
⑤蓮根饅頭にした蒸籠蒸しの穴子と塩蒸し大和野菜
⑥日本酒で仕込んだテールスープ
⑦大和大鉄砲を使ったきな粉。大きな粒で甘みが強いのが特徴
⑧巾着に包まれているのは金平糖
※季節によってメニューは変わります。
[AWA]鮑 海藻
[DASHI]松茸 鱧
[TSUKURI]きずし 柿の葉
[CITRUS]烏賊 キャビア
[SEL]昆布締め 甜茶
[VINEGER]車エビ そぼろ
[RED]赤身 トロ
[MACERATION]サーモン漬け 燻製
[DON]雲丹 赤酢
[INFUSION]穴子 蒸籠
[63℃]和牛 コンソメスープ
[GENOISE]甘味 フルーツ
清々しい朝の時間を紡ぐ、大和食材を盛り込んだ上質な朝食
翌朝は少し早起きして、ホテル周辺をゆるりと散歩。奈良公園にはまだ観光客の姿はなく、静けさ残る貴重な光景。ひと足先に若草山から降りて来た野生の鹿たちがお出迎え。
右:鹿避けのための柵を設置
右:季節を象徴するようなアート
ホテルメイン棟に位置する「翠葉」は、旧知事公舎の客間を活用し、大正期の趣を蘇らせた古今融合のメインダイニング。季節の変化や時間の経過で表情を変える庭園を望み、日本古来の食へのアプローチを取り入れた「体・心・気」を揺さぶる料理が、朝食、昼食、夕食それぞれの時間帯で提供されます。
右:奈良県産ひのひかりは白飯か茶粥いずれかを選択。豚汁と共におかわり自由
朝食は[壱の膳]と[弐の膳]とに分けて美しく盛り付けられ、少量ではあるものの、素材の味を生かして一品一品丁寧に作られた料理を大切に咀嚼しながら、大和野菜の力強さを実感します。
美人画を得意とし、明治から大正にかけて活躍した日本画家・上村松園の作品が飾られた趣のある個室は8名が定員。
やわらかな朝日が降り注ぐ日本庭園を眺めながら、爽やかな朝の時間帯を紡ぐ、このホテルならではの朝食のひと時です。
メニュー一例:
[壱の膳]
小松菜のお浸し
玉子〆と奈良粕
季節のコンポート
大和蒟蒻の胡麻和え
柿のピクルス
おぼろ豆腐の炊き合わせ
[弐の膳]
カレイの焼き魚
吉野葛の玉子餡掛け
奈良県産ひのひかり御飯または茶粥
大和ポークの豚汁
香の物
終わりに
1300年以上の時を超えて、古より途絶えることなく今もなお受け継がれる悠久の歴史と文化。それを紡ぎ、生まれる新しい魅力。知るほどに面白く、好奇心を掻き立てられる場所、奈良。
歴史的建造物に身を置きながら、イノベーティブな食体験と、洗練されたおもてなしに触れて、美しく重ねられた「時の流れ」を贅沢に愉しむ、大人のための滞在。
この価値ある体験が叶うのは、今のところ「紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良」だけかもしれない。
17歳から読者モデルとして「Vivi」「JJ」「non-no」など多数女性誌に出演。6年にわたってMBSラジオパーソナリティを務める。大学卒業後、化粧品会社勤務を経て、フリーランスに転身し、ヨガインストラクターを務める傍ら、トラベルライターとして世界中を飛び回る。過去渡航した国は47カ国。特にタイに精通し、渡航回数は30回以上。ハワイ留学、LA在住経験有り。現在は拠点を湘南に移し、全国各地を巡りながら、東京と行き来してデュアルライフを送る。JSAワインエキスパート呼称資格取得。
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