2025.11.14
【俳優・柴咲コウ】俳優業と社長業をこなすなかで自分を整える方法とは?
村井理子さんのノンフィクションエッセイ「兄の終い」を『浅田家!』の中野量太監督が映画化した『兄を持ち運べるサイズに』が、11月28日(金)より劇場公開を迎えます。
生前に散々振り回されて絶縁状態だった兄が突然亡くなり、後始末に向かった妹が過ごす4日間を笑いと涙あふれる温かな空気感で描いた本作。柴咲コウさんが主人公の理子、オダギリジョーさんがその兄、満島ひかりさんが兄の元妻・加奈子を演じています。
キレイノートでは、柴咲コウさんにインタビュー。作品の舞台裏から、俳優業と社長業の両立について、実践中のリラックス法など幅広く教えていただきました。
『兄を持ち運べるサイズに』の撮影を振り返って

――中野監督は「初めて観る柴咲コウさんを撮りたいと思っていた」と仰っていましたが、ご自身ではいかがですか?
そもそも、自分の客観的なパブリックイメージがわからないんです。同世代だと『バトル・ロワイアル』(00年)の時の印象が色濃く残っている人が結構いらっしゃいますし、最近だと『でっちあげ 〜殺人教師と呼ばれた男』(25年)を観た方からはソシオパス的な怖い目つきが頭から離れないと言われて、何の作品を観たかでイメージが変わるものですから。ただ確かに、人に迷惑をかけずに家のことも作家業もきちんと行いつつ角がなく、柔和な人間味のある役柄はあまり演じてこなかったかもしれません。それが新鮮に映るところはあるかと思います。
――今回はオダギリジョーさんと兄妹役。お二人といえば、『メゾン・ド・ヒミコ』(05年)を思い出します。
オダギリさんの独特の存在感は何も変わっていなくて、個性的な役を難なくこなす方だと今回も思いました。『メゾン・ド・ヒミコ』は憂いを帯びた役どころでしたが、今回は底抜けに明るくて空気の読めない兄という全く違う役です。でもどちらも、オダギリさんだからこういうキャラクターになったんだなと思わされるし、他の人が演じているところを想像できません。


――その兄の前だと、理子が幼い妹に戻るような描写が印象的でした。
例えばスカートの裾の掴み方など、中野監督に強いこだわりがあり、細かく指示を受けました。監督はテストの回数が結構多くて、納得しないとカメラを回してくれないんです。早く納得してほしいと思いながら、時々ご本人にお伝えしつつも頑張りました(笑)。加奈子(満島ひかり)と満里奈(青山姫乃)の親子と会うシーンはクランクイン直後ということもあって、空気づくりも兼ねて時間をかけた印象があります。寄りのシーンなど、監督は手の角度にも細かくこだわっていました。
――お話を聞いて、「早く回して!」と言える俳優と監督の関係は風通しが良くて良いなと思いました。
そうですね。許される人なんだなと思ったら私も結構言っちゃうので(笑)。監督も嘘がつけない人だから、演技に対する「良い/悪い」の判断が全部顔に出ちゃうんです。現場ではカットがかかると監督の顔を見て「あ、今のはダメだったんだ。(演出するために)近寄ってきた…」となっていました(笑)。
“家族を描いた作品”との向き合い方

――撮影前には原作者の村井理子さんとオンラインでお話しされたそうですね。
ご本人の話し方や感情の部分を伺いつつ、監督が思う村井理子さんの解釈の両方を聞けたのが大きかったです。例えば村井さんはご自身のことを「家族に対してもある一定の距離を取るドライな部分がある」と分析されていましたが、その一方で監督は「家族への愛が強くある」と仰っていて。でも、先ほどのパブリックイメージの話ではないですが――人によって評価が変わるのは普通なことだと思うんです。お二人の意見は正反対ではなくて、愛情があるからこそ一定の距離が必要だったりするものだし、ドライに接しているのは家族を一人の独立した人間として扱っているとも取れますから。
――確かに。「家族」といえど一様に語れるものではありませんものね。
家族構成や内容は違えど、私自身も過去に家族のことで悩んだことがあるため、「わかる」と共感できる部分は多くありました。家族って個人と切っても切れないものだからこそ思い悩む人も多いでしょうし、正解がないにしても他の人がどうしているのかが見えづらいものでもありますよね。仕事でご一緒した共演者やスタッフの方々とも、自分の家族の内情を気軽に話せるかと言ったらそうではないですから。皆さんもきっと同じだからこそ、家族を描いた作品に自分を投影したり、「自分の家族もこうだと思いたい」と願ったり、それによって救われたり、時に涙したりするのではないかと思います。
仕事を長く続けていくために

――柴咲さんは2016年からレトロワグラース株式会社の代表を務められるなど、多角的に活躍されています。俳優業との両立をどのように行われているのでしょう。
会社自体を立ち上げたのは2016年ですが、実質的に動き始めたのはNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」を終えた2018年くらいからでした。どういう配分が自分にとってベストなのかは、今もまだ模索中です。社内の定例会議のスケジュールなどは構築されていますが、私が特に重要だなと思っているのは休み方です。日本人は休むことが悪のような風潮がありますが、私はしっかりと休みたいタイプです。しっかりと休息を挟むことでクリエイティビティが整理されたり、新たなアイデアが沸いてきたりするため、自分にとってはそのサイクルが不可欠ですが、物理的に時間が取られてしまうなかでどう休むかを考え続けています。パフォーマンスが落ちてしまうから睡眠時間は削れない、でも打ち合わせは増えていくというなかでどう合理的に組み込んでいくのか、未だに“はて、どうしたものか”状態です。でもそもそも楽しくてやっていることですから、その内にいいスタイルが見つかると楽観的に構えてもいます。
――今回ご共演された満島ひかりさんは、週休2日制を導入されるなどワークライフバランスを工夫されている印象です。
私も滅茶苦茶ご本人にインタビューしちゃいました(笑)。ペース配分の仕方と貫き方など、自分らしい働き方の実践に関してはひかりちゃんが先輩ですから。セルフコントロールは長い間仕事を続けていくためにはとても大事だけれど、相手によってはワガママと捉えられかねません。私は強気な性格のくせして流されやすい部分があり、説得されると「わかった 」と妥協もしちゃうので、ひかりちゃんにたくさん相談して勉強させていただきました。撮影の裏で、そうした実りも得られた時間でした。
柴咲さんが心惹かれる作品とは?

――そんな柴咲さんが惹かれる企画の特徴でしたり、出演を検討する際に重視しているポイントはありますか?
その役で自分がどう躍動しているのか、想像がつくかどうかでしょうか。そのためにも、屋台骨となる脚本の構成の巧みさは最も重視しています。どれだけ有名な監督の作品であっても、そこが伴っていないと現場が苦しくなってしまうんですよね。監督の撮りたいものが見えづらくなってしまうし、瞬時に反応できなくなってしまうため、そういった部分を加味してやらせていただくかどうかお返事しています。

――となると、『兄を持ち運べるサイズに』はそのイメージが浮かんだのですね。
はい。自然にビジュアルも浮かんできました。そういう風にみんなの姿を想起させる脚本って、やっぱり良い脚本だと思います。配役が決まっていなくてもイメージがどんどん湧いてくるかどうかが大切だと思います。そうなると、演じている最中にもブレることがないんですよね。本作の撮影は『でっちあげ』の後だったため髪を伸ばしていましたが、自分のイメージと中野監督の要望が一緒だったため、「じゃあ切ろう」と短くしました。村井理子さんご本人は個性的な方ですが、理子を演じる上ではコンサバ(保守的)な感じにしたいと思い、カットラインを丸くしたり、眼鏡もフレームがあまり薄くない普段使いできるようなものを選びました。ちなみにあれは自前の眼鏡です(笑)。色々とかけたのですが、あれが一番しっくりきました。
必需品は、お茶

――柴咲さんはお仕事のなかで移動も多いかと思いますが、必需品はありますか?
私は移動が大好きなんです。自分で現場まで車を運転することもありますし電車等での移動もありますが、移動時間に色々と準備できるから全然苦じゃなくて。パーソナルスペースをちゃんと確保できるかにもよりますが、私の場合はお茶が必需品です。お茶を飲んで気を休めたり想いを馳せたりする時間は、大切にしていますね。車での移動中は片手でも飲める容器に淹れたり、新幹線のなかなどだったらピクニックみたいな感じで広げて楽しんでいます。
――茶葉へのこだわりもありますか?
この間台湾に行ったことで、烏龍茶などの半発酵茶ブームが再燃しています。蜜香紅茶のような完全発酵茶や未発酵の緑茶も好きですが、いまは台湾で色々と買い込んできたお茶を一つひとつ試すのを楽しんでいます。あとは、還元水素茶を作れるボトルを買いました。お茶を注いで12時間待つと出来上がるのですが、最初は目に見えないからちょっと胡散臭いかも? なんて思っていたのが、飲んでみたら味が丸くなって美味しくて続けています。出来上がって5時間経っても変色していなくて、本当に酸化していないんだ! と目で見てようやく納得しました(笑)。いまでは、お茶を作る時間も1日のルーティンになっています。
――素敵ですね。動きながら休む時間を確保されているのだな、と感じました。
確かに、何か動作をしているのが重要な気がします。マネージャーさんが全部運転してくれて後部座席などに座っている時は、移動が苦痛でした(笑)。電車の中でも、自分の身なりを整えたり身の回りを整理する時間として活用しています。例えばセリフを覚えようとしてもなかなかうまくいかない時、掃除や料理しながらのほうが逆に集中してスッと入ってきたりするんですよね。運転中も同じ効果があるように思います。

――最後に、「キレイノート」恒例の質問をさせてください。“キレイな人”と聞いて、柴咲さんはどんなイメージを思い浮かべますか?
キレイな人、お風呂に入っている人でしょうか(笑)。私は結構鼻がきくので、匂いが合う人を気が合うな、キレイな人だなと感じるところがあるかもしれません。
――車での移動中、香りの面でもリラックスできる空間を作られたりもしているのでしょうか。
お香を積んでいます。車内は狭い空間ですから香りが強いと逆効果なので、置いておくだけでも私にはちょうどいいんですよね。最近、お茶の形をしたお香を買ったのですが、焚く前からちょびっと漂っているなと思い、そのまま積むようにしました。そうするとほのかに香りが漂ってきて、心地よいバランスになりました。

Profile
柴咲コウ
東京都出身。映画『バトル・ロワイアル』で注目を集め、翌年公開された映画『GO』で数々の映画賞を受賞。主な出演作に映画『世界の中心で、愛を叫ぶ』『県庁の星』『容疑者Xの献身』、ドラマ「GOOD LUCK!!」「ガリレオシリーズ」、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」など。
■映画『兄を持ち運べるサイズに』
2025年11月28日(金)公開
原作:「兄の終い」村井理子(CEメディアハウス刊)
脚本・監督:中野量太
キャスト:柴咲コウ オダギリジョー 満島ひかり 青山姫乃 味元耀大
公式サイト:https://www.culture-pub.jp/ani-movie/
X:https://x.com/ani_movie1128
Instagram:https://www.instagram.com/ani_movie1128
©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会
<衣装協力>
チョーカー ¥263,340-(参考価格)
ピアス(右耳) ¥25,960-(片耳/参考価格)
ピアス(左耳) ¥20,020-(片耳/参考価格)
リング(右手) ¥45,870-(参考価格)
リング(左手) ¥80,850-(参考価格)
(5点、avgvst)
※全て税込価格
※その他スタイリスト私物
問い合わせ先:
avgvst
https://avgvstjewelry.com/
スタイリスト/柴田 圭
ヘアメイク/SHIGE(AVGVST)
撮影/須田卓馬
取材・文/SYO
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